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しおりを挟む「…まあ、お前はなんか触り心地がいいから俺もつい触っちまうけどな」
気付くとそばにいるので、何となく手を伸ばし動物と同じような感覚で触ってしまうのだ。
「それはたぶん仕様だと思うけど…征一郎が嫌じゃないならよかった」
ちびは愛玩用なのだという。
生き物に対して使うのに相応しい言葉ではないと征一郎は思ってしまうが、自分をそう表現するときのちびからは卑屈さは感じない。ホムンクルスにしてみれば、個人の性質を表す……性別のような感覚なのだろうか。
こういう時、ちびはやはりヒトとは違うのだなと実感する。
もっとも、距離を感じるわけではない。同じ人間同士でも、容認できないほど考え方や生活習慣が違うことはよくあることだ。
よく考えてみれば、人間の言葉を喋るヒトではない生き物は一般の認識では存在しないわけで、今征一郎はとても貴重な経験をしているのではないだろうか。
この際、何故極道の父親がそんなものを作れてしまったのかとかそういうごくまともなツッコミは置いておこう。考えすぎると正気度が下がる。
「撫でるくらいならいつでもしてやれていいな」
ちびは本当に撫でられるのが嬉しいらしく、にこにこ笑顔が満開だ。
こんなに簡単なことで笑顔になってくれるのは、征一郎としてもとても助かる。
征一郎の手の下から、あのね、とちびはこちらを見上げた。
「猫を撫でるときとかもなんだけど、征一郎は撫でてくれる時すごく優しい顔になるの。だからおれ……撫でてもらうのもだけど、征一郎のそういう顔が好きなんだと思う」
はにかみながら、とても大切なことを打ち明けるようにそんなことを言われて謎のダメージを受けた征一郎は、頭を撫でていた手で顔を覆った。
今までそんなことを言われたことはない。
ちびを撫でるとき、自分はいったいどんな顔をしているのだろう。
同業者にお見せできる顔ではないことは確かなようだ。
これからは撫でるときに必ず己の表情を意識してしまいそうである。
「…征一郎?どうしたの?俺何か嫌なこと言っちゃった?」
「いや…基本的には嬉しい事なんだと思うんだが…免疫のなさすぎる展開に悶えているだけだ気にするな」
言葉責めの一種かも知れない。
心配そうなちびを誤解させないよう、何とか平常心を保ちながら「ありがとな」と礼を言った。
「おれのことより征一郎のしたいことの方が興味あるな。征一郎はどんなプレイが好き?」
愛玩用のホムンクルスは無駄に献身的だ。
キラキラと期待に満ちた瞳で見上げられて、うっと詰まる。
「聞いといてなんだが、自分がどんなプレイが好きとかあんま考えたことねえな…」
今まで生きてきて、特殊なプレイをしたいと思ったことはなかった。
父親があらゆる意味で特殊すぎたため、普通が一番と思ってしまうのだ。
「(そもそも、やりてえと思ったときにどんな風じゃないといけないとか縛りがあんの面倒じゃねえか?
俺にとっちゃ相手が野郎でホムンクルスだってシチュエーションだけで十分何のプレイかと思うほどアブノーマルっつーか……。
イメプレみてえのはカケラも乗れねえし、痛い系はアウトだし。親父の言うような猟奇的なプレイは論外にしてもやっぱわざわざ御膳立てするのは面倒……って俺どんだけ面倒がってんだよ。
……やべえ。
なんも思い浮かばねえ。)」
特にない、と言いたいところだが、何かオチをつけなければならない雰囲気である。
「あ~~~~…………………俺もお前と風呂入んのは好きだぜ……?」
「ほんと?嬉しいな…」
苦し紛れの一言にもちびは口元を綻ばせて喜んだが、征一郎は内心打ちひしがれていた。
「(自分が普通(ノーマル)と喜ぶべきところのはずがなんだこの敗北感……)」
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