溺愛極道と逃げたがりのウサギ

イワキヒロチカ

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極道とウサギの甘いその後+サイドストーリー

極道とウサギの甘いその後5ー3

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 翌日、昼頃になって竜次郎と事務所に向かうと、昨夜のオルカの件についてみんな気になっていたらしく、どうだったのかと口々に聞かれた。
 とはいえ、来る前に日守とも話したが、昨夜から情報が増えているわけではない。
 無関係ではなさそうという見立てではあっても、襲撃されたのは松平組ではなく、オルカに怪我人が出たわけでもなかったため、するべき対処がないのである。
 そのため緊張感もなく、近所の噂話程度の情報共有をしていたのだが、そんなゆるい空気を吹き飛ばすように、事務所のドアが乱暴に開いた。

「竜ぅてめえこの野郎!」

 怒り心頭…という表情の中尾がつかつかと入ってくる。
 連日の中尾のカチコミに事務所内が緊迫した空気になり、全員が立ち上がると同時に。

「オッス…オラ八重子……。巷で噂の仏滅系oretuber…シクヨロ……」

 中尾に続いて謎の美少女?が乱入してきて、しばし時が止まった。

 ・・・・・・・・・。

「八重子!?てめえどこから現れやがった!?」
 一拍遅れて目を剥いた中尾は、八重崎からずさっと距離をとる。
「実は…さっきまで…ムネハルのポケットに入ってた……」
 黒地に目つきの悪いコミカルなクマの描かれたオーバーサイズパーカーのフードを目深にかぶった八重崎は、はみ出したウィッグのツインテールを細い指でいじりながらボソボソと答えた。
 そんなわけあるか、と怒鳴ると思ったのに、中尾は若干蒼褪めた顔で己のポケットを確かめている。
 その中尾の表情があまりにも真剣なので、松平組の面々も、触ると祟りがあるかのように八重崎を遠巻きにしていた。

「……近くで待機してて、中尾さんが来たタイミングで一緒に入ってきたんですよね?」
「そうとも……いうかも……」
 八重崎がこのあたりの都市伝説や七不思議にでもなったら大変だ。
 中尾の動向を逐一把握しているという危険性は緩和していないが、超自然的な現象ではないというフォローを入れておく。
 八重崎のことはスルーすることにしたのか、うんざりした顔の竜次郎が中尾へと声をかけた。
「また来やがったのか、中尾。こっちも勝手に名前使われた被害者だっつったろうが」
「ふざけんな、お前の容疑は晴れてねんだよ」
 ばちっと火花が散るような、二人のガンの飛ばし合い。

「やえこちゃんねるを視聴してくれてる全異世界のみんな……ここが…ヤクザの組事務所…だよ……早速ゴリラが縄張り争いしてるのを発見……」

 その横で、突如八重崎がスマホを掲げ、謎の配信を始めた。
「「おい待て何配信してんだゴラ」」
 二人に凄まれると、八重崎はわかっているというように大きく頷く。
「大丈夫……これは録画……顔は全員ゴリラのスタンプで隠す……。撮影対象が同じゴリラとはいえ……配慮は…大事……」
「大丈夫がどこにもねえだろうか!つーかゴリラが撮りてえなら動物園行け!」
「……エログロとダークサイドは…無限に視聴者数を増やすコンテンツ…って…どこかの誰かが教えてくれた……」
「「……………………」」

 竜次郎と中尾は八重崎との対話に絶望してしまったようだ。双方、両眼から光が失われている。
 思うに八重崎は、二人が適切なツッコミを入れてくれるのが嬉しいのではないだろうか。湊と話している時よりも口数が多い気がする。
 とはいえ、このままでは話が進まない。
 八重崎の娯楽を中断するのは申し訳ないが、湊は軌道を修正することにした。

「えーっと……、それで八重崎さんはどうしてここに?」
「それ……昨日の襲撃者達の個人情報……いる……?」
「一般人とか言っていたが、もう特定できたのか」
 先に眼の光を取り戻した竜次郎が乗り出してくる。
「指示役が使っていたメッセージアプリから……芋蔓で……」
「も、もう指示した人までわかってるんですか?」
 特定が早すぎる。知りたかった情報が出てきたためか、中尾も復活した。
「おい手前ェ八重子、その情報寄越せ。そうしたら、俺のオフィスを覗き見してた件はチャラにしてやる」
「八重子の情報は……有料……半グレのボス猿のプライベート情報程度とは引き換えにならない……」
「んだと…!?そいつには教えるつもりできたんだろ」
「湊は……デイリーなログボで大量の八重子ポイントを稼いでるから……無料なだけ……」
「八重子ポイント?」
「八重子が……エンタメと感じればたまるポイント……ムネハルも昨晩オフィスで……いけないオフィスラブでもあれば……たまってた……かも……」
「……………………」

 中尾は、再び眼の光を失った。

「ええと……、中尾さんにも教えてあげたいんですけどいいですか?」
「じゃあ湊は後で……昨晩の破廉恥プレイについて……教えて……」
「いやあの……、」
 破廉恥プレイなんてしていない。そう反論しようと思ったが、昨晩は行為に及んでいる最中に竜次郎が電話に出たりしていた。
 なかったと断言できず、湊は頷くことしかできなかった。

「大方の予想通り……白木組の末端組員が指示役……。実行犯は所謂闇バイト……SNSの募集に応募した若き益荒男たち……」
「益荒男……」
「データはムネハルの端末にも送っておくけど……未成年だから報復の際は注意……」
 忠告に、中尾が舌打ちする。
「白木組に特に変わった動きはない……けど、最近羽振りはよさそう……黒神会への上納金も増えてる……」
「どうせトクリュウ利用して小遣い稼ぎしてんだろ」
「トクリュウ?」
 『トクリュウ』とは、匿名・流動型犯罪グループのことで、SNSで募集する所謂闇バイトのような、結びつきが薄く離合集散を繰り返している集団のことらしい。特殊詐欺や薬物の売買に利用されていることが多く、バックに暴力団や半グレ集団がいることも多いようだが、拠点などがないためそもそも実態を掴みにくく、半グレと同じく検挙されにくいため、最近ダークサイドビジネス界隈で流行っているのだと竜次郎が説明してくれた。

「競合するから、牽制されたんじゃねえのか?」
「…………………」
 中尾は竜次郎の揶揄には反論せず、厳しい表情で黙り込んだ。
 何か心当たりがあったのだろうか。
 気になったが、湊が質問を口にするより先に、八重崎が一歩前へ出る。

「……配信の音声素材として……本職の方の巻いた『ゴルァ』録音したいので協力お願いします……」

 一切空気を読まずマイクを押し付ける八重崎に、「誰がやるか!」と二人の声が揃った。
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