鎖でつないで、ここにとどめて

青埜澄

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14話

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 激しさの余韻が残るベッドの上で、しばらくのあいだ、二人は言葉を交わさずにいた。
 室内にはただ、重なるような呼吸の音だけが残っていた。

 靖一は仰向けのまま、片腕を額に乗せるようにして目を覆っていた。ノラの視線がこちらに向いていることには気づいていたが、それに応える気にはなれなかった。

「……お前、死ぬときは海じゃなくて俺のそばにしろよ」

 自分でも思いがけないほど、静かな声だった。低く、けれど確かな輪郭をもっていた。

 ノラが小さく何か言った。聞き返す前に、指先が靖一の腕へ伸びてきた。
 顔を隠していた腕が、そっとはがされる。抵抗しなかった。

「それってさ……“死ぬまで俺のそばにいろ”ってこと?」

 言われてはじめて、さっきの自分の言葉の意味に気づいた。
 心臓の奥に、ぽつんと熱が灯る。
 あんなことを口にするとは思っていなかった。
 それを言わせたのがノラで、言えたのもノラだけだった。

 まだ身体の熱は冷めきっていないというのに、顔のあたりだけが妙に熱くなってくる。

 目を逸らし、視線を壁に向けたまま、靖一は小さく呟いた。

「……そうだよ」

 しばらく沈黙が流れた。

 やがて、布団がわずかに沈み、ぬくもりが寄り添ってくる。
 ノラが胸元に顔を埋めてきた。見えなかったが、肩の動きから、きっと笑っているのだろうと思った。
 どこか泣きそうな顔をしているのかもしれない。けれど、靖一は確かめなかった。

「……じゃあ、ずっとそばにいる」

 その囁きが胸に触れたとき、靖一はゆっくりと目を閉じた。
 それはまるで、静かでささやかな約束みたいだった。

 ホテルの一室はすっかり静まり返り、もうベッドの軋む音さえ聞こえない。
 ただふたりの体温と、呼吸だけが、そこに残っていた。
 まるでこの場所だけが、世界から切り離されているかのように。
 時計の針だけが、小さく、けれど確かに時を刻んでいた。
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