いじわる社長の愛玩バンビ

イワキヒロチカ

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その後のいじわる社長と愛されバンビ

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「……とにかく、メッセージを送るなどしてご機嫌を取っておいた方がいいんじゃないかと」
 桜峰を奪還しようと、このビルに重機でカチコミでもされたら困る。
 危機感を募らせる万里に対し、桜峰はあくまでマイペースだ。
「ご機嫌を……?『帰ったらサービスするね』とか?」
「い、今まだ揺れてるのに今夜もサービスはきつくないですか!?」
「え……そ、そうなの?あ、でも竜次郎が疲れてたら、背中を流すとかそういうサービスだよって言えばいいし」

 相手の方への気遣いではなく……!
 それにしても桜峰が『背中を流す』というと、文字通りの意味に聞こえないのはどうしてか。
 そんなふうに考えてしまう自分がおかしいのだろうか。

「その……朝晩励むのはしんどくないですか」
「でも、我慢されたら嫌だし……」
「…………………………」
 万里が言葉をなくしていると、カウンターの向こうで鹿島が肩を揺らしている。
 噛み合わない会話が可笑しかったらしい。
「二人とも、面白いな」
「鹿島さんは、どう思いますか?」
 こんな話題を振られても鹿島も困るのではないだろうかと焦ったが、慣れているのだろう。全く動じず、桜峰の問いかけにのんびりと答えた。
「俺は料理が恋人だからなあ。休日でも一日三回はするな」
「三回も……」
「 料 理 を 、ですよね?桜峰さん、突っ込むところですから」
「あ、そうか。料理なら、普通だよね。あっ!なんか美味しいもの作ってあげるっていうのはどうかな。食べたいもの聞いてみよっと」

 名案を思いついたとばかりに手を打つと、桜峰は頼りない足取りでバックヤードの方へ戻っていった。
 ロッカールームにスマホを置いてあるのだろう。
 相変わらず天然というか不思議というか……。
 それにしても、見るからに怠そうだというのに夜もサービスしようなんて、献身的なのか、行為自体が好きなのか。
 万里も好きな人との行為は、恥ずかしくて死にそうにはなるものの、もちろん好きだ。
 健全な男子なので、気持ちのいいことも嫌いじゃない。
 しかし、翌日に差し支えると思えば、日常的に朝まで抱き合ったりするのには躊躇う気持ちが生まれる。
 久世も翌日の万里の予定を気遣ってくれるので、それに甘えてしまっているが、本当はもっとしたい気持ちを我慢しているのだろうか。

 ……己の全てを捧げられる桜峰が少し羨ましい。
 鹿島も桜峰も、……そして久世も、それがあれば他のものは何もいらない、という確かなものを持っている。
 万里も、少しでも久世や『SILENT BLUE』の仲間達のようになれたらと色々なことを頑張るようにはなったが、そうすぐに一生をかけて取り組みたいものが見つかるはずもなく、日々焦燥感ばかりが募っていく。

 ぐるぐる考えていると、そろそろ何か食べるかと鹿島に聞かれて、勉強をしようと思って早くきたのにすっかり話し込んでしまったことを反省しながら、懲りずに『頭の良くなる料理』とオーダーを入れた。
 鹿島は「今日は魚にするか」と軽く応じてくれる。
 ほどなくして、桜峰が首を捻りながら戻ってきたが、あまり振るわない表情なので、隙をついて出てきたことを怒られたりしてしまったのだろうかと心配になった。
「怒られちゃいました?」
「ううん……。でも、『何食べたい?』って聞いたら『お前』って返ってきたから、振り出しに戻った感あるなって……」
「…………………………………………」
「鹿島さんにレシピとか聞いて帰れたらいいと思ったのに」
 残念に思うところはそこではないとか、この人たちは本当にこれで良いのかとか、もうどこから突っ込んでいいかわからず、万里は乾いた笑いを浮かべるしかできなかった。

 そしてその後桜峰は、出勤してきた店長と副店長に「風紀が乱れる」として結局強制送還された。
 ……係の人は、係の人としての責務をちゃんと全うしてほしいと思う今日この頃だ。
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