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1.プロローグ~婚約破棄されたので逃げた
しおりを挟む1.プロローグ~婚約破棄されたので逃げた
「偽聖女マリア!
貴様との婚約を破棄する!!」
目の前の婚約者である第二王子からそう宣言される。
隣にはなぜか亡くなった第一王子の婚約者だった公爵令嬢がさげすんだような表情でこちらを見ていた。
その顔を見た瞬間、私はパーティーの部屋であった謁見の間から逃げだす。
「あ、待て!!」
第二王子や衛兵が声を上げるが、私は聖女の力をフル活用して追手から見えないように結界を張る。
後ろから聞こえる制止の声を振り切り、王城の外階段まで逃げ出したところで…。
「きゃぁ!!!!」
階段を踏み外して周囲の風景が一回転する。
その瞬間、幸せだった幼少時代の庭の姿が見えた。
優しい両親と使用人…王城のように差別されることもなく過ごしていたあの頃…そんな走馬灯。
なぜ聖女の力なんてものを持ってしまったんだろう…政略結婚するとは思っていたが、それにしたってあのひどい第二王子と婚約しなければならなくなってしまった。
…戻りたい…このころに、戻りたい…。
そう思った瞬間に、マリアの意識はふっと途絶えた。
私はマリア・フリージア、このプリースト王国の辺境に領地を持つ子爵家の娘。
そんな私が子爵令嬢の身で、第二王子の婚約者なのかといえば…幼いころに目覚めた聖女の力による。
庭で侍女と遊んでいたときにケガをした猫を見つけ、その怪我を聖女の力を使って治したのがはじまりで、聖女と認識された。
国王様の容態が思わしくない上に、第一王子・アルヴァート様が亡くなったこの状況、立太子こそされていないものの次の国王は第二王子・ダイナム様だろうといわれている。
もともと、王太子だったのは第一王子だったが、不慮の事故で彼が死亡。
王妃教育を完ぺきにこなした公爵令嬢・バレーナ・リトルスカイは、悲劇の令嬢として王家とのかかわりを許されている。
そして聖女を自分のもとに置いておきたかった王家は、王を継ぐ可能性が少なかった第二王子・ダイナム様の婚約者として、聖女だった私を置いておくことにした。
しかし第一王子と婚約していたバレーナ嬢の本性を私・マリアは知っている…。
彼女は腹黒い…私に対して陰湿ないじめを行っているし、アルヴァート様のことも嫌っていた。
婚約をしていた唯一の理由は、アルヴァート様の第一王子という立場だけだ。
婚約者にしていきなりそんな相手との縁談というのはアルヴァート様は本当に運がない。
しかも彼女が求めていたのは、アルヴァート様同様容姿端麗で、性格的な相性の良好だった第二王子・ダイナム様だったのだ。
実はお互い好き合っており、二人とも婚約者をないがしろにしていた…しかし、相手が第一王子のバレーナ様はともかく、相手が聖女なので利用価値はあるものの、所詮子爵令嬢出身の私は顧みられることはなかった。
ダイナム様は表面上私を大事にしているように見えるが、二人きりになると手を触れようともせず「子爵令嬢ごときが聖女に選ばれたからといって調子に乗るな」と吐き捨てていた。
だから、「申し訳ありません」以外の言葉は私はダイナム様の前では決して言わないようにしていた。
その結果、ダイナム様やバレーナ様からは「なんでも言うことを聞く都合のいい女」と解釈してもらえてはいた…と思うのだが、それすら気に食わない様子だった。
王家の方はダイナム様、バレーナ様以外からは優しくしていただいたが…使用人のほうはバレーナ様が公爵家から連れてきた使用人が中心になって、ダイナム様の影響か王家の使用人の一部は私につらく当たってきた。
王家の使用人ともなれば、伯爵家や子爵家の令嬢であることも多く、特に私の侍女は伯爵令嬢だったこともあってずいぶん嫌味を言われた。
反論する気もなかったし、何度か彼女が来る前にすべての支度を完ぺきに終わらせて閉口させたことくらいか。
完璧に支度を終わらせたところで、褒められるのは私ではなく侍女のほうだったけれど。
「…マリア様、おはようございます」
「…え?」
目が覚めると、王城の倉庫を改造した自室ではなく、見覚えのあるそこそこ整った部屋…いや、見覚えがあるのは当然だ。
ここは実家の私の部屋だ…そして目の前にいるのは、私が王城に旅立つ前日まで私を見てくれていた侍女・レイチェルだった。
「レイチェル…え、レイチェルなの!?」
「…そうですが?
いかがなさいました?」
王城では自分のわがままを言わないように気を付け、侍女も自分のことがわかっているレイチェルを連れてくることはしなかったため、久しぶりのレイチェルとの対面に私は涙が出てきそうになった。
「…ま、マリアさま!?」
「…ごめんなさい、ちょっと調子が悪いようなの…もう少しベッドにいてもよろしいかしら?」
「え…ええ、では旦那様にお伝えしてきます。
今日は午後にマナーの先生がいらっしゃいますが、お休みされますか?」
「いいえ、先生には来ていただくわ。
少し休めば問題ないくらいの調子だから」
そういって私は微笑んだ。
とりあえず状況を整理しよう。
おそらく私はあの時階段から足を滑らせて…あぁそういえばその時「あの頃に戻りたい」って思ったっけ。
そして覚えている限り…聖女の力を自覚する前に戻れたと思う。
だとすれば…あとはなるほど、そうすれば聖女にはならずに済む!!
…けど、結局政略結婚はすることになるかな…。
そこでふと思う…この時代に戻れているのなら、第一王子のアルヴァート様もまだご存命!!
ということは…アルヴァート様を助けられるかも!!
…しかし、私はしがない子爵令嬢…そこで思い出す。
アルヴァート様は何度か命を狙われていて、最後はパーティー会場で毒を盛られて亡くなり、その際宮廷の料理人が処分されている。
証拠はないが裏側を見ていた私からすれば、最有力の容疑者はダイナム様とバレーナ様で、料理人は第一王子派の貴族家出身だったために罪を着せられたと思っている。
さらにその直前に、慰問に行った教会の近くで賊に襲われ妹の第一王女・カトリーヌ様とともにアルヴァート様が負傷されている。
その際にその治療を行った教会にアルヴァート様が運び込まれたときに偶然私がいれば治療ができ、第二王子に気を付けてくれというタイミングが取れるはずだ。
幸か不幸かその教会は私の家の近くにあり、シスターとも顔見知りだ。
そしてまずは、聖女ではなくとも、子爵令嬢として教会にいて助ければ話を聞いてもらえるだろう。
さて、そんな「聖女だとバレるイベント」はその翌日。
私が10歳、レイチェルが17歳…私が庭で遊んでいると庭の隅で怪我をしている猫を発見する。
「レイチェル…猫さん倒れてる…」
一回目の人生では、この猫に対して聖女の力を使って一気に回復させてしまったが…。
「まぁ…かわいそうに…木から落ちてしまったのかしら…。
…息はまだあるわ…」
そう言いながら少しだけ回復魔法で軽傷にしておく。
「まぁ大変!
お医者様にお見せしましょう!」
一度目はここで聖女の力を使っているところを見せてしまったために聖女として教会で修行ののち王城に行くことになった。
しかし今回は聖女の力がレイチェルにもわからず、猫も救えるようにしたので問題ないだろう。
ついでに言えば、聖女の力は死んだときから変わっていないことは確認済みだ。
レイチェルが猫を獣医に見せに行き、無事に救えたらしい。
ちなみにこの後、この子はフリージア家で飼うことになりました。
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