治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

文字の大きさ
547 / 600
第十一章 盗賊王と機械の国

24話 一週間後の会議室で

しおりを挟む
 この前の出来事から、特にぼく達の方では出来る事が特に無くて、気付いたら一週間が経過していた。
その間にあった事と言えば、アキさんがミオラームと何を話したのか分からないけれど、彼女が満足したような表情を浮かべていた事くらいか。

「……サリアさん、来ませんね」
「うん」
「信用を何よりも大事にする彼女が来ないとはね」

 先週のやり取りの通りに、冒険用ギルドの会議室に集まったぼく達は未だにこの場に来ないサリアに対して呟く。
それを見た必要な書類の準備をしてくれているアキは、困ったような表情をしながら

「もしかして、シンさん達の身に何かあったのでは?」
「いや、サリアの実力を考えたらその可能性は低いと思うかな」

 確かにサリアの実力の事を考えたら、何かが起きた可能性は低いと思う。
けど……そう思えば思う程、どうして会議室に来ないのか……、アキが言うように本当に何かあったのではないか。
そんな事を考えると、少しずつ不安な気持ちになりそうだ。

「レースさん、落ち着いてください……、まだ何かがあったと決まったわけじゃないですから」
「……分かってるけど、やっぱり心配にはなるよ」

 もしサリアが戻って来なかった場合、ぼく達がこれから相手をする【盗賊王】シュラの実力は彼女よりも高いという事になる。
そう思った時だった、会議室の外が騒がしくなったかと思うと……勢いよく扉が開かれて……

「いやぁ、ほんと……ほんっと、死ぬかと、死ぬかと思いましたよぉ!!」

 と言いながら鮮やかな髪の色を泥等で汚したサリアが入って来た。
その姿は本当に何があったのかと困惑してしまう程で、所々が破けた服から見える肌に思わず眼が奪われてしまう。
勿論やましい意味ではなく、治癒術師としての視点で見てしまうわけで……あのようにボロボロになる程の衝撃を受けているのなら、出血等していてもおかしくない筈なのに、見える範囲ではそのような物が確認出来ない。
もしかして見えないところにあるのかもしれないと思い、椅子から立ち上がって近づくと

「あれ?レースさんどうしました……?ははーん、もしかしてこのあられもない姿で会議室に入って来た僕の姿に、性的な興奮でもしちゃいました?いやぁ僕も罪な女ですねぇ!」
「……ちょっと黙ってくれる?」
「え?あ……、え?」
「傷が無いか調べるから」
「……はい」

 まずは汚れた状態では傷があった場合、そこから細菌が入る可能性がある。
この汚れ方から判断すると、既に遅いかもしれないけど……治癒術を使って全体的な汚れを取り除くと、彼女と自身の魔力を同調させていく。
そして体内に異常がないか確認をしようとすると……

「ちょ!ちょっと、いきなり僕の中を見ようとするなんてっ!」
「そんな状態で会議室に来たサリアが悪いよ、とりあえず診察してるから大人しくしていてくれないかな」
「……えぇ、ちょっとライさん!あなたからも何か言ってくださいよ!」
「ここは諦めて、大人しくレース君に診て貰った方が良いんじゃないかな」
「じゃ、じゃあ……診て貰いながら何があったか説明しても?」

 その言葉に黙って頷くと、意識を集中して体内に異常がないか確認していく。

「僕がシンさんやガルシアを迎えに行った時、タイミングが本当に良かったのか悪かったのか、言い方が難しいんですけどね?二人がシュラと交戦してるところに合流してしまったんです」
「……アキ、会議の準備の手を止めて、サリアの話を紙にまとめて貰って欲しい」
「分かりました」

 サリアの言葉を聞いたライさんが何を思ったのか、忙しそうに動いているアキに内容を紙にまとめるように指示を出すと、それを聞いた彼女が腰のベルトに付けられたブックホルスターから空間収納の魔術が込められた魔導具の本を取り出し、中からメモ帳と一枚のペンを取り出す。

「……準備が出来たようなので、こほん!そこで今にも殺されそうになっている二人の前に颯爽と現れた僕は!二人に後で合流するから、ここは僕に任せて先に行くように指示を出したんですね!そうしたら……何と、『魔族風情が、高貴なる天族である俺の物に手を出すとは、身の程を弁えるべきだ』とかいきなり言い出して襲って来たんですよ」
「あの……そこから、どうなったのですか?」
「えぇ、カエデさんも気になりますよね?そこでしょうがなく戦う事になったんですけど、最初はね?戦えてたんですよ、けど途中でシュラの仲間だと思われる盗賊の方々がぞろぞろと参戦してきて、後は多勢に無勢!怪我をするような負傷は無かったと言えば嘘になりますが、この通りぼこぼこにされちゃいましてねぇ、いやぁ死ぬかと思いましたよ」

 彼女はそういうけれど肉体の何処にも異常な個所は見つからない。

「そうは言うけど……何処にもおかしいところは無いけど?」
「そりゃあ、切り落として来ましたからねぇ、いやぁお相手さん方驚いてましたよ?ボロボロな個所を切断して逃げる何て思わなかったのでしょうねぇ」
「……切り落としたって、何所にもそんな傷は無いけど?」
「そりゃあ、傭兵としての企業秘密って奴ですねぇ……、で、その隙をついて逃げた僕は二人と合流して、何とか必死に戻って来たのです!どうですか?僕は優秀でしょう?だって、それは僕ですからね!」

……サリアの自信ありげな言葉を聞いて、怪我の後も無いしこれ以上の治癒術は必要無いだろうと思い治療行為を止めようとした時に、違和感を感じて再度意識を集中させる。
すると彼女の魔力ではない、どす黒く、そして言葉にするのが難しい程に嫌な気配がする魔力の塊が本当にゆっくりと良く観察しないと分からない速さで頭部へと移動しているのに気づいて『サリア、悪いけどそのまま動かないで欲しい』と指示を出すと、【叡智】を発動させて自身の能力を底上げさせるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...