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第一章 死んだらそこは異世界でした

10話 不穏な空気の中で舌を噛んだ私

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 今日もいつも通りゼンさんのベッドで起きて、床に毛布を敷いて寝ている彼を起こしたら、朝ご飯を作るいつもの流れが始まると思ったのに何でか外が騒がしい。
なのにこの人は朝に弱いせいで全然起きそうにないし、ほんと世話が焼けて……、そういうダメな所がかわいいなぁ。
出来ればこのまま私がいないとダメになっちゃう位甘やかして、必要とされたいって思うけど、そんな感情よりも今は状況確認した方がいいよね。

「そう思って着替えて出てきたけど……、なにこれ?」

 集落の入口にファンタジー物の物語に出てくるようないかつい鎧を来た集団が沢山いて、その代表らしき人とキューちゃんが話しているみたいだけど大丈夫なのかな……
心配だから近づいちゃおっか。

「キューちゃん、どうしたの?」
「シャルネ様……、危険ですからお下がり下さい」

 キューちゃんが尻尾で私を包み込むようにして隠してくれるけど、思いの外ふっさふさでもふもふして気持ち良いかも……、あ、癖になりそうですね。
何気なく手で触って感触を楽しんでいると、何やら硬いごぼうみたいな物を握ってしまったけど、その瞬間にキューちゃんの尻尾の毛が逆だって全体がぷるぷると小刻みに震える。
もしかして私、触ったらいけない所触れちゃった?、痛かったのかな、それとも気持ち良い方なのか。
気になってもっと触りたいけど今はその時じゃない気がするから抑えろ、抑えるんだ私ぃっ!

「おぉ?この声の主がシャルネ殿ですかな?」
「は、はひ!?」
「はひ?」

 急に知らない人に名前を呼ばれて思わず変な声が出たけど、恥ずかしさで赤くなった顔を見られていないので良かった。

「申し訳ないマチザワ殿、シャルネ様は大変人見知り故に出来ればこのままお話をして頂いても問題ないだろうか」
「なっ!?そうなのですか!?これは失礼致しましたですぞ……、ところで危険というのは我らの事であろうか」
「えぇ、いきなりこのような名も無き集落に集団で武装して来られるのは、どう見ても危険とは思いませんか?」
「ぐぬ、これはですな、……魔族の実質的なトップであるお二方の内、最も我らを殺した九尾のグロウフェレス殿に会うが故に致し方無くですな」
「……それはあなた達が私達の話を聞かずに襲いかかって来たからでしょう、戦狂いのケイスニルはともかく私は戦いを止める為に態々この世界の言語を学んで来たというのに、ニンゲンが力量を見誤るからそうなるんですよ」

 何だか言い方に棘がある気がするけど、大丈夫なのかな……、それに最も我らを殺したって事は人を沢山倒したって事だし、もしかしてキューちゃんって怖い人だったりする?。
そう言えば集落の人達で、ゼンさんとカーくん以外は必要な時以外は近づかないっていうか何だか怖がってるような雰囲気があったような気がするけど、んーでも仮に怖い人だったとしても私に優しくしてくれて甘やかしてくれるならいいかなぁって思う。
だってさ、そんな強い人が味方で居てくれるって凄い心強いし何よりも私が安心する、それに私自身キューちゃんの事、世話を焼いてくれるお兄ちゃんみたいで凄い好きだから、私に危害を加えないなら別にいっかなぁ……

「……それに関してはこちらの非がある故に何も言えませぬが、こちらも栄花の使者と視点としての面子がある故理解して頂けると」
「それなら武装せずに来るべきでしょう、私達の側としてはこの土地を使わせて頂いてる手前強い事を言えないのは事実ですが……、そんなに信用が出来ませんか?」
「私としては信用をしたいという気持ちがあるのは山々なのであるが、グロウフェレス殿に親族や恋人を殺された者がいるが故に、私個人としての感情ではどうしようもないのですよ」
「あ、あの、えぇっと喧嘩はやめませんか?」

 でもこのままだと口論になってしまうと思ったから、ここは私が勇気を出して止めないと行けないかなぁって、だって私はこの世界の争いを止める為に来たんだから、こういう時こそ頑張らないと行けないと思うし。
でも本音を言うと、前世で勇気を出した結果刺されて死んじゃったから同じようになったらやだなぁって気がして怖い。
折角こんな凄い美少女に生まれ変わったのに、色々と楽しい事を経験する前に残念ここで私の天魔生は終わってしまった!なんて言われるのはやだなぁ。
取り合えずキューちゃんの尻尾の根元を掴んで引っ張ったり、毛を触って感触を楽しんでいた手を放すと勇気を出してマチザワさんの前に姿を現してみる。

「お、おぉ……、何と可愛らしい」
「シャルネ様っ!?」
「あ、あの、ここで喧嘩しちゃダ、ダメひゃないきゃな……」
「な、なんとぉ!?」

 ……噛んだ、勇気を出して人前に出て声を出したら舌が上手くまらなくて、勢いよく舌まで噛んだ。
正直泣きたい位に痛い、いやもう泣いてしまっているかもしれない、だって二人が凄い驚いた顔をしてこっちを見てる。
あぁ、これどうしよう、どうしたらいいと思う?っていうか何でこんな大変な時にゼンさんは寝てるの?こういう時は仲間が近くにいて助けてくれるものだと思うんだけどなぁ、それにカーくんも何処に行ったの?、もしかしてだけど畑を耕していて気付いてない何て無いよね?。

「まさか泣かせてしまうとは思わず、これはどうすれば……」
「あ、い、いえ、気にしないで」
「グロウフェレス殿、ここは互いの意見をぶつけるのを止めませんか……、この栄花の国は戦いに疲れた者達や他国から逃げて来た者達が集まり、平和を願う者達が作り上げた国ですからな」
「……そうですね、それに一度は争いで滅び無人となった場所を再び国として立て直すと聞いた時は驚いたものですが、こうして同じ国に籍を置く同士争うのも不毛、ここはこの国を治める神とシャルネ様に免じて言い争いは止めましょう」
「え?、キューちゃん……、この世界にいる神様は五柱じゃないの?」

 両親の発言を思い出すと確かに神々としか言っていない、でも五つの国があるって言ってたから神様の数も同じだと思うし、私の使命はその五柱を討伐して争いを止める事だと思ってたけど、まさか六柱もいるの?。
でも、話の内容的にどうやらいい人っぽいから味方なのかもしれない。

「……シャルネ様は知らないのですね、この箱庭の世界を作り上げた神々は全部で六柱いるのですが、その中の人柱は争いを起こしてしまった事を悔いて私側の味方になってくれています」
「えぇそうなのです、名は【プリムラスグロリア】、現在は栄花の中央に立てられた社におられ……、我らから寿命を削らない程度に精気を吸い取る事を条件に共存関係にあるのですぞ、まぁ……最近は遊女の姿に扮して風俗街で働き足りない生命力を補充しておるらしいのですが、悪い神ではございません、特に私達はその神からこの世界を救う使命を持った者が現れたから連れてくるようにと言われたまでで……」
「え、えぇっと、そうなんだ、で、でも私達が旅立つのはもう少し先だから待って貰っていい?」
「なんと……、そうだったのですな、グロウフェレス様、シャルネ殿はどれ位に旅立つ予定ですかな?」
「予定では二週間後ですね、何分この世界に来たばかりで色々と危うい所があり、現在私が直接教えておりますが正直合格点にはまだ遠いので……、旅立ち次第栄花の首都に向かわせるのでお待ち頂けますか?」

……キューちゃんがそう言うと、マチザワさんは納得したような顔をして『なるほど分かりました、では神にはそのようにお伝えさせて頂きます、では我らはこれにて帰らせて頂きますぞ……、グロウフェレス殿、シャルネ殿この度はありがとうございました』と言って武装してる人達の所へ戻って行く。
何ていうか喋り方が個性的な人だったなぁって思って見送っていると……、武装している集団の中から黒い外套を着てフードを被った人物が飛び出て来ると、短剣を抜いて私に向かってくる。
あれ?これって不味い奴では?と思っていると、『待てっ!待つのだっ!貴様何をしているっ!』とマチザワさんが焦った顔をして走って引き返して来て、キューちゃんも私を守るかのように前に立って盾になろうとしてくれたけど、予想外の出来事に二人の反応が遅れたのもあって、飛び出して来た人物が近くで見ると何かの液体で濡れているらしい短剣を私に向かって突き刺そうとしてくるのであった。
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