ふたりでゲーム

るふぃーあ

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クラブハウスを出て、時計をちらっと見る。時刻は20時32分。
さすがに、もう女神も諦めて帰っているだろう。結局メールする暇もなかった。
薄暗くなった電灯の下、静まり返った自転者置き場に着く。やはり誰もいない。
カタン、とスタンドを上げ、門を出た。

「かのんくん?」

門のすぐ外に、女神がカバンを下げて立っていた。
こんな時間なのに。もう外も暗いのに。

「・・・・・・センパイ、こんな時間まで」
「ううん、そうじゃないの。生徒会の会議が遅くなってしまって、逆にかのんくんが帰ったかと心配で」

嘘だ。なんとなくそう思った。

「すみません、遅くなりました」
「いいの。一緒に帰ろ」


たぶん、ずっと待ってたんだ。
明日になればたぶん分かる。『女神が校門で誰かをずっと待ってた』となれば、明日はその話題でもちきりになるだろうから。
いや違うな。明日は土曜日だから、月曜日か。そうなったらもう、みんな忘れてくれているかもしれないな。

「遅かったんだね」

自転車を引く自分に並んで、女神は歩く。徒歩通学だそうだ。

「ええ。急遽ミーティングがありまして」
「そっか。大変だったんだね」
「そうでもありません。剣道は好きですから」
「そうだね。かのんくんは大剣使い、だもんね!」

なんとなく嬉しそうに言う女神。ぶんぶん、と両腕を振り回す。

「校門で待ってたりして、いっぱい声とかかけられませんでした?」
「ん?うーん、ちょっと」

女神は親指と人差し指で、宙に小さな隙間を作る。
きっと大勢に聞かれたんだ。誰と待ち合わせ?とか。

「生徒会の会議も、大変だったんでしょうね」
「え?ええ。主に修学旅行のこととか、夏休みのこととか、だけどね」

そんなことで、こんな時間になるんだろうか。

「今年は二年生はどちらへ?」
「沖縄ってことになったの。海外って意見も多かったんだけど、円安だしね。でもほら、新型インフルエンザとかも流行ってるし」
「一人でも罹患したら大変ですもんね」
「そうそう。今厳しいから、日本に帰って来れなくなっちゃう。だから、今年は国内で、ということになったの」
「沖縄かあ、行ったことないです」
「私は何度か行ったよ。とってもいいところ。仕事で、とか・・・・・・」

ふいに声が小さくなる。モデルの仕事で、ということだろうか。自分で言ってしまって言い淀んでいる。
あまり楽しい仕事の思い出ばかりではなかったのだろう。
僕が持っている彼女の昔の写真集にも、沖縄やサイパンで撮影、とかあった気がする。

「うちは忙しいんで、なかなか遠くへは連れてってくれませんね。親の仕事がそういうところだったらいいなあ、とか、小さい頃よく考えましたよ」

ちょっと苦しい相槌を打つ。

「・・・・・・そうだね。でも、実際に行くと大変なんだよ。お仕事のスケジュールがいっぱいで、全然観光とかできないの。朝早くからお化粧の時間、とか・・・・・・」

また言い淀む。むかしの話はあまりしないようにしているのだろう。

「プロですから仕方ありませんよ。むしろ、他の人と違った楽しみかたができて良かったじゃないですか。これから普通の人の楽しみ方をすればいいんです」
「・・・・・・そうだね」

カラカラとチャリを引く音が、薄暗く細い道に響く。ちょっとクサい台詞だったか。

「かのんくん、優しいね」
「へ?いえ別に僕は」
「優しいよ」

言いようのない感情が、胸の奥から上にあがって来た。
きっと変な顔になっているに違いない。暗い道で良かった、と思う。

「えーと、しゅ、修学旅行、かあ。僕らはどこだろうなあ」
「一年生は京都・奈良って言ってたよ」
「えーっ、中学と一緒じゃないですか」
「私達も、一年のときはそうだったよ。でも、楽しかったよ?」
「もう、仏像だのお寺だのは勘弁ですよ・・・・・・」

別に神社仏閣が嫌いではないが、あの集団行動というか、意味なく団体でだらだらと過ごす時間は無駄が多い。一般客にも迷惑だろう、といつも思う。

「あはは。かのんくんは、もっと楽しいところの方がいいのかな?好きな女の子と回ったり、とか」
「その話題、お好きですね。いませんので大丈夫です」
「あれでも、ちょっと前にこの道を女の子と走ってるところ、見かけた気がするけど?」

美沙のことだな。

「あれは、同じマンションの腐れ縁住人です。一応あれでも女なんで、遅くなると親御さんが心配するんですよ」
「わーひっどーい、一応だなんて。とっても可愛い子だったよ?」
「センパイに言われると、たぶん誰でも傷つくと思いますよ、その台詞」
「そ、そうかな・・・・・・」

道は大通りに出て、自分はここを右に曲がって行く。女神は大通りを渡って直進だ。

「じゃ、僕ここ右なんで。すみません、遅くなってしまって」
「ううん、いいの。あのさ、かのんくん・・・・・・」

ちらっと腕時計を見る。20:52。女子高生には遅い時間だ。家族も心配されているだろう。

「・・・・・・もうちょっと話がしたいの」
「ええ、僕は構いませんよ。でも、時間、大丈夫ですか?」
「うん、お姉ちゃんに頼んであるから。お母さんは偏頭痛で早めに寝てるし。あ、かのんくんは?」
「うちはいろいろあって、母親はだいたいいつも1時回らないと帰って来ません。父は単身ですし」
「そっか。じゃあ・・・・・・」

大通りをヘッドライトを点けた車が通り過ぎて行く。もうすっかり夜だ。
自転者を止めたまま、女神の言葉を待つ。なにか言いたいことがある、昼もそう言っていた。道端で言えるような、軽い話題ではないのだろう。

時折トラックが轟音で通り過ぎていくこの場所は、あまり話のしやすい環境とは言い難い。
でも、昨日の今日で彼女の家に行く訳にはいかないだろうし。さすがにお姉さんも怒るだろう。

こんな時間に高校生が学生服着用のまま喫茶店で二人、というのもおかしい。かと言って、コンビニで話すのもあれだし。
残るのはカラオケボックスとか?あまり行ったことがないが。

「・・・・・・かな?」
「え?何です?」

トラックよ、うるさい。聞こえないじゃないか。

「かのんくんち、ちょっとだけ行っても、いいかな?」

一瞬躊躇する。
昨日の今日だ、バレたらやっぱりお姉さんは怒るだろうな。
部屋は一応大丈夫、先週掃除したばかりだし、ヤバい本などは全て隠してある。

「はい。じゃあ、2ケツしていきますか」
「にけつ?」
「後ろに乗って下さい。遠いんで」
「うん。・・・・・・ありがと」

女神が、おずおずとチャリのうしろに座る。
ああ、女神を乗せてあいのりできるなんて、夢みたいだ。

「先生に見つかったら大変ね」
「こんな時間だし、大丈夫じゃないかと」
「うん。じゃあ、よろしくね」

姫神センパイを後ろに乗せて、僕は自転車を漕ぎ始めた。

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