けなげなホムンクルスは優しい極道に愛されたい

イワキヒロチカ

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「あー……、これ、食っていいんだよな?」
 とりあえず。
 今日はとても気疲れしたので、オチを付けて寝たいと料理に話を戻すと、ちびは嬉しそうに振り返った。

「うん!温めるね!」

 手際よく温めなおされた料理は、ほかほかと食欲を刺激してくる。
 白米と味噌汁、筑前煮と鯵の塩焼き、サラダに切り干し大根とボリュームもあり、盛り付けも満点だ。
 食材は、何も言っていなかったが篠崎が手配したのだろうか。
「これ、全部お前が作ったのか?」
「うん。征一郎、嫌いなものない?」
「基本的に好き嫌いはねえ。……お前高性能だな……」
 素直な賞賛にちびははにかんだ。
 色々と考えることは多いが、手を合わせてありがたくいただくことにしよう。

 味付けが、実家のもので、嬉しくないわけではないが複雑な気分になる。

 母は爆発する系の料理下手であった。
 メシマズとかそういうレベルではない。もれなく爆発して炭化するので、母の手料理は父でさえ口にしていないだろう。
 つまり、黒崎家の味とは、父・芳秀の料理の味のことを指す。
 黒崎芳秀の嫌なところは、人類史上最悪の外道のくせに苦手なことが一つもないということである。

 ちびに料理を教えたのは、十中八九芳秀だろう。
 亡きおふくろの味ならほろりとしたかもしれないが、外道親父の味というのは、大層複雑なものがある。
 ただ、美味かった。
 これを毎日食べられたら幸せだろうと思うほどに。
 これに慣れてはいけないなと己を戒める。

「そういやお前は普通に睡眠とるのか?」
「うん」
 しっかりした箸使いで白米を口に運ぶちびを見ていても、どこが人と違うのかが全くわからない。芳秀に担がれているのではないかという気すらしてくる。
「あの屋敷じゃどこで寝起きしてたんだ?」

「大抵は芳秀さんの研究室で一緒に寝てたよ」

 もたらされたろくでもない真実に、思わずそのさまをイメージした征一郎は飲みかけた味噌汁を噴いた。
「あッ……あの変態親父……!」
 犯罪の香りしかしない上に研究室という響きが何やら悍ましい。極道の屋敷に存在してはいけないもののような気がする。
 咳き込む征一郎を気遣いながらも、ちびは更なる爆弾を投下した。

「あ……!で、でも俺一人でも寝られるし、いきなり襲ったりしないから安心して…!」

「そこは心配してね……って俺いつの間にそんな危険にさらされてたの!?」

 不穏すぎる。
 それもこれも諸悪の根源たる黒崎芳秀の間違った教育のせいに違いない。
 征一郎はちびの再教育を固く誓った。
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