幼なじみは絶対人質の許嫁

青香

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 俺の名はカイル。
 『暴虐』スキル持ちの妹を持つ、二十歳の兄だ。

 ティナの胸をぶっ叩いた妹を説教した後、今は自宅で、家族と夕飯の食卓を囲んでいる。
 今日のメニューは、妹がお土産で持って来た猪肉があるから、いつもより豪華で食いでがある。
 猪肉ステーキに、猪肉スープ。
 久々に食べる肉は、とても美味しく感じる。

 「プリちゃんのおかげで、ご馳走が食べれたわ」
 「そうだね、母さん。プリシラ、ありがとう」
 「良かった!お父さんとお母さんが喜んでくれたなら、凄く嬉しい!また今度見つけたら、ボコボコにして、引き摺ってくるね!」

 十五歳の少女が発する発言ではないだろう。

 「まぁ、嬉しいわ!本当に良い子に育ってくれたわ」

 母は妹の頭を撫でる。

 このズレた感覚が、我が家では当たり前だ。
 ティナの家では、『猪を狩ってきたイコール良い子』という評価にはならないだろう。
 おそらく他の家庭だと、『危ないからやめなさい』と注意するのが普通ではないか。

 まぁ、プリシラのおかげで豪華な食事になっているし、本人もケガ一つしてないから、俺もこの問題を考えるのはよそう。

 頭を撫でられ、嬉しそうに微笑むプリシラ。

 「えへへ!私、二人のこと大好き!あ、もちろん、お兄ちゃんの事も大好きだよ?」
 「あぁ、わかっている。俺もプリシラの事、大切に想ってるぞ」
 「大切!?もぉぉ!お兄ちゃんったら!」

 妹は顔を赤く染め、大いにテレ始める。

 そんな取り乱す様な事、言っただろうか?
 家族を大切に想うのは、当然の事だと思うが。

 しかしこうやって無邪気に笑っていると、本当にウチの妹は可愛い。
 『暴虐』のスキルはちょっとアレだが、それ抜きに考えても、街の方では凄くモテるのだろうな。
 俺の主観だが、街の人達は異性に対して、積極的なアプローチをしている気がする。
 プリシラに言い寄ってくる男も、多いんじゃないかな。
 もしかしたら恋人とか、もう居るのかもしれない。
 ちょっと聞いてみるか。

 「プリシラ。街の生活には、もう慣れたのか?」
 「もう半年くらいになるから、馴染み出してきた所、かな?どうして?」
 「いや、お前は可愛いからな。もしかしたら恋人とか、居るのかなって思って」
 「こい、びと?」

 一瞬で、プリシラの瞳が鋭くなった。
 その視線に、凶々しい殺気の様なものを感じる。

 うっ!
 聞いたらマズイ事だったか!?
 確かにプライベートな事なのだから、例え身内だとしても、もっと注意を払うべきだった!

 俺がそんな後悔を抱いているうちに、妹の鋭さは緩くなる。
 母の『慈愛』スキルが発動したようだ。

 「お兄ちゃんには、そんな事、聞いて欲しくなかったな」

 とても悲しそうな顔をする妹に、俺は焦って謝罪した。

 「すまん、プリシラ。そんな事を興味本位で聞いた俺が悪かった。本当にごめんな」

 妹はフッと笑顔を見せる。

 「いいよ!お兄ちゃんだから、特別に許してあげる!可愛いって言ってくれたし!」
 「あ、あぁ」
 「えへっ!」

 テンションの変わりように、何か違和感を感じるが、いつもの笑顔を取り戻してくれて良かった。
 一瞬、あの視線を向けられた時は焦ったぞ?
 あの時を思い出すようでな。

 しかし、俺の両親も酷い者だ。

 俺がプリシラの恋人の有無を聞いた時、あんなに目を爛々として興味を示したのに、雲行きが怪しくなるとダンマリするなんて。
 『慈愛』で助け舟を出してくれた事は、素直に感謝する。
 しかしだ。
 家族なんだから、もっとフォローしてくれよ!
 まったく。

 両親に若干の不満を抱いていると、母がプリシラに話しかける。

 「いつまで居れるの?プリちゃん」
 「明日のお昼までかな?」
 「そうなの。それじゃあお父さん、プリちゃんのお布団出すから手伝って?」
 「わかった。行こうか」

 二人はスッと立ち上がる。
 そして両親は、プリシラの布団を用意しに部屋を出て行った。

 「そういえば、着替えとか持って来ているのか?」

 俺は妹に聞いた。
 来た時、両手に猪だったからな。
 何の荷物も持って来てないはずだ。

 「あ、そうだった!荷物運んで貰ってたの忘れてた!ちょっと、取りに行ってくるね?」

 取りに行く?
 何処に?
 それに外は、もう暗い。
 心配は無用かもしれんが、付き添ってやらないと。
 なんせ俺は、兄だからな!

 「外は暗いからな。俺も一緒に行こう」

 兄の言葉に、プリシラは嬉しくて、表情がパァッと輝く。

 「いいの?お兄ちゃん、優しいね!そんな所が、私、だぁい好き!」

 言いながらカイルに抱きつくプリシラ。

 フッ。
 そんなに喜んでくれると、兄冥利に尽きるな。
 それに、その天使の様な笑顔を向けてくれるなら、例えどんな苦難でも苦にもならんさ。

 しかし、本当にベタベタと引っ付く。
 街に仕事をしに行って、少しは大人びたと思っていたんだがな。
 まったく、プリシラはいつまでも子供だな。

 「それで?荷物を何処に取りに行くんだ?」
 「えっとね。村の入り口まで運べって命令してあるんだけど」

 命令?
 命令って、どうゆう意味だ?
 あ。
 もしかしたら、仕事仲間か?
 この短期間で出世して、部下が出来たのかもしれんな。
 妹にとっては部下かもしれんが、ここはキチンと挨拶しといた方がいいかもしれない。

 しかしカイルは、一つ懸念していた。

 プリシラが到着してから結構時間が経っている。
 そして忘れていたような言動。

 「もしかして、ずっと待たせる形になっているのか?」
 「うん!今まで忘れていたから!」

 なんでそんなに明るく話すんだよ!
 相手は、ずっと待ってるんだろ?
 いくら部下だとしても、可哀想過ぎるだろ!

 『もう、あんな人にはついていけません!』なんて、嫌われたらどうするんだ!?
 お前は、まだ分かっていないのかも知れないが、仕事仲間との信頼関係って大事なんだぞ!
 こうしちゃおれん!
 早く行かなければ!

 「早く行くぞ!急がないと!」
 「急がなくても大丈夫だよ!あいつは私に逆らえないんだから」

 パワハラ発言出たぁ!
 全然大丈夫じゃないぞ、妹よ!
 一番上司にしたくないタイプを、地で行ってどうする!
 どんな勤め先なのか知らないが、そこで嫌われてしまうぞ?
 プリシラには後で言い聞かすとして、今は俺が謝罪をして、少しでも印象を良くするしかない!

 カイルは変な使命感を帯びた。

 「大丈夫じゃない!行くぞ!」

 俺は玄関の扉を開けた。
 しかし妹が動く気配がない。
 何をしているんだ?と振り向く。

 「お兄ちゃんと、手を繋いで行きたい、な?」

 そう言って瞳を麗し、片手を差し出していた。

 バカヤロウ!!
 そんな場合じゃないだろう!
 時間が経てば経つほど、相手の印象が悪くなるんだぞ!?

 俺は急ぐために、プリシラをお姫様抱っこした。

 「えぇ!?お兄ちゃん!?あぁ、お兄ちゃ~ん」

 プリシラは驚いていたが、抱かれるやいなや俺の首に手を回し、鎖骨辺りに顔をやり頬擦りしだした。

 少々くすぐったいが、そうしてくれた方が安定して走りやすい。
 さすが俺の妹。
 動きやすいように、ちゃんと考えてくれているんだな。

 落とさないように、しっかりホールドする。

 「よし、行くぞ!」

 俺はプリシラを抱えて家を飛び出した。

 今日はどの家庭からも、肉料理の香りが漂って来ている。
 ティナの家からも、美味しそうな匂いが漏れてきていた。
 おそらく煮込み系の料理だ。

 それは置いといて、明日は妹の代わりに、ティナへ謝らないとな。
 今日は悪いことをした。

 そんな俺の気持ちも知らず、妹は俺の体に頭を擦り付け、恍惚の表情をしている。
 ネコみたいだな。
 まったく。
 だがプリシラのお陰で、村人皆んながご馳走を堪能できているんだ。
 そこには、感謝しないとだな。

 さて、着く前に確認しないと。

 「プリシラ」
 「なぁに?」
 「待たせている人は、どんな人だ?」
 「ゴツゴツしたオジサン」

 オジサン!?
 俺より年上を待たしとんのかい!
 そうなると困ったな。
 年下の子だと、ある程度快く受け入れてくれるだろうが、年上となると、若輩者が謝った所で、許してくれるだろうか。

 ハァ。

 もはや現在進行形だからな。
 難しいかもしれないが、丁重に謝るしかない、か。

 謝罪へ挑むにあたって、事前にプリシラへ釘を指す。

 「お前は余計な事を、口挟まない様にな?」
 「なんで?」
 「いいから!」
 「は~い」

 そうだ、それでいい。
 お前の為に、俺が丸く納めてやるからな。

 そう決意した所で、門前に佇む人影が見え始めた。
 プリシラが『ゴツゴツ』と表現していた意味も分かり始める。
 シルエットを見るに、ガタイの良さが遠目でも確認出来たからだ。

 生唾を一飲みするカイル。

 妹の将来の為にも、俺は、俺は!
 絶対に、この難局を乗り切って見せる!

 気負って目元が鋭くなる。

 いざ、まいる!
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