伯爵令嬢の懐刀 ~私の覚悟は何だったんでしょうか、殿下~

aihara

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プロローグ:婚約者が柩を抱えて帰ってきました

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「すまない、キャシー。
 僕たちの婚約は無かったことにしたい」
 なるほど、これが婚約解消ですか。
 頭を下げる婚約者に、特に感慨があるわけでもない。
 ただただ夢から覚める…いや幻覚がなくなるという感覚でいた。
 
 私は、キャシー・ノウゼン。
 アガリスタ王国・ノウゼン伯爵家の長女で、本来なら私が婿養子をとって家を継ぐはずが、ある特殊な事情でやむなく・・・・、私が王太子の婚約者だった。
 いや、事情というほどでもなく、王太子と釣り合う年齢の貴族女性の中で私が一番高位貴族だというだけだ。
 なぜか王太子が生まれた前後数年、ノウゼン伯爵家以外の高位貴族に娘がいなかった。
 というのも、隣国で権力と自身の美貌に狂った王妃が、娘である王女をいびり出した上、森で静かに暮らしていた王女に毒を盛って殺そうとした罪で投獄される事件があったのだが、その王妃が自分以上の美貌をもつ娘が産まれないよう、自国に魔法をかけた。
 迷惑な話、それが隣国であるアガリスタ王国でも一時的に影響を受けてしまい、高位貴族に子供、特に女児が産まれなくなってしまった。
 私の母は、ある魔法使いの血筋で、しかも隣国出身であることから、隣国王妃の雑な魔法を跳ね返し、女児が生まれれば、高位貴族から婿養子がとれるなんて皮算用して私を産んだらしい。
 ただ、それが応えたのか私はかなりの難産で、あまり余裕のある家でも無いから、一人娘となってしまった。
 まさか、ノウゼン伯爵家以外の高位貴族に娘ができないために、王太子の婚約者になるなんて…

 王太子殿下は適齢期の私より二つ年上で、他の婚約者候補としては、ジュレミー公爵家の次女・ミリエッタ様と、ミシガン子爵家の長女・マギーネ様。
 当初、婚約の話の詳細を聞いて、なんだ、公爵家の娘がいるのか、じゃあ、私は選ばれないな、と正直面倒な王太子の婚約者話を聞き流した。
 しかし、公爵家の次女というミリエッタ様。
 実は独身とはいえ、王太子より15も年上で、さらに18の時に婚約者から婚約破棄された後、自分で事業を立ち上げ、公爵家の収入の柱とも言える女傑。
 その後王太子の婚約者として、国内の大事業主ということもありお会いしたが、さっぱりした気性の女性で、元婚約者に婚約破棄されたのも、事業を立ち上げる夢をとるか、自分をとるかで事業を選んだという方だった。
 
 話がそれたが、残るもう一人ことミシガン子爵家の長女はすでに婚約者がおり、子爵家出身ということもあって、消去法で私に決まるという、笑えない状態で私が婚約者に決まってしまった…ミシガン子爵令嬢自身は一番選ばれたがっていたそうだけれど。
 王太子との顔合わせも、私と王太子はなんの感情も抱けず、私の両親は終始困惑、国王陛下と王妃殿下は私を誉めてくれたが、カラ回ってしまい…とまぁなんとも奇妙な顔合わせの上で、消去法で決められた婚約関係が成立した。
 
 それから数年、私の王妃教育だけは順調に進む中、義務としてカードや贈り物はあり、茶会と称して数ヶ月に一度は顔を合わせ、弾まない話をしたりする退屈な関係が続いていたある日、私は一つの提案を王太子殿下にした。
 それは、殿下が伴侶としたい女性ができたら、私は円満な婚約解消を約束するという提案だった。
 珍しく、興味を持って聞いてくれた殿下はこの提案に一も二もなく賛成し、私の両親に証人になってもらう形で、契約として成立した。
 この提案は、私も殿下もお互いに興味がなく、国王陛下としてもただ令嬢のいる高位貴族というだけで、毒にも薬にもならないノウゼン伯爵家との婚約、という王太子殿下からしてもあまり意に沿うものでもないと聞いていたこともある。
 最も、王妃教育の進みが早いこともあり、私が王妃殿下からは可愛がられているがただそれだけの私にも利があるものだった。
 それに加えて、婚約者候補だったマギーネ・ミシガン子爵令嬢やその取り巻きが学院で突っかかってくることがあり、それに私が辟易していたこともある…何度も「だったら殿下にお伝えください」と澄ましていったら逆に火をつけて執拗な嫌がらせをされるようになったこともある。
 その後、婚約解消の契約を結んでからマギーネ嬢が突っかかってきた際に、「殿下とあなたの邪魔はしませんから、何か言うなら、殿下にどうぞ。殿下があなたを気に入れば婚約者の変更も可能ですから」と伝えると、当初は王太子殿下に喜んで絡んでいった。
 しかしそれから数日後、彼女がなぜか真っ青な顔で取り巻きを伴って歩いていたがそれ以降、私に絡んでくることもなくなった。
 ちなみに殿下は私だけではなく、女性にあまり興味がないらしく、私にもミシガン子爵令嬢にもあまり対応は変わらないので、同じような扱いをされたのだろう。
 あの王太子殿下唐変木め、マギーネ様にしときなさいよ…心の中でそう思ったのは内緒である。
 
 そんな殿下がしばらく前に、森から棺を持ち帰ってきた。
 どうやら隣国から逃げてきて、森の中で匿われていたらしい女性に一目惚れした殿下が、隣国の王妃の魔法で仮死状態にされている彼女を棺に入れて連れてきたと言う。
 うわっ、気持ち悪っ、と内心思ったが、同時にもし魔法が解ければ、婚約解消できるかもしれない…いろいろ頭を悩ます王太子殿下や、彼に協力をする国王陛下を見ながら、あきれている王妃・マリア様の前で私は思い出したことがある。
 実はうちのお母様は隣国・マリナーレ王国で、娘ができないようにと使われた王妃の魔法を跳ね返した実力派魔法使いだ。
 数日後、お母様を連れて、まずは王妃様にお目通を願った。
 いとしの姫が仮死状態で、いつも棺を連れて歩くような夢遊病状態の殿下につきそう侍従に事情を話し、棺から離れようとしない殿下をなんとか剥がして、お母様に魔法を解除してもらった。
 むくりと起き上がる姫を殿下は抱きしめ、不覚にも美形は何をやっても様になると思った。
 冷静になると、この人、私の婚約者なんだが?と思わないでも無いが、別に殿下に未練あるわけでもなし。
 こちらを見ることもなく姫を連れて医務室に向かって行った殿下を見送って、無礼を侍従が謝っているのを見て、あぁ、殿下と結婚しなくて良くなったことに安堵したのが昨日。
 その日家に戻り、両親まじえて話をすると、意外な提案をされ、二つ返事でOKした。
 翌日、殿下からお呼びがかかり、ノウゼン伯爵一家と王家とで、話し合いを持つことになった。
 そして今に至る。
 
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