ふたりでゲーム

るふぃーあ

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「ただいまー」

誰もいない家に向かって、一応言ってみる。予想どおり、母親のパンプスもなかったし、人けは一切ない。

「お邪魔、しますー」

後ろから女神が、これまた誰ともなしに言う。
大して広くもない5DKだが、事実上母親と二人なのでずいぶん広く使えている方だ。階下の美沙の家は、きょうだいの数が多い分、もうちょっと狭い。

「すみません、リビングあまり片付いてなくて。僕の部屋でもいいですか?」
「うん、ごめんね、突然お邪魔しちゃって」
「こっちもあんまり片付いてないですけど」

一旦女神を部屋に通す。
・・・・・・大丈夫、それなりに片付いている。先週母親に大掃除させられたことを、今は感謝だ。
いつもは女神のジュニアアイドル写真集が本棚に立ててあったりするが、今日は片付けられている。

「ちょっと飲み物持って来ますんで」

すぐにリビングへ引き返し、冷蔵庫からアイス紅茶を出してコップに入れる。
母親がお菓子を買わない方針なので、つまむものはほとんどない。

「お待たせしました」

右足でドアを開け、小さいテーブルにストローを添えて出す。

「ありがとう」
「いえいえ」

エアコンのスイッチをピッ、と入れる。すぐに冷気が流れ出して来て、ムシムシした部屋の温度が下がり始めた。
女神はキョロキョロと、面白そうに部屋の中を眺めている。とはいえ、殺風景な部屋なので机とベッド、本棚、タンスくらいしかないが。

「男の子の部屋って、もっと散らかってたり、ニオイがしたりするもんだと思ってたけど」
「偶然先週片付けたばかりなんです。普段はもっと散らかってます」
「ヌードポスターが貼ってあったりとか、エロフィギュアが飾られてたりとか、アニメキャラの抱き枕とか」
「・・・・・・どんな想像してたんですか」
「美沙さん、だっけ?が遊びに来たりするとか?」
「小5の頃に来たのが最後です、たぶん」

実は、先週片付けたのは、美沙と美沙の母親が来るというので、念のため、と母親に無理矢理片付けさせられたりしたわけだが。
美沙のお母さんは今でも、僕の事を将来の旦那さま、とか呼んでいる。いやありえないのだが。
その時も結局、美沙はリビングに入っただけで、僕の部屋までは来なかった。
女神のポスターもその時に剥がしました。ごめんなさいセンパイ。

「ゲーム機もないね」
「ゲームはリビングで、という方針なんです。やりすぎないように」
「いいお母さんだね」
「放ったらかしにされてますがね。まあ、そのお陰でセンパイに来てもらえたわけですが」
「うん・・・・・・」

女神は下を向いて少し黙り込む。
沈黙がやや長い。

「えーと、修学旅行ですよね。沖縄ですか。いいですね。泳げそうだし」
「あっちは冬以外、いつも泳げるらしいよ。それでも春は寒いみたいだけど」
「センパイの水着姿とか見れるんでしょうね。二年の先輩が羨ましいですよ」
「そ、そんなことないよー」

なんとなく、恥ずかしそうな女神様。
またひととき、沈黙が支配する。

「・・・・・・お昼に、言ったことなんだけど」
「ええ」
「ちゃんとごめんなさい、って言いたかったの」
「ちゃんと伝わってますし、センパイが謝ることじゃありませんよ。男の性質、ってやつです」
「優しいねかのんくん。・・・・・・で、そういう関係はその、なるつもりはないってことを、言わなくちゃ、って」
「それも伝わってます」

一口、自分で入れた紅茶を飲む。
女神もストローの袋を開けて、そっと口に運ぶ。
・・・・・・一瞬、あのストロー残しとこう、とか邪心を抱いた僕は、やっぱりバカだ。

「誤解しないで欲しいの。かのんくんのことが嫌いとか、そういう意味じゃないの。男の子として見れない、とか、そんなのでもない。かのんくんとお話しするのはとても楽しいし、その」
「はい」
「その、言っちゃダメなんだけど、今度一緒にモンバスフェスタ行こうって誘った時も、デートみたいな感じだなあって、とっても嬉しかったし」
「男嫌いって噂を聞いたこともありましたけど、違うんですね」
「うん、本当は普通の恋愛とかもいいなあーって思うし、友達のデートの話とか聞くととても羨ましい。でも、ダメなの」
「何がです?」
「私は、かのんくんにふさわしいような女じゃないの」

なんだか、暗い表情だ。
普段、あまりこういう顔は見たことがない。

「・・・・・・それは、センパイが決めることじゃない気がしますが」
「でも、本当なの。・・・・・・本当の事を知ったら、かのんくんも引くと思う。絶対に。もう、口もききたくないとか思うだろうし」
「そんなことは絶対ないです」

冷えすぎないよう、冷房のスイッチをちょっと設定しなおす。

「ううん、間違いなく。私は、そんなふうに思われるのが嫌で、なるべく人と深く付き合うのはダメだって自分に言い聞かせてきた。本当の私を知ってしまったら、友達も、学校の人も、生徒会の人達もみんな私のことをそういう目で見るって。それが怖かったの。だから」
「誰ともつきあわなかった?」
「そう。こんな汚れた私は、もう人と触れ合う資格もない、そうずっと言い聞かせてきたから」

女神は俯きながら、話を続ける。

「・・・・・・かのんくん、もし嫌じゃなかったら」
「何も嫌じゃないですよ」
「昨日みたいに、ぎゅってしてくれるかな。・・・・・・違うね。ちゃんと言うよ。教官、ぎゅってしてください。背中を、ぎゅうっ、て」

僕は女神の手を取った。
女神は立ち上がって、促されるようにベッドの淵に座った。その後ろに回り、その細い背中を見つめる。

「あの、最初に断っておきますが」
「何でしょう?教官」
「かのん、でいいです。・・・・・・あの、その、一般的な男としていいますが、生理現象というか、どうしても出っ張っちゃうモノがあるっていうか」

ぷっ、と女神は吹き出す。

「大丈夫、ちゃんと分かってますよ。かのんくん。気にしなくていいです」
「じゃ、遠慮なく」

僕はベッドの上に座り、女神の両肩を背後から抱きしめた。
もう二度とない機会かもしれないし、と鼻先を女神の右耳の後ろのうなじに差し込む。とてもいい香りがした。

「ああ・・・・・・この感じ・・・・・・あったかい・・・・・・」

すぐ近くで、女神の吐息が聞こえる。
すでに股間は自己主張を始めていて、ちょっと焦る。
でも気にしないと言っていたし、どうせなら、と柔らかなお尻にぴったりと当てた。
途端に暴発の不穏な気配がして、慌てて他に注意をそらす。

「かのんくん、これから話すこと、誰にも話さない、と約束してくれますか?」
「ええ、もちろんです」
「家族にも、ですよ?」
「当然です」
「美沙さんにも、ですよ?」
「最初から話すつもりもありません」
「もし将来誰かと結婚しても、黙っておいてくれますか?」
「お墓まで持って入ります」
「あはは。本当に優しいんですね。ありがとう」

女神は少し、目頭を拭った。

「これから話すことは、とっても嫌なことです。私のことを嫌いになるだろうし、軽蔑するだろうし、今はぎゅってしてくれているけれど、嫌になって放してしまっても構いません。全て私のせいですから」
「もう、一生ぎゅってしていたいです」
「私はとても弱くて、臆病で、卑怯な女です。かのんくんの顔を見ながら話せないから、ぎゅってしてもらわないと、話もできないから」
「こんなのでよければ、いつだってどうぞ」
「ちょっと支離滅裂になったり、泣いちゃったりするかもしれませんし、お聞き苦しいところもあるでしょうが、ごめんなさいね。あらかじめ」
「大丈夫です」
「では、家族以外には世界で初めて、かのんくんにだけ聞いてもらいます。学校の人はみんな私のことを女神とか呼んでくれるけれど、私がどれだけ汚れた、ひどい女であるか、を・・・・・・」

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