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3:思いがけない捕縛と思いがけない客
しおりを挟む「キャシー・バッキローニはどこだ?」
いやに上から目線の騎士らしき人物が門番を無視して玄関まで入り込んできている。
「キャシーに何の用です、行政官?」
伯母様が毅然とした態度で騎士らしき人物に問いかける。
「バッキローニ夫人…この家に子爵代理とか名乗る一家が来たらしいではないか。
子爵が体調を崩されたのに乗じて、隣国の代理とか名乗る不届きものが来たと思っていたのだ。
そしたらほれ、この通りだ!」
そういうとこの地区の行政官らしきガラの悪い男は夫人に書状を出してくる。
どうやら国王の名前で騎士団が子爵家に隣接した行政官詰め所に持ってきたらしい。
「やはり貴様らは不法移民だな!
さぁ来い!
今回はキャシー・バッキローニだけだが、そのうち隣国の貴族と名乗っているだけの詐欺師だということがわかるだろう!」
「お黙りなさい!」
自身の旦那が、これまた自身の妹夫妻に頼み、理由はあったにしろ伯爵家を王家に返上してまで駆けつけてきた妹夫妻の一人娘に何たる侮辱だ…伯母様の凛とした声が響く。
「あなたは何様!?
たかが子爵家が雇っているだけの行政官でしょう!!
理由も聞かない、悪感情だけでものをいう、そんな行政官は不要よ!
国王陛下の書状!?
それが何だというの!
そっちこそ偽物かもしれないのだから、そんなものすぐにつき返しなさいこの愚か者!」
伯母様の圧に気おされながらも、私たち一家が不法移民だと思い込んでいるこの行政官には何も響いた様子はなかった。
「夫人!
それは国王陛下が許しませんぞ!
ではなぜ国王陛下から召喚状を出すのか、それはその一家が不法移民であることの証に違いありません!
それとも、このまま子爵家そのものを連行するのをお望みか!?」
「…伯母様」
伯母様と行政官が口論を始めてしまい、その理由が私だったため、私は口をはさんだ。
「…キャシー…」
「いいですわ、連行をお願いします。
私はどうせ隣国での居場所をなくしてこの地に来た身…どうなろうとかまいませんわ」
「キャシー!」
「…フン、おとなしくそう言っておけばいいんだ。
さぁ来い!」
そういうと行政官は私を後ろ手に縛り、街の外れの子爵屋敷から、中心部にある行政官詰め所へと連行されることになった。
(…せっかく安住の地だと思ったけれど…まぁ、どのみち生きる希望もないものね…)
そんなことを思いながら、伯母様の叫び声を背後に、満足そうに鼻歌交じりの行政官に私は連行された。
結局安住の地はなかったと、行政官の馬車で連行されていく間、ドレスの下の懐刀の位置を確認し、いろいろと覚悟をした。
「…で、それはどういう状況だ?」
そして10分ほど連行され、行政官詰め所に着くと、うきうきの行政官と、どんよりした雰囲気の私が入る。
しかしその瞬間、屈強なオジサマに早速睨まれた…おそらく中央から来た騎士団の騎士様だろう。
ただ…その視線は私ではなく行政官のほうにむけられているように見えた。
「はい!
不法移民の疑いのあるキャシー・バッキローニを連行してまいりました!」
「…なんだと…?」
あーあ…怒ってるよ…私たち一家は、隣国でも厄介者だったのに、せっかく受け入れてくれた伯母様にも申し訳ないと思いながら私は顔を伏せる。
しかし、どうやらその怒りは、行政官曰く不法移民の疑いのある私ではなく、得意顔の行政官本人に向いている…いや彼は気づいてないけど。
「…連行…逮捕した、ということか…?」
「そのとおりであります!」
その瞬間、騎士様がお怒りが頂点に達した。
「…ばっかもーん!!!」
昭和の頑固おやじバリの絶叫が行政官に襲い掛かった。
鍛え抜かれた騎士様の大声には、さすがの行政官も後ずさる。
「国王陛下から、キャシー嬢を丁重に扱えと仰せつかっておる!
連行、逮捕などありえんことだ!
貴様、なんてことをしてくれたのだ!!
そもそも彼女はこの領主の娘だろう!」
「し、しかし彼女が不法移民で…領主代理の娘を名乗っているだけの…」
慌てて行政官は先ほどから言っている不法移民の件を持ち出す。
「それは貴様以外誰も信じておらん!
代理の申請はすでに通って、ご令嬢の父上がバッキローニ子爵代理として認められておる!
貴様は自分勝手な言い分で、国王陛下が客人として招くはずのご令嬢を、あまつさえ逮捕したのだ!」
「陛下が、客人…?」
ん?どういうことだ?
「あの…」
「あ、これは失礼、キャシー・バッキローニ嬢。
申し遅れましたが、私は騎士団第二部隊の部隊長を務めております、パーシィ・リンガルと申します。
出身は辺境伯ですが、陛下から陛下付き近衛部隊長に任命された際に子爵位を賜りました…。
今回の不手際、行政官に代わり謝罪いたします」
「…はぁ、それはいいのですが…陛下の客人として私が?
お父様の間違いでは?」
「いえ、ご令嬢です。
あなたの御父上の子爵代理申請はすでに済んでおります
陛下はあなた様とお話があると申しております…内容については陛下から直々にお話ししたいと…。
ですので、失礼ながら王宮に来ていただきたいのですが…」
そういって騎士様ことリンガル子爵様は慇懃に頭を下げた。
「…私に?
…いったい何の…」
そういってすっかり言葉をなくしている行政官を見ると、首を振る。
「…まぁ…そこの愚か者の沙汰は国王陛下に下させましょう…。
王城まで10日ほどかかりますので、一度おかえりになってご準備整えいただけますかな。
それと…」
リンガル子爵様はチラっとすっかり青い顔をしている行政官を一瞥し、ため息交じりに「やはり私が行くべきだったか…」とつぶやいた。
そしてもう一度ため息をついた後、私に向き直る。
「…私も子爵家にご挨拶しましょう…不手際を詫びなければ…」
そういって、帰りはリンガル子爵とともに子爵家に戻ることになった。
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