溺愛極道と逃げたがりのウサギ

イワキヒロチカ

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 その後も三人と会話をしつつ料理を続けた。
 一人で黙々と作っていると、「やはりこんなことをしたら重いんじゃないか」などとすぐに考えこんでしまうので、賑やかな雰囲気はありがたい。

「しかし湊さんはすごいっすね。もともとカタギなのに、兄貴に対して怖がる素振りもねえし」
 ふと、三人のうちの一人、茶髪に染めたパンチパーマの男がしみじみとそう言った。
 きっと湊に見せない極道としての顔みたいなものがあるのだろうが、今のところ怖いと思った瞬間はない。しかしそれを正直に言うと竜次郎の代貸としてのイメージを壊すかもしれない。

「竜次郎は……やっぱり怖いんですか?」

 ……ので、控えめに聞き返すだけにとどめた。
 だが、それを聞いた三人は、なぜ聞き返すのかと言わんばかりに詰め寄ってきた。
「そりゃもう!出入りの時の兄貴なんか見たら、若ェ奴らなんかビビっちまって」
「親父の迫力そのまんまですよ。俺らのことなんかポンポン殴るし」
「湊さん何か無体なことされてないですか!?」
「あんなことやこんなことを強要されたり……くっ……なんて羨ましもとい外道な!」

 あんなことやこんなことがどんなことなのかは具体的にはわからないが、迷惑をかけているのは圧倒的に湊の方だと思う。
 竜次郎はいつも甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるし、すぐに寂しがる湊のそばにいてくれる。
 乱暴に扱われたことなど一度もないが、それとも竜次郎は、色々と我慢しているのだろうか。
 そういえば風呂場で襲うのを我慢しているようなことを言っていたし、八重崎の言うような鬼畜ヤクザモードが普段の竜次郎だったとしたら……?
 ……………………。
 なんとなく、イメージに合わない気がする。

 しかし、実際のところはともかくとして、代貸のイメージを保つために「いつも激しすぎるから体がもたない」とか盛っておくべきかもしれないと考えたところで、戸口に不穏な気配を感じて視線を向けた。

「大体、兄貴はずるいんですよ。今まで全くそんな気配もなかったくせに突然こんな素敵な嫁さん見つけてきて」
「本当だよ。毎日裸エプロン新妻を食えるなんて妬まし過ぎるだろ!」
「この格差社会!三下にも人権を!」

 どす黒いオーラ全開の『兄貴』に全く気付かずにアジる男達に「うしろ」と教えたが、彼らが表情を凍りつかせて振り向くのと、特大の雷が落ちるのは同時だった。


「あいつら……本気で殺す……」
 制裁を下して半泣きの男達を追い払い、ダイニングテーブルの椅子にどかっと座った竜次郎は、怒りが可視化するのではないかと思えるほどの暗黒を放っている。
「竜次郎……あんまり組の人をいじめちゃダメだよ?」
 一応加減はしているのだろうが、いつも中々に派手な拳骨の音なので心配になる。しかし、今は火に油を注ぐような言葉だったらしい。
 怒りのテンションのままビシッと指を突きつけられてホールドアップでのけぞった。
「お前もお前だ!あいつらは背景みたいなもんなんだから喋りかけるな餌を与えるな!」
「そんな……動物じゃないんだから……」
 と言いながら湊も野生動物の餌付けを思い浮かべていたので、竜次郎のことは言えない。

「……何を話してたんだよ」
「聞いてたんじゃないの?」
「俺がずるいとか裸エプロンとかからしか聞いてねえ」
 後半、何もそんなところを拾わなくてもいいのに。
「代貸の武勇伝を聞かせてもらってたんだよ」
「はあ?そんなもん聞きたいのか?」
「だって俺、代貸としての竜次郎がどんななのかは知らないもん」
「お前が聞いて楽しい話なんか何もなかっただろ」

「そうでもないよ。祝!千人斬り達成祝いに全員に女体盛りを振る舞った話とか」

 目を剥いた竜次郎が机を叩く。
「ガセにも程が!まさか信じたんじゃねえだろうな」
「うん、今俺が考えた冗談」
「……………………………」

 竜次郎は机に突っ伏してしまった。
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