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しおりを挟む徐々に振り出した雨が本降りになり、長い夜の雨のように続く。
軒下で待っている人には、永遠に終わらない時のように感じるような雨。
それもやがて、徐々に、徐々に小雨に変わっていく。
女神は何度も涙を拭った。永い時間を経て、しゃっくりもとまる。
「・・・・・・ああ、言いたいこと、全部言えてすっきりしちゃった。もう、本当に嫌な女で、我ながら嫌になっちゃうよ」
「・・・・・・あの、センパイ」
「正直ね、こんな私でも、なんて思っちゃう事がたまにあるの。でも、どうしても最後には言えないってことがずっと続いてた。あはは。なんでかのんくんには言えちゃったんだろうね」
「センパイ、あの」
「こんな私だけど、誰かの役に立つんだたら、そう思ったりするの。だから、昨日かのんくんがぎゅってしてくれた時、もう本当の事は全部黙ってて、かのんくんがアレだったら、その、もしそういうことがしたかったら、そのままされちゃってもいいかなっとか、ちょっと思ったりしちゃった。かのんくんは私が初めてじゃなくてガッカリするかもしれないけど、少なくとも血まみれになっちゃったりはしないし、痛がらないかもしれないし」
「センパイ、ちょっと話を」
「でね、こう言うの。『かのんくん、犯罪だよ?でも警察には言わないから、この事は二人だけの秘密だよ、絶対にね』かのんくんなら、なんとなく信用できる気がしちゃったから。でもだめだよね。こんな病気持ちの汚い女なんて。かのんくんが汚れちゃう」
「・・・・・・あの、僕は一体どういう目でセンパイに」
「あーーーすっきりしちゃった!」
パッ、と音を立てて女神は立ち上がった。ベッドサイドに立ち、スカートをぱんぱん、と払い、うーん、と大きく伸びをする。
「本当にすっきりです。あのねかのんくん、僕なら気にしませんよ、受け止めてあげますよ、とかそういうの禁止。絶対にダメですよ?認めませんから。高校一年生がそんな事言っても私は認めませんからね?」
「いやあの、センパイ、だから」
「かのんくんに望むことは、明後日の日曜日に一緒にモンバスフェスタに行ってくれること、ペアで優勝してくれること、です。それ以外は全部お断り、です」
くるりとこちらを振り返る。眼はウサギのように真っ赤だが、表情は晴れ晴れとして気持ちのいい笑顔だ。
「・・・・・・立候補もできませんか」
「できません。あなたの限りない将来は、もっといい女性に出逢うためにあるのです。美沙さんか、他の誰かこっそり好きな人か、少なくとも私の席はかのんくんの隣にないことは確かなのです」
「断言されても」
「さあ、これで言いたいことは全部言えました。あとは日曜日、よろしくお願いしますね、Canon教官!」
ガチャリ、と玄関から音が聞こえた。
「ただいまー。なおき帰ってるの?・・・・・・あら?」
そうか、女神のリーガルが玄関に置きっぱなしだ。
「お帰り母さん。あの、ちょっとお客さんが来てて」
部屋越しに言うと、母親はあら、と話しかけてきた。
「あらら、こんな時間に?もしかしてこの靴、女の子かしら?なおきあなた、もしかして、ひょっとして」
「ちゃんと出ていくよ」
慌ててベッドから起き上がると、出て行こうとした女神に先んじて部屋を出る。
やや散らかったリビングでは、エコバッグを下げた母親が突っ立っていた。
「あら、ちゃんと服着てたのね直樹。お母さんちょっと逃げ出さなきゃなんないかと思ってたわ。・・・・・・あら?」
ぱちくり、と母が目を丸くする。
母親の目が大きく見開かれる。そりゃ、こんだけの美少女が息子の部屋から出てきたら、何かの冗談だと思うだろうな。
「夜分遅くにお邪魔しております、お母様。わたくし、生徒会役員の姫神、と申します。こんな時間までお邪魔をしてしまいまして、本当に申し訳ございません」
母はテンパるでもなく、冷静にいえいえ、あらあら、と意味不明の返事をしていた。
「あららまあ、お人形さんみたいに可愛い子ね。ひょっとして美沙ちゃんじゃない子だったら、と思って名前呼ばなくて良かったわ!今晩は、ええと、姫神さん。ご丁寧にありがとう」
「なまえ言ってるじゃねーかよ!だいたいなんで、いつもみんな美沙なんだ」
「やっぱり美沙さんが第一候補なんですね。今宮君はいつも否定するけれど」
「センパイ、だから、美沙は」
「あらら、ごめんなさいね姫神さん。ああ、ひょっとして!うちの子のことを気にいってくれてたりとか!?」
夜中にハイテンションになる、うちの母親。静かにしろ。
「いえ、とんでもありません。そんな事を言ったらたくさんの女の子に恨まれてしまいます」
「・・・・・・んなわけない」
「今日は生徒会の打ち合わせが長引いてしまいまして、先程まで他の役員さんもお邪魔させていただいていたのですが、私だけ帰りそびれてしまいまして」
「まあまあ、お世辞までお上手で。うちのバカ息子が不始末をしでかさなかったか、母親としてはとても心配だわ。こんなのと二人っきりで、何かされなかったかしら?」
「やけに信用のない息子だな」
「いえ、今宮君は本当に紳士ですから。とても話が楽しくて、ついつい長居してしまいました。・・・・・・では、遅い時間でもありますので、これでおいとまさせて頂きます。本当に遅くまで申し訳ありませんでした」
「いえいえ。何もお構いもせず、こちらこそ恐縮だわ。・・・・・・姫神さん、今度また是非、日曜日にでもいらして下さいね。私は平日あまりいませんので、こんなバカ息子で良かったら毎日でも自分の家だと思って来てあげて下さいね。ああでも、もし身の危険を感じるようなら、いつでも遠慮なく警察か私の携帯に」
「出さなくていい!てか番号交換してんなよ!」
「母親としては、あんたが不埒な行為に及ばないかが心配でならないわ。直樹、これからも失礼のないようにね。ほら、ちゃんと家までお送りしなさい」
「わーってる」
「それでは、お休みなさい、お母様」
「素敵なお母様ね」
彼女の家の付近まで来てから、なんとなく二人乗りをやめて、彼女を降ろし、チャリを押して歩く。
彼女の左手は、僕の右手を掴んだままだ。
「ミーハーなんですよ。いい歳になって」
「とっても息子さん思いなのね。毎日が楽しそう」
「普段はもっと遅いこともあるし、顔合わさないことも多いんですよ」
「そうなの?あんなに楽しいお母様なのに」
女神はもうすっかり泣いた跡も消えて、普段通りの美しい瞳で夜空を見上げていた。
「もう、真夜中だね・・・・・・」
「怒られますよね、さすがに」
「お姉ちゃんに、勝手口から入れてもらう。今日はパ・・・・・・お父さんも早く寝ちゃったみたいで、私も9時頃帰って来たってことになる予定だし」
「明日は休みですからね」
「うん。しっかり朝寝坊しちゃう」
誰もいない夜道に、女神は右手のVサインを突き出した。
今日はなんだか、たくさんのことがあった気がする。剣道部、お昼の屋上での話、そしてさっきの話・・・・・・
「センパイ、僕」
「あ、もうすぐそこだ。ありがとうかのんくん。もうここで帰りなさい」
「センパイ、僕は」
門扉を少しだけ開き、女神は中に入っていく。僕の手を繋いだまま。
再び、頬に感じる柔らかい感触。
「かのんくん」
女神の、まっすぐな瞳。
まるで吸い込まれそうだ、そう思った。
「・・・・・・今はこれが、精一杯のありがとう、なの」
今日のこれは夢じゃない。二度目は夢じゃない。
「日曜日、来てくれる?それとももう、会うのも嫌になっちゃった?」
「もちろん行きますよ」
「ありがとう。絶対、優勝しようね!送ってくれてありがとう。気をつけてね!」
そういうと、女神は暗闇に消えていった。
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