46 / 104
46
しおりを挟む「まったく……猫という生き物はろくなことをしないな」
そんなことを言いながらも、シロを撫でる天王寺の目は優しい。
ましろもそんな風に撫でられたいと思ってしまう。
「でも、シロはこのかわいさで私たちを幸せな気持ちにしてくれます」
「お前はそんなに猫が好きだったのか?」
「今まで動物のいる家で暮らしたことはないので、こんなに猫に触ったのはシロが初めてですが、とてもかわいいです」
ましろの母も羽柴家の人々も月華も、ペットを飼う、動物と暮らすということにさしたる興味はないようだった。飼いたいと主張すれば恐らく叶ったとは思うが、ましろ自身、自分一人で動物の世話をできる自信はなく、望んだことはない。
だから、シロと触れ合えるのはとても貴重で幸運なことだ。
「……まあいい。俺は他の場所をもらう」
「ちー様?」
何故かちょっと悪そうな顔になった天王寺が伸ばしてきた手に後頭部を引き寄せられて、突然の行動と謎の発言について考えている間に、唇が重なった。
「……っ……」
試すように柔らかく啄まれて、一瞬離れるタイミングで反射的に口を開くと、今度は深く貪られる。
入り込んだ舌に舌を絡めとられ、舐るようにされると口の中に唾液が溢れた。
「っぁ……」
たっぷりと蹂躙されてから、ちゅ、という水音とともに顔が離れ、唇の端を拭われる。
困惑と、それからもっとして欲しいという欲望が絡み合い、縋るように見上げると、至近の天王寺がぐっと眉を寄せる。
「ましろ……」
熱い腕にぎゅっと抱きしめられた。
すると、二人の間に挟まれて窮屈になったのか、煩わしげに膝から降りたシロは、すたすたと去って行ってしまう。
「あ、シロ……」
「ましろ」
思わず視線で追いかけると、名前を呼ばれ、こっちを見ろとばかりに視線を引き戻された。
真剣な瞳に覗き込まれて、ドキッとする。
「……いいか?」
抑えた声の問いかけに、何の許可を求められているのかわかって顔が熱くなった。
何と答えればいいのかわからず、こくんと無言で頷く。
密着した体が一瞬強ばり、引き剥がすようにして天王寺は立ち上がった。
「じゃあ、ベッドに……」
やや性急な動作で手を引っ張られ、立たされる。
キスの余韻の残るましろはよろめきながらも、一生懸命ついていった。
寝室に入るなり、服を脱がされ、ベッドに寝かされる。
自らも服を脱ぎ捨てながら、天王寺はじっとましろの身体に視線を注いでいて、恥ずかしさに身を縮めた。
「あの……あまり見ないでください……」
顔のことはよく褒められるので、それなりに綺麗なのだろうとは思っているが、体にはあまり自信がない。
今まで誰かと見比べるような機会こそなかったものの、ましろの体は筋肉もなくつるりとして、我ながらメリハリに欠けたスタイルだと思う。肩幅が広く、バランスよく筋肉のついた天王寺のような男らしさは微塵もなく、当たり前だが女性とも違う。大人になりきれていないと表現するべきか、しかし八重崎のように小柄で可愛らしいわけでもない。
誰に見せるわけでもないからいいと思っていたが、好きな人に見られるとなると、自信のない部分がとても気になる。
「俺に見られるのは嫌か」
「嫌では……ありません。でも……あまり、自信がなくて」
「お前は、綺麗だ」
「ちー様……」
「綺麗すぎて、俺が触れていいのか心配になるほど」
綺麗なのは、天王寺の方だと思う。
それでも、肯定的な言葉にましろは少し勇気を得た。
自分が好きではなくても、天王寺が嫌だと思わないのならばそれでいい。
「私は……もっと触ってほしいです」
「ましろ……」
「ちー様に撫でてもらえるシロが、羨ましくて、……だから」
もっと、触ってほしい。
ましろは天王寺の手を取り、そっと自分の方へと引き寄せた。
6
あなたにおすすめの小説
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
〔完結済〕この腕が届く距離
麻路なぎ
BL
気まぐれに未来が見える代わりに眠くなってしまう能力を持つ俺、戸上朱里は、クラスメイトであるアルファ、夏目飛衣(とい)をその能力で助けたことから、少しずつ彼に囲い込まれてしまう。
アルファとかベータとか、俺には関係ないと思っていたのに。
なぜか夏目は、俺に執着を見せるようになる。
※ムーンライトノベルズなどに載せているものの改稿版になります。
ふたりがくっつくまで時間がかかります。
【完結】それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。
するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。
だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。
過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。
ところが、ひょんなことから再会してしまう。
しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。
「今度は、もう離さないから」
「お願いだから、僕にもう近づかないで…」
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
「出来損ない」オメガと幼馴染の王弟アルファの、発情初夜
鳥羽ミワ
BL
ウィリアムは王族の傍系に当たる貴族の長男で、オメガ。発情期が二十歳を過ぎても来ないことから、家族からは「欠陥品」の烙印を押されている。
そんなウィリアムは、政略結婚の駒として国内の有力貴族へ嫁ぐことが決まっていた。しかしその予定が一転し、幼馴染で王弟であるセドリックとの結婚が決まる。
あれよあれよと結婚式当日になり、戸惑いながらも結婚を誓うウィリアムに、セドリックは優しいキスをして……。
そして迎えた初夜。わけもわからず悲しくなって泣くウィリアムを、セドリックはたくましい力で抱きしめる。
「お前がずっと、好きだ」
甘い言葉に、これまで熱を知らなかったウィリアムの身体が潤み、火照りはじめる。
※ムーンライトノベルズ、アルファポリス、pixivへ掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる