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極道とウサギの甘いその後+サイドストーリー
極道とウサギの甘いその後5ー1
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「ただいま、竜次郎」
「おう、遅えぞ」
湊が『SILENT BLUE』での仕事を終えて戻ってくると、竜次郎はいつもこう言う。
「うーん、いつもと同じと思うけど…」
「いつも遅えんだよ」
二十四時閉店でそこから車で東京の端まで戻るので、もちろん早い時間ではないが、ほぼ毎日のことなのに、と少し呆れる。
とはいえ、自分も竜次郎と離れていると早く会いたいと思ってしまうので、とやかく言える筋合いではないかもしれない。
湊が落ち着く間もなく、竜次郎はぎしりと音を立てて椅子から立ち上がった。
「お前も戻ってきたし、そろそろ帰るか」
「今日はもう事務所にいなくて大丈夫なの?」
「お前が戻ってきた時間が俺の退勤時間なんだよ」
立場的にそれでいいのかどうかよくわからないが、もっと事務所にいてくれと頼まれているのは見たことがない。
今も、周囲のパソコンに向かっていたりどこかに電話をかけたり仕事中と思しき数人の組員は「お疲れさんっした~」とのんびり手を振っている。
ゆるく送り出され、二人で事務所を出て車に乗り込むと、湊はバッグの中のスマホが着信を知らせていることに気付いた。
「あ、八重崎さんからだ」
「こんな時間にかよ…」
盛大に眉を顰める竜次郎は電話に出てほしくなさそうだったが、平常時こんな時間に八重崎から連絡が来ることはない。
緊急の連絡かもしれないと、竜次郎に謝ってから通話ボタンをタップした。
「はい、桜峰です」
『湊…………、やってる…?』
「え……?」
思いもよらない第一声に、何の話かと首を傾げる。
声も唐突さも八重崎本人で間違いはなさそうだが、一体何を聞かれているのかわからず戸惑っていると、それについて重ねて問われることはなく、今度は近くに竜次郎はいるのかと訊ねられた。
いると答えると、スピーカーにして欲しいと言われ、特に断る理由もないのでそのようにする。
「八重崎さんが、竜次郎とも話したいって」
「ああ?こんな時間に何の用だよ」
『ガチ五郎…やってる…?』
「飲み屋や蕎麦屋じゃねえんだ。っつーか、やってると思ったら連絡すんじゃねえ」
なるほど、こんな切り返しを求められていたのか。
流石竜次郎は八重崎へのツッコミも完璧だ。
『閉店しているお店に連絡する方が…非常識…では…?』
「そこを繋げんなよ…はあ…、…お前と話してると頭が痛くなるんだが」
『…千人と話すと…九百九十九人くらいにそう言われる…』
「割合高すぎんだろ!ちったあ顧みろ!」
二人の会話はコントのようで面白い、が、なかなか話が進まず車も屋敷についてしまったので、「それで、今日は…?」と先を促す。
『……忘れてた……』
「いや忘れんなよ」
ぼやいた竜次郎は、しかし続いた八重崎の言葉に目を瞠ることになった。
『三十分ほど前…、『オルカ』の拠点の一つが暴徒に襲撃された…』
「…何だと?」
「そんな…、中尾さんは無事なんですか?」
『オルカ』は中尾宗治という男がリーダーの、半グレ集団だ。
互いの主張する縄張りが隣接しているので松平組とは仲が悪いようだが、湊自身は中尾に窮地を救ってもらったこともあり、仲良くしてくれるといいのにと思っている。
『オルカ』はヤクザではないので、わかりやすく代紋を掲げて事務所を構えてはいない。
社会的な実態を持たないことで検挙されにくいのが半グレの強みらしいが、つまり今回メンバー以外には非公開の拠点を襲撃されたことになる。
『襲撃された時…人は…いなかった…』
中尾はその場にはいなかったらしい。ほっとしたが、竜次郎は怪訝な顔のままだ。
「三十分前って…お前はこの情報どこから持ってきた」
『…暴徒がやって来た時…たまたまカメラで…見てた…』
「いや、それは普通におかしいだろ!」
並外れた頭脳と知識を持つ八重崎のことだから、世界中のどこでも、起動しているモニターやカメラがあれば、そこに割り込んで盗撮盗聴することくらい朝飯前だろう。
特に今の家電や電子機器はインターネットに接続して利用するものが多いので、干渉もしやすいはずだ。
…何故、その世界規模のサイバーテロを起こせる技術でもって、わざわざ中尾の拠点を観察していたのかは甚だ謎だが。
『…襲撃者は…恐らく一般人…。誰の差し金かは…不明…』
「……不明っても、お前には大体想像はついてるんじゃねえのか」
『確証のないことは…言わない…』
「中尾さんはこのことをもう知ってるんでしょうか」
『…こっそり…知らせておいたから…大丈夫…R・Mの署名入りで…』
「R・M?って、俺のイニシャルじゃねえか…!」
『八重子…お肌が荒れちゃうからもう寝るわ…』
「あっ、おいコラ、八重崎てめえ…!」
事態をややこしくしたまま、電話は切れた。
既に止まった車内で、竜次郎は大きくため息をついて頭を抱える。
「…あいつは…何がしたいんだマジで…」
「わ、わからないけど、知らせてくれただけでもありがたいんじゃないかな?」
「そう…か?まあ、あいつがいらんことしなくても、この後の展開は変わらねえかもな」
「?どういう意味?」
竜次郎は問いには答えず、運転席の組員に今の話を日守に伝えるよう指示を出し、すぐに湊の方に向き直った。
「とりあえず、今できることはなんもねえからな。俺たちは俺たちの、やるべきことをやろうぜ」
「やるべきこと…?」
何かあっただろうか。
首を傾げると、竜次郎は悪そうな顔でニヤリと笑う。
「もちろん、お前を可愛がったりとかそういうことだ」
そして湊は、車を降りるなり寝室へと連行された。
「おう、遅えぞ」
湊が『SILENT BLUE』での仕事を終えて戻ってくると、竜次郎はいつもこう言う。
「うーん、いつもと同じと思うけど…」
「いつも遅えんだよ」
二十四時閉店でそこから車で東京の端まで戻るので、もちろん早い時間ではないが、ほぼ毎日のことなのに、と少し呆れる。
とはいえ、自分も竜次郎と離れていると早く会いたいと思ってしまうので、とやかく言える筋合いではないかもしれない。
湊が落ち着く間もなく、竜次郎はぎしりと音を立てて椅子から立ち上がった。
「お前も戻ってきたし、そろそろ帰るか」
「今日はもう事務所にいなくて大丈夫なの?」
「お前が戻ってきた時間が俺の退勤時間なんだよ」
立場的にそれでいいのかどうかよくわからないが、もっと事務所にいてくれと頼まれているのは見たことがない。
今も、周囲のパソコンに向かっていたりどこかに電話をかけたり仕事中と思しき数人の組員は「お疲れさんっした~」とのんびり手を振っている。
ゆるく送り出され、二人で事務所を出て車に乗り込むと、湊はバッグの中のスマホが着信を知らせていることに気付いた。
「あ、八重崎さんからだ」
「こんな時間にかよ…」
盛大に眉を顰める竜次郎は電話に出てほしくなさそうだったが、平常時こんな時間に八重崎から連絡が来ることはない。
緊急の連絡かもしれないと、竜次郎に謝ってから通話ボタンをタップした。
「はい、桜峰です」
『湊…………、やってる…?』
「え……?」
思いもよらない第一声に、何の話かと首を傾げる。
声も唐突さも八重崎本人で間違いはなさそうだが、一体何を聞かれているのかわからず戸惑っていると、それについて重ねて問われることはなく、今度は近くに竜次郎はいるのかと訊ねられた。
いると答えると、スピーカーにして欲しいと言われ、特に断る理由もないのでそのようにする。
「八重崎さんが、竜次郎とも話したいって」
「ああ?こんな時間に何の用だよ」
『ガチ五郎…やってる…?』
「飲み屋や蕎麦屋じゃねえんだ。っつーか、やってると思ったら連絡すんじゃねえ」
なるほど、こんな切り返しを求められていたのか。
流石竜次郎は八重崎へのツッコミも完璧だ。
『閉店しているお店に連絡する方が…非常識…では…?』
「そこを繋げんなよ…はあ…、…お前と話してると頭が痛くなるんだが」
『…千人と話すと…九百九十九人くらいにそう言われる…』
「割合高すぎんだろ!ちったあ顧みろ!」
二人の会話はコントのようで面白い、が、なかなか話が進まず車も屋敷についてしまったので、「それで、今日は…?」と先を促す。
『……忘れてた……』
「いや忘れんなよ」
ぼやいた竜次郎は、しかし続いた八重崎の言葉に目を瞠ることになった。
『三十分ほど前…、『オルカ』の拠点の一つが暴徒に襲撃された…』
「…何だと?」
「そんな…、中尾さんは無事なんですか?」
『オルカ』は中尾宗治という男がリーダーの、半グレ集団だ。
互いの主張する縄張りが隣接しているので松平組とは仲が悪いようだが、湊自身は中尾に窮地を救ってもらったこともあり、仲良くしてくれるといいのにと思っている。
『オルカ』はヤクザではないので、わかりやすく代紋を掲げて事務所を構えてはいない。
社会的な実態を持たないことで検挙されにくいのが半グレの強みらしいが、つまり今回メンバー以外には非公開の拠点を襲撃されたことになる。
『襲撃された時…人は…いなかった…』
中尾はその場にはいなかったらしい。ほっとしたが、竜次郎は怪訝な顔のままだ。
「三十分前って…お前はこの情報どこから持ってきた」
『…暴徒がやって来た時…たまたまカメラで…見てた…』
「いや、それは普通におかしいだろ!」
並外れた頭脳と知識を持つ八重崎のことだから、世界中のどこでも、起動しているモニターやカメラがあれば、そこに割り込んで盗撮盗聴することくらい朝飯前だろう。
特に今の家電や電子機器はインターネットに接続して利用するものが多いので、干渉もしやすいはずだ。
…何故、その世界規模のサイバーテロを起こせる技術でもって、わざわざ中尾の拠点を観察していたのかは甚だ謎だが。
『…襲撃者は…恐らく一般人…。誰の差し金かは…不明…』
「……不明っても、お前には大体想像はついてるんじゃねえのか」
『確証のないことは…言わない…』
「中尾さんはこのことをもう知ってるんでしょうか」
『…こっそり…知らせておいたから…大丈夫…R・Mの署名入りで…』
「R・M?って、俺のイニシャルじゃねえか…!」
『八重子…お肌が荒れちゃうからもう寝るわ…』
「あっ、おいコラ、八重崎てめえ…!」
事態をややこしくしたまま、電話は切れた。
既に止まった車内で、竜次郎は大きくため息をついて頭を抱える。
「…あいつは…何がしたいんだマジで…」
「わ、わからないけど、知らせてくれただけでもありがたいんじゃないかな?」
「そう…か?まあ、あいつがいらんことしなくても、この後の展開は変わらねえかもな」
「?どういう意味?」
竜次郎は問いには答えず、運転席の組員に今の話を日守に伝えるよう指示を出し、すぐに湊の方に向き直った。
「とりあえず、今できることはなんもねえからな。俺たちは俺たちの、やるべきことをやろうぜ」
「やるべきこと…?」
何かあっただろうか。
首を傾げると、竜次郎は悪そうな顔でニヤリと笑う。
「もちろん、お前を可愛がったりとかそういうことだ」
そして湊は、車を降りるなり寝室へと連行された。
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