伯爵令嬢の懐刀 ~私の覚悟は何だったんでしょうか、殿下~

aihara

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5:マリナーレ国王陛下からのとんでもない提案

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 そんなことを思いながら、リンガル子爵様に連れてこられたのは、大きくて豪華な扉の前。
「こちらが謁見の間です。
 陛下がお待ちになっておりますので、どうぞ」
 そう言って、子爵様は扉を開ける。
 すぐ目に入ったのは、赤い絨毯のかかった大きな階段。
 そして目を上げると、二つの椅子の左側にいる美男子。
「陛下、バッキローニ子爵令嬢をお連れしました」
 いや、私、バッキローニ子爵代理・・の娘なんですが。
「ご苦労、リンガル子爵。
 そして、ようこそ、我が王城へ、キャシー・ノウゼン、改めキャシー・バッキローニ嬢」
 ご丁寧に前の苗字までありがとうございます。
「お目汚し失礼致します。
 バッキローニ子爵家の代理当主が娘、キャシーにございます」
 実に久しぶりのカーテシーを決める私。
「うむ、楽にしてくれ。
 今回は私が君を呼んだ、つまり君は賓客だからな」
「勿体無いお言葉にございます」
「さて、リンガル…予定より少し遅いな。
 何かあったのか?」
 あちゃー、それ先に聞いちゃうかー。
 私は心の中で頭を抱えた。
「おそれながら…」
 リンガル子爵はバッキローニ子爵領でのあれこれを国王陛下に説明した。
 説明するに従って国王陛下は、どんどん顔が赤くなり、最終的にはがっくりと肩を落とした。
「あの地の行政官は…」
「トアル伯爵家の三男です…学修成績は優秀ですが、人間的には問題あると言わざるを得ませんな…」
 リンガル子爵様も陛下と同じ意見のようで、同じく頭が痛そうな顔をする。
 そして、子爵領で起きた私の連行騒ぎをリンガル子爵は説明した。
 私は、陛下の顔が赤くなったり青くなったり…意外と表情豊かな方だなーとか思いながら聞いていた。
「うむ…成績優秀なだけで、重要領地の行政官にするという制度はやめにしよう…キャシー嬢」
「は、はい!」
 急に陛下が私を呼んだので、面食らいました。
「子爵領での不手際、謝罪する。
 いや、彼の者をバッキローニ子爵領に派遣した時点から、子爵に謝罪しなければいけないな…すまなかった」
「い、いけませんわ陛下!
 王族、しかも国王ともあろう方が、簡単に…しかも、あのような者のために頭を下げるなど、もってのほかでございます!
 あ、頭をおあげ下さい!
 謝罪は確かに受け取りました!」
「すまぬ…そう言ってもらえて助かる。
 それに…アガリスタ王国では王妃教育を受けたと聞いたが、この場で私が頭を下げることを嗜めるとは、恐れ入った」
 よくわからんが褒められた、わーい…なんて現実逃避するまもなく、陛下は「さて、本題なのだが」と続けた。
 
「この国の国母になってくれぬか?」
「は?」
 
 目が点になるとはこのことだろう。
 たかだか子爵家の、しかも私のお父様といえば、当主どころか代理である。
「ご、ご冗談、ですわよね?
 大国・マリナーレ王国の国王陛下も、そんなご冗談を…」
「いや、冗談などではないのだ。
 君も、しばらく前まで、この王国が前王妃と、その裏にいた者に操られ、醜態を晒したのを覚えているだろう」
 
 確かにマリナーレ王国は、しばらく前まで前王妃に全権を握られ、誰も何も言えない状態だった。
 そんな中を命からがら森の中に避難したのが、マリナーレ王国の姫君――肌の白さと歌声の透明感から誰が呼んだか、通称・白雪姫――である。
 しかも前王妃は追手で白雪姫に毒を飲ませて仮死状態にしてしまう。
 そしてその白雪姫に一目惚れしたのがアガリスタの王太子、私の元婚約者様なわけだ。
 アガリスタは白雪姫の保護をしたとマリナーレ王国に連絡すると、リンガル子爵家の本家筋にあたる公爵家と旧王家派が結託し、前国王の先妻が亡くなる直前に産まれていた目の前にいる陛下を国王として担いで、前王妃と前王妃派(最後はほとんど前王妃の実家と親類くらいらしいけど)を失脚させるクーデターをしかけた。
 クーデターは見事成功、現在の国王・エドワード・マリナーレ陛下(この方が目の前の美丈夫だ)をたて、マリナーレ王国は前王妃の呪縛から救われた。
 ちなみに、前王妃は、クーデター後にアガリスタで王太子殿下と白雪姫の婚約パーティーに変装して現れたところで、なんと焼けた鉄の靴を履かされ、死ぬまで踊らされたそうだ。
 …その残酷な発想、王太子殿下やアガリスタ国王夫妻の発案とは思えないんだけど…くわばらくわばら。
 しかし困ったのはエドワード陛下。
 前国王陛下の嫡子とはいえ、前王妃から隠蔽されて市政で暮らしていたが、最近旧王家派に見つかり、国王に祭り上げられたのは別にして、婚約者と言える存在はもちろんない。
 その結果、高位貴族の令嬢は婚約どころか、結婚まで済んですでに夫人になっている。
 なので、陛下の婚活は困難を極めており、実は最有力候補は、私の唯一の友人と言える、ミリエッタ・ジュレミー公爵令嬢だったりしたのだが、本人にはアガリスタから出る気もなく、結婚も考えていないと突っぱねられ、エドワード陛下は途方に暮れていた。
 そんな中、異母妹が森の中で見つかり、アガリスタの王太子が彼女に執着しだし、果ては政略で婚約した、王妃教育のほとんど終わっている令嬢と婚約解消したと聞いて、アガリスタ出身の貴族夫人やアガリスタに嫁いだ姉妹がいる貴族にその令嬢について尋ねたところ、王太子とはお互いあまり干渉せず、一歩引いたところがあると聞いて、陛下や王家派の貴族はいろめきだった。
 なにしろ、彼女を逃せば10歳にも満たない、しかも無理やり代替わりさせたとはいえ、元王妃派の侯爵令嬢が第一候補に繰り上がり、エドワード陛下としても20近く年の違う王妃を持たなくてはならなくなる。
 藁にもすがる気持ちで召喚命令を出せば、彼女を呼び出すはずの行政官が、彼女は不法移民で逮捕・連行したなどと得意げに語るという大失態。
 丁重に扱いたかった王妃候補を、ここまで辱めてしまう結果に、陛下は頭を悩ませていた。
 
 イマココ!
 …ということになるのだが、全くもって陛下もリンガル子爵も悪くない。
 悪いのはアガリスタの王太子と、バッキローニ子爵領の貴族上がりの行政官、ついでにマリナーレ王国の前王妃、あとちょっとだけ、陛下の異母妹の白雪姫殿下だ。
 なりたかったわけではないが、彼女がいなければ私はアガリスタの王妃だったわけだし。
「これだけ失態を重ねて申し訳ないのだが、キャシー嬢、今すぐ返事をしてくれとは言わない。
 私としては、アガリスタを訪問した際、あなたの対応はアガリスタ王妃と共に最高のものだったし、私は君に好感を持っている。
 そして、王妃になった暁には、アガリスタの王太子に嫁がなくてよかったと思えるくらい大切にすると誓う。
 少しでいい、考えてもらえないか」
 陛下はここでも深々と頭を下げた。
 私は「少し考えさせてください」と言うと、陛下は今日は遅いし、数日はここでゆっくりしてほしい、と用意された客室に泊まるように言ってもらった。
 
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