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しおりを挟む「お、前は…誰、だ」
「喚び出しておいて、誰はないだろう。…まあ、喚んだつもりがなかったのは、その様子を見ればわかるが」
先程からやたらと尊大な様子の侵入者は、すらりとした長身に整った顔立ちで、柔らかそうな金髪をゆるく後ろに流し、皮肉気に細められた瞳は深い海の色をしている。ネイビーの三つ揃えのスーツは光の加減によって光沢の具合を変えて、今は南向きの窓から差し込む日差しによってキラキラと輝いていた。
物語に出てくる王子様のような容姿で、これで不審者でなければお近付きになりたい女性は相当多いだろう。
日本人ではないようだが、言葉は完璧に日本語だ。
…日本語、なのだが、話は通じていない気がする。何を言っているのかわからず首を傾げた。
「よん、だ……?」
「お前の伯父はあの場所でコソコソと私を覗き見ていたぞ」
「なっ…え、そんな」
男の言葉に目を瞠る。
覗きは犯罪だ。しかも、同性の、こんな美青年を覗きとか、色々とまずい気がする。
もしかしたらその証拠があの屋根裏にあるから全て破棄するようにと…?
パズルのピースがはまるように急速に合っていく辻褄に、まどかは唖然として黙り込んだ。
謝るべきなのか、だが、この男が真実を話しているとは限らない。
伯父は真面目な人で、変人で、なんというか、人間に興味がなさそうに見えた。
「へえ、お前、人のことをよく見ているな。確かにお前の伯父が見ていたのは、人ではない」
「は……?」
覗かれていたというこの男が、伯父が見ていたのは人ではないと言う。
いや、だがその前に自分は考えていたことを口にしてしまっていたのか?
「心の声くらい読めて当然だろう。私は神だぞ」
「…………………は…………………?」
「まあ、人間には邪神としてあがめられているがな」
ニヤリとして胸を張った不審者に、まどかは確信した。
あっ、これ通報の案件だった。
頭がアレな不法侵入者だと、スマホを取り出そうとして、先ほど驚いた拍子に屋根裏に落としてきてしまったことに気づいて内心舌打ちする。
「信じていないようだな。ならば少し邪神らしいことでもして見せるか」
「いやっ…いいです大丈夫で…」
不穏なことを言い出したので慌てて制止しようとしたまどかは、男の影がこちらに向かって伸びるのを見て凍りついた。
「な……………っ!?」
影から、何か触手のようなものが伸びて四肢を絡め取る。
一瞬のうちにまどかは宙づりになっていた。
「な、何これ………っちょ、や、やめろ…!」
ジタバタと抵抗しようとするが絡みついたものはびくともしない。
不安定な態勢は苦しく、積み上がる本や、雑多に物の置かれたデスクを見下ろすという日常とは違う視点が、心許なさを煽る。
「お前の伯父にはたっぷりと視姦されたからな。せめて甥のお前にお返しをしてやらなくては」
「ほ、本当に伯父はそんなことを……!?何かの勘違いじゃあ」
「残念ながら本当だ。お前が先程躓いたあのガラスは、少し特殊な加工を施したもので、あの連句を唱えることで異次元を覗くことができるようになっている」
「おっ…お前は、そこから出てきたとでもいうのか」
「察しがいいな」
ありえない。
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