幼なじみは絶対人質の許嫁

青香

文字の大きさ
12 / 58

12

しおりを挟む
 「ちょっと待てぇ!」
 「どうしたの?」

 思わず叫んで、下されるファスナーの動きを封じ込める。

 なんかダメだ!
 そりゃ今まで、同じ部屋で寝起きしてたんだから、着替える所は何度も見てきた。
 見てきたと言っても、凝視していたわけではないぞ!?
 視界の端で、少し見える程度だ。
 それも妹だからと、意識することなどなかった。

 しかし、しかしだ!
 ドレスは何か、ダメな気がする!
 俺がドレスフェチだから、そう感じてしまうのだろうか?
 決して妹に、欲情しているわけではないのだが、胸の奥底から何か込み上げて、心臓が高鳴りしている!
 何なんだ、この背徳感に似た感情は!?

 顔面に血液が集まる感覚。
 俺と妹の時間が一瞬止まっていた。
 そんな時間を、両親が動かす。

 「どうしたの!?」
 「カイル!お前」

 母カータは単純に心配の声を上げたが、父ベイルの言葉と表情は違い、それに俺は気付いてしまった。
 この状況を両親から見たら、どう映るのかと。
 妹のドレスを、無理矢理脱がそうとする兄。
 そんな構図に見えなくもない。

 『お前、妹に欲情する、そんな変態だったのか』とでも思っていそうな父の顔。

 フッ、焦るな。
 そんなつもりで動いた訳ではない。
 それに俺は、そんな変態などではない。
 やましい事など、一つもないのだ!

 「こ、これは、その、勘違いしないでくれ!ち、違うんだ!」

 思いとは裏腹に、変な事を言ってしまう俺。
 これでは肯定しているように見えてしまう。
 しかし、落ち着かせる為に、母は『慈愛』スキルをかけてくれた。
 おかげで、一瞬でスンとなることができた。

 「プリシラが着替え出したんで、止めたんだ。もう十五歳。そろそろ女性として、異性を意識すべきだと思ってな。例え、兄だろうと恥じらいを持って欲しいと、俺は思う」
 「そ、そうだったのか。そうだよな!カイル!」

 父は訝し気な表情を解き、俺に近づき、そして肩を叩いた。

 「父さんは、信じていたぞ!」

 何をだ?
 さっきの顔は、一体何だったんだ。
 まぁいい。
 誤解が解けたなら、何の問題もない。

 「プリは平気だよ?」
 「プリちゃん、あのね?もう十五歳だから、大人の女性に近づいているの。だからねーー」

 母はプリシラに諭すよう、俺の意図を話してくれた。
 母なりに、俺の意見が正しいと思ったのだろう。
 妹は、母の言葉に『うん。うん』と相づちを打ちながら頷いている。

 「でも、プリちゃんの一番好きな男の人は例外!その人には裸を見せてもいいけど、それ以外はダメよ?」
 「一番好きな人?」
 「そうよ」
 「じゃあ、お母さんは、お父さんにしか見せないって事?」

 予想外の言葉に、両親は顔を見合わせた。
 そしてポッと顔を赤くして、お互い視線をずらす。

 「そうね!お母さんは、お父さんだけよ」
 「ゴホン!」

 父は恥ずかしいのか、わざとらしい咳払いをした。
 そして。

 「ベイル」
 「カータ」

 見つめ合う両親。
 顔を赤くして、お互い、目を輝かしている。
 そして母は手を伸ばし、父は、その手を取った。
 父が抱き寄せ、顔を近づける二人。

 やめろ!!
 実子がいるんだぞ!?
 何をする気だ!

 「父さん、母さん」

 俺の呼びかけに、二人はハッとして離れた。

 「あら、やだ!もう、お父さんったら!」
 「ハハハッ!」

 照れ笑いする父。
 笑い終わりに、また両親は目が合う。
 そして、ポッと擬音が聴こえて来そうな勢いで、二人は頬を赤らめた。

 いや、エンドレスか!
 まったく。
 仲の良い両親だな。
 それはそれで、幸せな事だ。

 そんな事を思い、妹を見た。
 俺の視線に気づき、妹と目が合う。
 すると、プリシラはポッと顔を赤らめ、視線をずらした。

 何の『ポッ』だよ!
 どういう意味なんだ、まったく。
 変な家族だな。
 だが、うん。嫌ではない。

 プリシラは母の顔を見る。

 「お母さんが言うなら、そうする!プリは一番好きな人にしか見せないよ!」
 「うん!プリちゃん偉い偉い」
 「えへ~!」

 どうやら納得したようだな。

 そして母は、自らの両手を用い、パンッと手を叩いた。

 「それじゃあ、プリちゃんのお着替えの為に、カイルは一旦部屋から出ましょう。カイルは朝食の用意を手伝って?」
 「あぁ、わかった」

 両親の後に続き、俺も部屋を出た。
 扉を閉めようとした時、白い細腕が俺の手を掴む。
 プリシラだ。
 開いた扉の隙間から、手招きをしている。

 なんだ?

 おそらく内緒話だろう。
 そう思い、耳を近づける。
 妹は小声だった。

 「お兄ちゃんになら、いつでも見せてあげるからね!」
 「そうか、わかった」

 プリシラは、にへっと笑った。
 俺は扉を閉め、外に向かう。

 「カイル?どこ行くの?」
 「すまん、ちょっとだけ」
 「ちょっとだけ?なら、早く戻ってきなさいよ。もう、ご飯食べるんだから」
 「あぁ、すぐ戻る」

 俺は近くの井戸に行く。
 そして中を覗き込み、大きく息を吸った。

 「どういう意味だぁぁぁぁ!」

 井戸に向かい大声で叫んだ。

 プリシラは何か勘違いしてるじゃないか!
 家族で一番好きな人って話じゃないんだぞ!
 見せられても俺が困るだろうが!

 「わぁぁぁぁぁ!」

 もう一度、井戸に向けて咆哮した。

 ハァ、ハァ。
 意外と大声を出すことは良い事だな。
 スッキリした。
 よくよく考えたら、現時点での話だ。
 今は家族以外に、好きな異性が居ないのだろう。
 もしそんな存在が現れたら、自然と対象が移る事になる。
 そういう事なのだ。
 俺が変に意識する必要はない。
 そうだろう?

 深く考えすぎの自分を諫め、妙に納得した所で家に戻った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...