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しおりを挟むそんなつもりはなかったのだが、著しいダメージを与えてしまったようだ。
「竜次郎、大丈夫?」
元気のない様子に気遣う言葉をかけると、ぼそぼそと伏せたテーブルとの間から恨めし気な声が聞こえてくる。
「……朝から疲れた……起きたらお前はいねえし」
「あ……、朝ご飯作ろうと思って」
「起こせよ。驚いたじゃねえか」
「よく寝てたから、起こしたら悪いと思って……その、ごめん」
「起きればお前は奴らとなんか楽しげに談笑してやがるし」
すっかり臍を曲げてしまった竜次郎は、揺すっても顔を上げてくれない。
「竜次郎、ごめん。鬼畜ヤクザ的ハードプレイしてもいいから元気出して」
「はあ?」と一瞬顔を上げた竜次郎は、「ほんとに奴らから一体何を聞いたんだよ……」と再び沈没してしまった。
そういう意味ではなかったのだが、やはり竜次郎はあまり極道としての自分を知られるのは好きではないようだ。
湊がそれで竜次郎への気持ちを変えるとでも思っているのだろうか。
「本当に、別に変な話はしてなかったよ。ただ、竜次郎はいつも俺にすごく優しいから、色々我慢してないかと心配で」
「まあ、自制ならしてるな」
「えっ、やっぱり?」
むすっとしたまま頬杖をついた竜次郎を思わず注視する。
「昨夜は自分でやらねえって言っておいて後悔したし」
「それは……でも我慢しなくてもいいのに」
次の日が辛かろうとも竜次郎にしてもらえるのは嬉しい。
「お前に負担な方が嫌だからに決まってんだろ。あれだ、美味いものは腹減ってから食う的な」
「獲物は太らせてから食べる的な?」
「二日目のカレーが美味い的な」
「寝かせた方がっていうあれ、食中毒とか結構気を付けた方がいいらしいよ?」
「マジかよ」
軽いやり取りができて、どうやら少し持ち直したようなので、改めて「朝ごはん、食べる?」と勧めてみた。
言われてようやく台所の様子がいつもと違うことに気付いたようだ。
「…ていうか、何だこれ。お前が作ったのか?すげえな」
「あの……前に料理作るって、約束……」
もしかしたら約束をしたつもりなんかないかもしれないと弱気が頭をもたげて、段々語気が弱まる。
「……………」
竜次郎が無言で目を細めたので、湊は慌てた。
「ご、ごめん!いらなかったら、いいけど……!」
「は!?いやいや、いらないわけねえだろ。違う、嬉しかったっつーか、眩しくて言葉がなかったっつーか」
「眩しい?」
「拾うな」
「う、うん」
よくはわからないが食べてもらえそうならよかったと、安堵する。
「もう少しかかるから、竜次郎服着てきたら?」
誰もつっこまなかったのでついスルーしていたが、竜次郎は下着一枚だ。
事後は全裸で風呂まで移動したりする(概ね湊は運ばれているだけだが)ので、今更のような気もするが、人の気配がある今は、肌色率があまり高いと少し気になる。
……男所帯で、誰も気にしないのかもしれなくとも。
湊の言葉に、竜次郎は素直に「顔洗ってくる」と立ち上がった。
用意が済む頃戻ってきた竜次郎は、湊作の和朝食を喜んで食べてくれたが、その間、先程の三人に先に唐揚げを食べさせたことをうっかり話してしまい、再び暗黒が広がってしまった。
……今後の彼らの安否が気遣われる。
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