後輩のカノジョ

るふぃーあ

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<入院4日目>

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<入院4日目>

「本当に、ほんっとうに、ごめんなさい!」
「もういいですから」

ぴょこん、と下げた小さな頭。
ストレートの黒髪が、頭と一緒に揺れる。

彼女の名前は元坂舞(もとさか まい)。
元坂商事の社員にして秘書、そして元坂社長の孫だ。

俺を階段から突き落とした張本人でもある。

いつも見積書をじろり、と睨みつけ、その後ぎろり、と顔を睨みつける頑固者で有名な元坂社長だが、この件では申し訳ない、と何度も繰り返し、俺を病院の有料特別室へ入れてくれた。
俺と一緒に階段から落下した、社長秘書こと孫娘も足をくじいていたらしく、4日経ってから謝罪に現れた。

「おじいさ・・・・・・いえ社長が、ちゃんと謝罪して来なさいって」
「だから、もういいですって」

元坂舞。
小柄で若い。大卒、いや短大卒だろうか。まだ20そこそこに見える。というか目鼻立ちもすっきりとして、高校生でも通りそうだ。
背丈は160センチないくらいだろう。タイトスカートから覗く脚なんて、細くて折れそうに見える。よく捻挫で済んだものだ。

「秘書さんも捻挫したんですよね。お大事にして下さい」
「宮田さんが下敷きになってくれなかったら、骨折してただろうって言われました。だから、しばらく宮田さんのお世話をしてこいって」
「結構です。こう見えても28歳ですから、だいたいのことは自分でできます」

なんだかイライラした。
誠実に謝る、というのはいいが、何度も頭を下げられるとかえって鬱陶しい。早くひとりにしてくれ。高梨さんが来てくれるかもしれないし。

「あの、困ること、とかは」
「だからないですって」
「で、でも」
「じゃあ、シャワーとかトイレとか、介助してくれるんですか?失礼ですが、看護師さんでもないし、見た目細そうですし、俺によりかかられたらコケちゃいますよね」
「そ、それは・・・・・・」
「あなたにできることってありますか?ありませんよね?」
「は、話し相手、とか」
「要らないです。ていうか話すことなんてないし」

俺は元々、女子と話すのは苦手だ。高校は男クラだったし、女子と気軽に話をすることなんて無理だ。

「できることならなんでもします!でないと、おじいさ・・・・・・社長に叱られてしまいます」
「それさっきから言ってますけど、あなたが気にしているのは社長に叱られるから、ですよね?あなたが僕に何かしたい、と思ってるわけじゃないでしょ?」

これは言い過ぎたか、元坂嬢は少し黙った。

「自分がそうしたいんです。人の役に立てる人間になりたい、そう思ってましたから。迷惑をおかけして、骨折なんてさせてしまって、申し訳なくて」
「・・・・・・じゃ、して下さい」
「え?」
「何でもしてくれるんですよね。困ってることがあるんです」
「なんですか!?ぜひさせて下さい!」

目を輝かせ、元坂嬢はベッド柵に飛びついてきた。
俺は左手で、下半身を指差す。

「手が使えなくて困ってるんですよ、ここ」
「え?あ、おしっこですか?」
「違います。オナニーです」
「おな、に?」

知らないのかオナニー。
なんか箱入り娘っぽいし。

「男の、自慰行為です。知ってますよね」
「あ、あの」
「パンツ下ろして、チンコしごいて下さいよ。左手だとうまくいかないし、精液がティッシュに受け止めきれないんです。なんでもするって言いましたよね?」
「う・・・・・・」

元坂嬢はおずおずと、俺のトランクスに手を伸ばした。
だが俺の体重、特に腰を持ち上げることなどできず、また勃起しているのでうまく下がらない。

しかし、偶然トランクスの裂け目からチンチンが躍り出た。病室の天井を向いて屹立する。
ひっ、と彼女が息を呑む。

「手でして下さい」
「・・・・・・」
「口でもいいですよ」
「く、くち、そんな」
「なんでもするんですよね?」
「え、え、え」

元坂嬢は、キッと俺を睨みつけた。

「え、えっちなのはだめです!」



あーあ、やり過ぎたかな。
孫娘は今頃、爺社長に言いつけているだろうか。性的な行為を要求された、と。

あの社長、怒っているだろうな。ここへ怒鳴り込んでくるかもしれない。
逆ギレしてやろうか。なんでもするって言ったから頼んだだけだ、と。

いや、うちの社長にも言いつけられたらどうする。下手すると契約破棄、俺は降格か。セクハラで訴えられたらクビもあり得る。
夜の検温が終わった病室で、俺は見るともなく部屋のテレビを眺めていた。

ノックの音。

「失礼しまーす」
「高梨さん?」
「お休みでしたか?」
「いえ、まだ起きてました。今日は非番日じゃ」

音を立てないよう、するりと入ってきた。かちゃ、とドアが閉まる。

「宮田さん、スイカ、食べませんか?」
「おお、いいですね」

ベッドサイドに赤いスイカが並んだ。
スイカは大好物だ。左手で食べられるよう、細く小さめに切ってくれてある。

「買ってきてくれたんですか?」
「いえ、一昨日実家から届いて。冷やしてありますから」
「じゃ、遠慮なく」

しゃり。

うーん、よく冷えていて美味い。
自分ひとりじゃ買わないから、食べるのは数年ぶりだ。味気ない病院食ばかりだから、ますます胃に染み渡る。

「うまいっすね。よく熟れてて」
「うちの実家で作ってるんです。毎年送ってくれるんです」
「いいなあ。俺もスイカ農家に生まれたかったです。大好物なんで」
「本当ですか?良かった」

実は、とスイカを食べながら、高梨さんが話してくれた。

今日、本当は辻村に会うつもりだったらしい。だからスイカを冷やしておいた。
だが、なかなか連絡がつかず、夕方連絡がついたが夕食はもう食べたから、と断られたらしい。

「それに、亮くんはスイカ嫌いだって」
「あいつ・・・・・・」

偏食だとは思っていたが、彼女の、しかも実家から送ってもらったものを断るとか、どういう神経をしているんだ。
しゃこしゃこ、と俺は盛大に食べた。どうせ切ってあるんだし、残す必要もない。

「なまもの持ち込むとか、病院にバレてもいいんですか?」
「絶対ダメです。でも、なんだか宮田さんに食べもらいたくて」
「嬉しいです。スイカ数年ぶりなんで特に。生まれてから一番美味いスイカって気がします」
「良かった。ありがとうございます」
「こちらこそ」

ふたりして、大量のスイカを平らげた。
あー、美味かった。

スイカの皮やタネを片付けると、高梨さんはゴミ袋へとしまった。

「あの、亮くん、辻村さんのこと、なんですけど」

高梨さんは、暗い病室で訥々と話した。

最近、なかなか会えないらしい。連絡がつかなかったり、予定していてもすっぽかされたり。
自分も交代勤務で忙しく、夜勤明けに会うのをドタキャンしたりしたこともあったという。それで辻村が怒ってLIMEに返さなかったりしたそうだ。

「私も悪いんですけど、どうしても体調が良くない時もあって」
「看護師さんは激務ですからね」
「亮くん、マッチングですぐ連絡くれて、最初の頃すごく優しかったんです。明るいし、勤務とかも気遣ってくれて、無理しなくていいよって・・・・・・でも最近、なんだか冷たく感じるんです。ふたりでいる時もスマホ見てるし、料理作ったよって来ても、コンビニ弁当買って食べてたりとか」
「・・・・・・」
「宮田さん、辻村さんとは長いんですよね?」
「あいつが新人の時から指導してます」
「本当は、別に彼女がいるんじゃないかって思うんです。違いますか?」
「・・・・・・」

辻村のことだ。
高梨さんは落とした女扱いして、今頃別の女に手を出しているんだろう。セフレが複数、とか言ってたし。

「・・・・・・いるんですね」
「いや、そんなことはないと思う。俺が抜けて忙しいんだよ。うちの部署、鬱で休んでる人とかいて、人少ないし」
「やっぱりダメなのかなあ。いつも付き合うと、最初はみんな優しいんです。でもすぐに浮気されたり、もう飽きたって言われて」
「俺だったら、高梨さんみたいな人がいたら、ずっと一緒にいたいですけどね」
「え?」

しまった。ストレート過ぎたか。
彼女はふふ、と笑う。

「優しいんですね、宮田さん」
「素直な気持ちを言っただけです」
「嬉しいですよ。そういうの。・・・・・・誰か来ちゃうかもだから、これで失礼しますね」
「スイカ、ご馳走さまでした」
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