S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず

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2章

闇に堕ちた光

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光芒神聖教会本部の中央塔3階大廊下。
巨大な窓から差し込む月明かりに照らされた大理石には漆黒の衣装に身を包んだアレスと光芒神聖教会の正装に身を包んだヴィルハート・レーンの姿が映し出されていた。

「ふぅん、素直に通してはくれそうにないね。ここで騒ぎを起こしても面倒だし……」
「っ!?結界!!」

ゆっくりと歩みを進めるヴィルハートにアレスは緊張感を増していく。
そのアレスの立ち振る舞いを見たヴィルハートは周囲に覚られることを嫌い結界を張ったのだ。
ヴィルハートが指を鳴らすと一瞬で彼からシャボン玉を膨らませたように魔力の壁が広がっていく。
そして廊下の左右の壁で膨張を阻止された魔力のドームは巨大廊下の中央に挟まるような形で展開された。

(……あんな一瞬で結界を!?)
「素直にそこをどいてくれるなら怪我をすることもない。少年、そこをどいてくれないか?」
「……どんな理由があっても人殺しをしようとしてる人間を行かせるわけにはいかねえな」
「そうか。残念だよ……死体の山が増えるのは本意じゃないんだがね!!」

貼られた結界は音と魔力を遮断する物。
それにより結界の外の人間に戦闘の気配を覚られないようにしたヴィルハートは、最後の警告を断られると勢いよくアレスに襲い掛かってきたのだ。

「シャァアアア!!」
「っ!!」
「素手だからと言って見くびらないことだ!人間程度なら訳もなく切断できるぞ!!」

飛び出したヴィルハートは素手であったが、ガチガチに固められた手刀でアレスの顔面を勢いよく切り裂いたのだ。
その手刀をアレスはのけ反り回避したがその速度は想定以上でヴィルハートの手刀はアレスのこめかみを薄くかすめてしまった。

「待ってくださいヴィルハートさん!俺はあなたと戦いたくない!」
「なら大人しく道を開けるんだな!」
「なぜ聖職者だったあなたがこんなことを!」

本物の刀にも勝るとも劣らないヴィルハートの手刀を見てアレスも剣を抜き対抗したのだ。
鋭い突きや斬撃を繰り出すヴィルハートに、アレスはそれらをいなしながら説得を試みようとした。

「君は……奴らを守ることが正しいことだと本気で考えているのか?」
「どんな理由があっても人を殺していい理由にはならない!どうか考えを改めてください!」
「無理だな。奴らは教会の存在意義を踏みにじり俺の人生を壊した。それ相応の報いは受けてもらう」
「っ!?なんだこの気配!?」

アレスの説得虚しく教会上層部の人間への復讐を完遂しようとするヴィルハート。
その決意に呼応するように彼は内に秘めていたドス黒い狂気をアレスに向けたのだ。

「消えろ少年!!」
「くっそ!!雷霆……斬!!」
「っ!!」

漆黒に染まった手刀をアレスの心臓めがけて高速で突き出すヴィルハート。
それを見たアレスは少し躊躇ったような表情を見せたが、一瞬で腹をくくり繰り出された手刀をヴィルハートの腕ごと斬り落とした。

「……」
「もう勝負はついた。止血してください。あなたが俺に勝ってここを通るのは不可能です」
「ふ、ふはははは!!凄いな少年!!だが勝ち誇るのはまだ早いぞ!!」
「なに!?」

肘の先辺りから腕を斬り落とされたヴィルハートは悲鳴をあげるどころか痛みで表情をゆがめることなく斬られた腕を眺めていた。
そして突如気が狂ったかのように笑いだすと、斬られた腕を拾い瞬く間に切断面を再生させてしまったのだ。

(回復魔法……じゃない!?ヴィルハートさんの中の闇が肉体を引き戻した!?)
「さあ第2ラウンドと行こうか!!」

腕を治したヴィルハートは再びアレスに向かってスタートを切る。

「頼むヴィルハートさん!止まってくれ!!」
「俺を止めたければ俺を殺すしかないぞ少年!!」
「そんなことできない!!それに俺はあなたに頼みがあってここに来たんだ!」
「俺に頼みだと?」
「エトナっていう少女がこの教会で奴隷にされて奴隷の刻印を刻まれたんだ!このままじゃ彼女は死んでしまう。ヴィルハートさんには彼女を地獄の苦しみから救って欲しいんです!!」
「教会が奴隷だと……ちっ!やはり奴らは苦しんで死ぬしかないな。それに俺は貴様の頼みを聞く気はない。もう愚かな民のために命を削るのはごめんだ!!」
「ぐっ!!」

激しい連撃を繰り出すヴィルハート。
手刀の攻撃と会話でアレスの意識を逸らした彼は突如鋭い前蹴りを放ち、アレスの腹を激しく蹴り抜いたのだ。

「……ヴィルハートさん。あなたに何があったっていうんですか?」
(今のを防ぐか……やはりこの少年を突破するのは容易ではないな)
「俺は教会の腐った豚共に……大聖教ヒーナッツェに嵌められたんだ」
(また奴の名前かよ!裏でどんだけ悪事を働いてんだ!?)
「君は知らないだろうね。1カ月前からレンテーナの村で多数の死者を出してる呪い事件。あの事件の犯人もヒーナッツェだよ」
「なんだって!?」
「奴は貧しい民から自らの私腹を肥やすためだけに多額の解呪金を巻き上げ……それに意見した俺を教会から追い出そうとした!!何の罪もないレンテーナの村に呪いを放ち、その村を救うために呪いを肩代わりした俺を聖職者に相応しくない穢れに堕ちた存在だと追放した!!そのうえ意図的に呪いを振り撒きさらに民から金を搾り取ろうとすら画策している!!こんな糞に生きる資格があるというのか!!??」
(この人が纏う黒いオーラはその呪いが原因か。だが恐らくその呪いがこの人の精神まで作用し彼を闇に引きずり込もうとしている。彼を助けるには……あの魔力を斬るしかない)

ヴィルハートの蹴りを喰らって後方に飛ばされたアレスだが、その蹴りを受ける直前に左腕を差し込み大ダメージを避けていたのだ。
ヴィルハートから少し距離を取ったアレスは言葉による説得は無意味だと悟り、彼の中にある黒い魔力を取り除くしかないと考えたのだ。

「今度はこっちから行きますよ!」
「っ!なんという踏み込み!!だがあまりにも直線的すぎないか!?」

直後、アレスはヴィルハートに向かって凄まじい踏み込みを見せた。
その踏み込みはヴィルハートの想像をゆうに超えたが、あまりに直線的な動き故に彼に簡単に対応されてしまったのだ。

「邪魔なだけかと思ったけど使い道があったわ」
「なに!?」

だがアレスはヴィルハートの繰り出した手刀が伸びる直前、身に着けていたマントを取り外すと一気に自分と彼の間に放り投げたのだ。
広がったマントは一瞬にしてヴィルハートの視界を奪う。

「ちぃ!!」
「もらった!」

アレスのその行動に対応できないヴィルハートはそのまま手刀をマントに突き立てる。
しかしすでにマントの向こう側にアレスの姿はなく、アレスはその突きを掻い潜りヴィルハートの側面から剣を振り上げたのだった。

しかし……

『ぐをぉおおおおお!!!』
「っ!!!」

振り上げた剣をヴィルハートに振り下ろす直前、アレスはその一撃がヴィルハートの命を奪ってしまうという未来を明確に想像してしまいその剣を止めてしまったのだ。

「何をしている!?あまりにも隙だらけだぞ!?」
「しまっ……」
(この間合いは……外せない!!)

その一瞬の硬直はあまりにも致命的であった。
ヴィルハートはアレスの硬直を見逃さず攻撃態勢に映ったのだ。
直後、ヴィルハートは大理石の床が粉々に砕けんばかりに地面を踏みぬく。

「これはきついぞ!!揺魂波!!!」
「ごはぁああああ!!!」

そして繰り出されたのは地平線の彼方に吹き飛ばんばかりの強烈な掌底。
それをもろに喰らったアレスはくの字に折れ曲がり勢いよく地面を転がっていったのだ。

「ごほっ!!がっ……かはっ……」
(な、なんだこれ……ただの打撃じゃない……!?)
「……?」

地面に倒れたアレスはあまりのダメージにすぐに立ち上がることが出来なかった。
先程の掌底は見かけほど破壊力があった訳ではない。
その代わりに体の内側から組織を破壊されるような何とも言えない痛みを植え付けられる攻撃であった。
しかしそんなアレスの様子を見たヴィルハートはなぜか腑に落ちないといった表情をしていた。

「なっ!?貴様ら何者だ!?侵入者だー!!」
「おっと、流石に見つかってしまったか。ここは一度退散させてもらおうか」
「ぐぉ……俺も、捕まるわけにはいかねえ……」

だがいくら音や魔力が漏れなくてもこの現場を直接目撃されてしまえば発見されてしまうもの。
偶然大廊下を通りかかった聖職者がアレスとヴィルハートの姿を見て大声で侵入者の存在を報せたのだ。
それをみたヴィルハートは大廊下の窓を突き破り脱出を図る。
地面に倒れていたアレスも根性で立ち上がり同じように窓を突き破って教会本部からの脱出を目指したのだ。



「ぐぅ……はぁ……はぁ……」
「アレス君!?どうしたの!?」

すでに騒ぎが起きた以上秘密裏に結界を突破する必要はない。
塀を斬撃で打ち破ったアレスは何とか教会本部の追っ手を撒くと、ソシアたちが待つ宿の窓から部屋に戻ったのだ。

「はぁ……はぁ……ヴィルハートさんをみつけたけど、教会の人間のみつかっちまってはぐれちまった……」
「しっかりしてアレス君!すぐに回復するから!」
「いや、多分これは普通の傷じゃねえ……ソシア、ヴィルハートさんは教会の人間を皆殺しにするつもりだ。さっきはどこかへ逃げたがきっとまた現れる。だから……すまんが……あとのことは、頼ん……だ……」
「アレス君!!!」

ソシアの元まで何とか逃げ延びたアレスだが、先程ヴィルハートから喰らった一撃があまりにも深刻で窓の淵に足をかけた状態から部屋の床に倒れてしまったのだった。
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