けなげなホムンクルスは優しい極道に愛されたい

イワキヒロチカ

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幕間14

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「まあどうせあいつは俺からの連絡は、電話以外全ブロックなんだけどな」
 妥当な判断である。
 芳秀から送られてきた動画など、月華も中身をあらためることなく瞬時に削除するだろう。
 ダメージを受けるものである可能性しかない。
「あの無駄に心だけは広い征一郎から緊急連絡以外ブロックされてるって、相当だよね」
「無駄に気ばっかり使う奴だからな。俺にだけは甘えられるんだろ」
「…………………………」
 自分が眩しすぎる。
 流石に征一郎に同情する月華である。

「とにかく、そんな不安定な生き物、ペットロス恐怖症の征一郎に押し付けるとか悪趣味すぎ」
「『ちび太がいなければ征一郎は僕だけの物だったのに』?」
「違うよ!?欠片もそういうのはないから!」
「『でも邪魔をしたってみじめなだけだし、せめて二人が上手くいくように』」
「定番ぽいモノローグストップ!ほんとに黙って!息もしないで!」
「死ねって言ってるなそれ」
 その通りなのだが、この男は肺呼吸をしないくらいでは死なない気がする。

 それにしても城咲といい、芳秀といい、何故自分の周囲の人間は、月華が征一郎のことを慕っているような言い方をするのか。まったく理解できない。

「征一郎にちびを押し付けたのは、まあ面白そうだからとか理由はいろいろあるが」
「フーン……『面白そう』の他にも一応理由あったんだ」
「征一郎にはこれといった弱点がねえから、このままだと黒神会内のパワーバランスが悪いだろ?」
「…………」
「…………」
「それだけ?」
「それだけだが何か?俺と鷹乃のハイブリッドだからチートな戦闘力持ちな上に人望厚いなんてイージーモードすぎて見ててつまんねえなって」
「結局面白さだよねソレ!?そもそも会長が父親な時点でスーパーウルトラベリーハードモードだと思うよ!?」
「面白きこともなき世を面白く…」
「そんな歴史上の人物の名言とか 本 当 に いいから!」


■都内某所 神導月華邸

「会長の魔の触手が四方八方伸びまくってるのに暢気すぎるんだよ征一郎は!」

 ツッコミ疲れてそのまま自宅へと戻った月華は、用意された夕食の席で、城咲相手に芳秀や征一郎への不満をぶちまけていた。
 これこそが『月華は本当に黒崎親子のことが好きだよなあ』と思われる原因なのだが、本人はそれに気付いていない。

 広いダイニングテーブルについているのは月華と城咲のみ。
 城咲は共に食事をしておらず、食事にまつわることで月華の世話を焼くためと、話し相手になるためにそこいるだけだ。
 城咲がいるので、土岐川は別の仕事をしに行っている。
 日によっては速水や他のスタッフが月華の家で食事をしていくこともあるが、今日は一人で食事だった。
 英国の伝統的なカントリーハウスを模して建てられた屋敷は広く、過去にはもっと人が住んでいたこともある。
 一人の方が、食事の時間など気を使わずに済むが、あまり静かだと少し寂しい。

 誰かと食事をすることの楽しさを教えたのは、芳秀と征一郎だ。
 芳秀がろくでもないことを言って、征一郎が呆れながら咎めるが、それもどこか的が外れていたりして、二人とも、何言ってるんだかと月華がツッコミを入れる。
 あたたかさに、家族というものが初めて分かった気がした。

「今がずっと続けばいいのに……なんて、少し感傷的すぎるかな」
「どうした急に。腹でも痛いのか」
「……まあ一の反応なんてそんなものだよね」
 この男の中では、ナーバスになっている人間は空腹か腹痛のどちらかなのだろう。
 ため息をついて、ちぎったパンを口の中に放る。

「感傷的なんじゃなくて、それだけ理想的な「今」をお前が自分で作り上げてきたってことなんだろ。心配すんな。明日はさらにその理想を超えた日常だよ」

「っ……」
 諦めたところに真面目な返答をくらって、月華はパンでむせそうになった。
 吹き出しそうなところをミネラルウォーターの入ったグラスを掴み、飲み下す。
「大丈夫か?」
「一が突然変なこと言うから」
「変って失礼だな。振ってきたのはお前だろ」
「でも……そうだよね」
 心外そうな城咲に、自然と月華の唇の端が上がる。
 モテとは無縁でも、もっと貪欲でいいと甘やかすこの男の言葉が、何度も月華を救ってきた。
「美しい僕の前途はいつだって全人類から祝福されてるからね!大体今がずっと続いちゃったらはじめに彼女はいないままだし」
「おい、そこは変わらない日常の中でも変更可能な箇所だろ!?」

 うん、でも彼女のいない一が僕の中では日常だから。
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