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ない存在、つまり女神様、というわけだ。
転落防止用の高いフェンスに指を絡ませて、女神は外の景色を見つめていた。
「かのんくん」
僕の名前、というかあだ名が呼ばれる。鈴を転がすような、とはこういう声のことだろうか。
ほぼ毎日のようにネット越しの声は聞いているが、生身で直接会話したり、間近で見るのはこれが初めてだ。
「は、はい」
「ごめんね、昨日は。話してる途中で切れちゃって」
夏を感じさせる強い風に、彼女の髪がたなびく。
白いうなじがすぐ近くに見えて、つい昨晩眺めた彼女のアイドル時代の水着姿を重ねてしまう。
昨夜はあれからあのきわどい水着写真集で、ティッシュを2回も・・・・・・
「ええ。そうだと思いました。みんなにはフォローしときましたから」
「ありがとう。昨日のあたし、どうだった?」
「ええ。最後も途中までうまくいってたんじゃないでしょうか。ラストでアルバのバックジャンプブレスにやられなければ、ですが」
「うーん、それなのよね。あれだけ注意されてたのに、ね」
「慣れですよ、慣れ」
「うーん、うまくいかないね」
僕らが話しているのは、ネットゲームの話題だ。
モンスターバスターズ、略してモンバス。国内では評判が高い。いろいろな武器、防具、アイテムを駆使して、強力なモンスターを倒しては自分のキャラが成長していく。
このゲームの難しいところは、単純にキャラクターを鍛えていけばいい、ということではない点だ。操作が煩雑なので、一瞬の油断や操作ミスが命取りになったりする。いい武器、いい防具がすなわちいいプレイヤーではないということだ。
普通のゲームなら、自分がゲームオーバーとなればそれまでなのだが、ネットゲームというのはそうもいかない。他のプレイヤーまで巻き込まれてしまうため、自分のミスがパーティ全体の失敗につながったりする。特に、モンバスは個人でクリアすることが難しく、接近戦にも複数の武器がある。長距離攻撃や偵察・罠重視など、様々なタイプのプレイヤーが集まってクリアすることがコツであり醍醐味だ。
そのため、偶然居合わせる他のプレイヤー、通称野良バスター達と共闘して戦うのは難しい。一見しただけではプレイヤーの技量が分からないからだ。気の合うプレイヤー同士はさっさとパーティを組み、一緒に出かけたりする。あとから始めた新参プレイヤーは、古参プレイヤーから見れば下手クソと罵られることもある。しかし、偶然知り合った人がもの凄く上手かったり、やけに相性が良かったりもする。それもまた、ネットゲームの楽しみである。
高校に受かったことで買ってもらったモンバスを始めて数カ月、かなり上達した頃、ふと野良プレイをしていた時に、始めたばかりのプレイヤー、JJと出会った。
JJは極めつけに下手だった。マニュアルもちゃんと読んでいないようだったし、操作の基本すら出来ていなかった。なのに口調は強がってばかりで、ほとんどのプレイヤーから地雷認定されるような始末だった。
少し前にパーティを解散したばかりだった僕は、たまには初心者の手助けもいいさ、と長い時間JJと遊んだ。
いろいろと教えてやって、それ以来、たまに一緒に遊ぶようになった。JJはまだまだ下手だったが、フレンド認定を送ってやったら素直に受け入れてきた。
だが、弱いモンスターはそれでいいものの、なかなかJJは強いモンスターに歯が立たなかった。プレイしている最中は会話をキーボードで打つのも覚束無いので、細かい点が修正しにくい。
ある時、上位女王バチに3乙したJJに、つい提案してみた。
「なあJJ、おまえSkypeとか持ってる?」
「は?なにそれ」
「電話みたいなもんでさ、プレイ中に実会話したりするやつ。パソコンとかある?」
「あるけど、めんどー」
「無線LANあれば無料でSkypeできるから、ちょっとアカウントとってみて」
「おk」
そこから1時間あまり、拙いキーボードでのやり取りを終えて、僕のSkypeに「marisa」というアカウントから連絡が来た。
繋いでみてびっくりした。JJはずっと男言葉だったので男認定していたんだけど、実は女、それもかなりかわいい声だった。高1の僕よりもやや下くらい、中学生くらいかな、と思った。
Skype通信を初めてからは細かな部分まで会話が成り立つようになり、JJのプレイヤースキルはみるみる上達した。
僕も他のパーティに顔を出すことが減って、ついつい声が聞きたさにJJが来るのを待つことが多くなった。
僕のキャラクター「Canon」が正式にパーティを組んでいるプレイヤーにも十分に紹介できるレベルになり、一緒にハントに出かけたりもした。それでもSkypeでの会話は二人だけだった。なんとなく、他の誰かにこのかわいい声を聞かせたくなかったし、みんなJJのことは男だと思っているようだったし、いまさら教えたくなかった。
つい2週間ほど前、ふとしたことでJJが僕と同じ、地元のスーパーの名前を知っている時に気づいた。
この可愛らしい声、そしてmarisaというSkypeアカウント名。
「ふく・・・・・・かいちょう、さん?」
「あれ?バレましたか?かのん教官はリアルお知り合いさんでしたか?」
「はい、あのう、僕N高の一年生で」
「あら、それは知りませんでした。偶然ですね」
「すみません、先輩とは知らず、いっつも命令口調で」
テレビ画面の前で、なぜか頭を下げてしまう。
「いえいえ、教官は教官ですから。で、誰君ですか?」
「一年C組の今宮といいます」
「今宮くん、ですか。これからもよろしくお願いします」
「こ、こちらこそ!」
そんなわけで、JJとの間柄は微妙に変わった。
でも、それからもゲーム内で待ち合わせては、一緒に狩りを続けている。
転落防止用の高いフェンスに指を絡ませて、女神は外の景色を見つめていた。
「かのんくん」
僕の名前、というかあだ名が呼ばれる。鈴を転がすような、とはこういう声のことだろうか。
ほぼ毎日のようにネット越しの声は聞いているが、生身で直接会話したり、間近で見るのはこれが初めてだ。
「は、はい」
「ごめんね、昨日は。話してる途中で切れちゃって」
夏を感じさせる強い風に、彼女の髪がたなびく。
白いうなじがすぐ近くに見えて、つい昨晩眺めた彼女のアイドル時代の水着姿を重ねてしまう。
昨夜はあれからあのきわどい水着写真集で、ティッシュを2回も・・・・・・
「ええ。そうだと思いました。みんなにはフォローしときましたから」
「ありがとう。昨日のあたし、どうだった?」
「ええ。最後も途中までうまくいってたんじゃないでしょうか。ラストでアルバのバックジャンプブレスにやられなければ、ですが」
「うーん、それなのよね。あれだけ注意されてたのに、ね」
「慣れですよ、慣れ」
「うーん、うまくいかないね」
僕らが話しているのは、ネットゲームの話題だ。
モンスターバスターズ、略してモンバス。国内では評判が高い。いろいろな武器、防具、アイテムを駆使して、強力なモンスターを倒しては自分のキャラが成長していく。
このゲームの難しいところは、単純にキャラクターを鍛えていけばいい、ということではない点だ。操作が煩雑なので、一瞬の油断や操作ミスが命取りになったりする。いい武器、いい防具がすなわちいいプレイヤーではないということだ。
普通のゲームなら、自分がゲームオーバーとなればそれまでなのだが、ネットゲームというのはそうもいかない。他のプレイヤーまで巻き込まれてしまうため、自分のミスがパーティ全体の失敗につながったりする。特に、モンバスは個人でクリアすることが難しく、接近戦にも複数の武器がある。長距離攻撃や偵察・罠重視など、様々なタイプのプレイヤーが集まってクリアすることがコツであり醍醐味だ。
そのため、偶然居合わせる他のプレイヤー、通称野良バスター達と共闘して戦うのは難しい。一見しただけではプレイヤーの技量が分からないからだ。気の合うプレイヤー同士はさっさとパーティを組み、一緒に出かけたりする。あとから始めた新参プレイヤーは、古参プレイヤーから見れば下手クソと罵られることもある。しかし、偶然知り合った人がもの凄く上手かったり、やけに相性が良かったりもする。それもまた、ネットゲームの楽しみである。
高校に受かったことで買ってもらったモンバスを始めて数カ月、かなり上達した頃、ふと野良プレイをしていた時に、始めたばかりのプレイヤー、JJと出会った。
JJは極めつけに下手だった。マニュアルもちゃんと読んでいないようだったし、操作の基本すら出来ていなかった。なのに口調は強がってばかりで、ほとんどのプレイヤーから地雷認定されるような始末だった。
少し前にパーティを解散したばかりだった僕は、たまには初心者の手助けもいいさ、と長い時間JJと遊んだ。
いろいろと教えてやって、それ以来、たまに一緒に遊ぶようになった。JJはまだまだ下手だったが、フレンド認定を送ってやったら素直に受け入れてきた。
だが、弱いモンスターはそれでいいものの、なかなかJJは強いモンスターに歯が立たなかった。プレイしている最中は会話をキーボードで打つのも覚束無いので、細かい点が修正しにくい。
ある時、上位女王バチに3乙したJJに、つい提案してみた。
「なあJJ、おまえSkypeとか持ってる?」
「は?なにそれ」
「電話みたいなもんでさ、プレイ中に実会話したりするやつ。パソコンとかある?」
「あるけど、めんどー」
「無線LANあれば無料でSkypeできるから、ちょっとアカウントとってみて」
「おk」
そこから1時間あまり、拙いキーボードでのやり取りを終えて、僕のSkypeに「marisa」というアカウントから連絡が来た。
繋いでみてびっくりした。JJはずっと男言葉だったので男認定していたんだけど、実は女、それもかなりかわいい声だった。高1の僕よりもやや下くらい、中学生くらいかな、と思った。
Skype通信を初めてからは細かな部分まで会話が成り立つようになり、JJのプレイヤースキルはみるみる上達した。
僕も他のパーティに顔を出すことが減って、ついつい声が聞きたさにJJが来るのを待つことが多くなった。
僕のキャラクター「Canon」が正式にパーティを組んでいるプレイヤーにも十分に紹介できるレベルになり、一緒にハントに出かけたりもした。それでもSkypeでの会話は二人だけだった。なんとなく、他の誰かにこのかわいい声を聞かせたくなかったし、みんなJJのことは男だと思っているようだったし、いまさら教えたくなかった。
つい2週間ほど前、ふとしたことでJJが僕と同じ、地元のスーパーの名前を知っている時に気づいた。
この可愛らしい声、そしてmarisaというSkypeアカウント名。
「ふく・・・・・・かいちょう、さん?」
「あれ?バレましたか?かのん教官はリアルお知り合いさんでしたか?」
「はい、あのう、僕N高の一年生で」
「あら、それは知りませんでした。偶然ですね」
「すみません、先輩とは知らず、いっつも命令口調で」
テレビ画面の前で、なぜか頭を下げてしまう。
「いえいえ、教官は教官ですから。で、誰君ですか?」
「一年C組の今宮といいます」
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そんなわけで、JJとの間柄は微妙に変わった。
でも、それからもゲーム内で待ち合わせては、一緒に狩りを続けている。
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