幼なじみは絶対人質の許嫁

青香

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 家に戻ると、食卓に料理が並び始めていた。

 「カイル、これ運んで頂戴」
 「あぁ、わかったよ」

 母の手伝いをする。
 我が家の朝食は、焼きたてのパンと、新鮮な野菜のサラダ。
 そして季節の果物が、デザートの定番だ。

 ほとんど、ティナの母親ニーナさんからの貰い物だ。
 なんせ小麦はパラパラッと撒いて、土に触るだけ。
 野菜は種を撒いて、土に触るだけ。
 果物は、すでに生えている果樹に触るだけで勝手に実る。

 本当に助かっている。
 この村が自給自足出来ているのは、ニーナさんの貢献が大きい。
 まぁ、頻度高めでつまづいて、予期せぬ収穫をもたらしてしまうのは、少し問題となっているがな。

 今日の朝食は、プリシラのおかげで、いつもより香ばしい匂いが追加されている。
 昨日食べきれなかった猪肉が、スープとして調理されてるからな。
 美味そうだ。

 「お待たせ!」

 プリシラが寝室から出てきた。

 くぅぅぅ!
 可愛い!
 今日は、お姫様風ドレスじゃないかっ!
 昨日の令嬢風ドレスも良かったが、俺はこっちの方が好きだ!!

 フリッフリの柔らかそうなドレス。
 某国のお姫様が着ていそうなデザイン。
 ほんのり黄色がかった色彩が、高貴さを感じさせる。
 まるで、お伽話の絵本から抜け出してきた、物語の主人公のようだ。

 「わぁ!プリちゃん、可愛いわね!」
 「うんうん!お姫様みたいだよ、プリシラ!」

 両親は大絶賛する。

 当然だろうな。

 「えへへっ!」

 ハニカム笑顔が、ドレスを引き立てる。

 「どう?お兄ちゃん!プリ、可愛い?」
 「あぁ、可愛いよ。父さんと母さんが言うように、本当にお姫様みたいだ」
 「えへへ!嬉しい!」

 フフッ。無邪気だな。
 はしゃいでる姿は、子供みたいだ。
 しかし二日続けてとは、余程気に入ってるファッションスタイルなんだな。

 俺は一つ質問した。

 「ドレスを着るのが、街で流行っているのか?」
 「街で?そんな事ないと思うよ?お兄ちゃん」

 そうなのか、当てが外れたな。
 それなら、ただ単に気に入って着ているのか?

 「それじゃあ、何でドレスを着始めたんだい?前は、そんなの持って無かっただろう?」

 父が疑問に思って問うた。
 その答えは、俺に精神的ダメージを与える。
 それも、深刻なダメージだった。

 「お兄ちゃんが、ドレス好きだから!」
 「えっ?」

 両親の視線が俺に注がれる。
 俺の口角は、ピクピクと痙攣しだす。

 えぇぇぇ!?
 何で知ってるんだよ!この妹はぁぁぁ!?
 俺、言った事あったっけ!?
 いや!
 無い!断じて話したことなど無い!
 そんな自分の恥部を晒す程、俺は間抜けでは無い!
 そうだ!そんな間抜けではない!!

 いや、待て待て待て!
 今はそんな事、どうでもいいだろう!
 いや、どうでも良くないが、どうしたらいいんだ!?

 俺の頭は大混乱だ。
 会議室では、脳の重鎮達が紛糾している。

 「何故知られたのだ!」
 「わからん、誰かスパイがいるのではないか?」
 「それはあり得ん!我々の誰かが裏切ると思うのか!?裏切ったとして、其奴が得られる利益が、あると思うのか!?」
 「それもそうか。皆、俺なのだからな」
 「今は、その議論をしている場合ではなかろう?」
 「そうだそうだ!どうやって、この場を切り抜けるんだよ」
 「うぅむ。わからん」
 「わからんで済むわけないだろう!」

 答えの出ない議論が繰り返される中、父が『妹に性癖を押し付けるとは』と目で訴えてくる。

 「どういたすのだ?父上が怒っているぞ!」
 「そうは言ってもだな。こちらは何もしていないのだぞ?」
 「そんな理屈が通る相手ではなかろう!対策を!対策を!!」
 「ええい!黙らないか!冷静に!冷静に考えるのだ!」

 議論が纏まらない。
 ダラダラと冷や汗が流れる俺。
 手足が指先から凍り付いていくような感覚がする。
 そんな苦境を、『慈愛』が救ってくれる。
 母がスキルを使用した途端、肩の力が抜けた。

 「そうか、俺の為だったのか。でも、何でそんな事を知っているんだ?俺は喋った事、無いんだけどな」

 『慈愛』すげぇな!
 言いにくい事でもスラスラ言える。
 核心に迫る内容だ!
 でも、自分で言っていて恥ずかしい!
 何の辱めなんだぁ!
 こんな拷問、酷すぎる!!
 俺が何したってーー。

 二回目の『慈愛』を確認した。

 「お母さんが言ってたよ?」
 「母さんが?」

 家族の視線が、母カータに集まる。

 「あぁ。もしかして、あの時の。よく覚えていたわね?」
 「えへへ!」

 二人だけの思い出なのか、よくわからない。

 「どういう事なんだ?」

 いや!俺よ!
 別に聞かんでいいだろ!!
 深堀した所で、傷口が広がるだけだーー。

 三回目の『慈愛』発動。

 「ほら、プリちゃんが街に働きにいく事になって、住む場所を母さんが一緒に見に行った時よ」
 「あぁ、半年前の」

 そんな事あったな。
 大事な娘が、どんな待遇で迎えられるのか、確かめて来るって街に付き添って行った時の話だ。

 「街を歩いていたら、ドレスを纏ったお嬢さんが居て、『お兄ちゃんは、ドレスを着た人が好きなのよねぇ』って言った気がするわ」

 俺の口角が再び痙攣しだす。

 母親にバレてんじゃねぇか!
 でも、俺は言った覚えはないぞ!?

 やめておけばいいのに、深堀を続けてしまう俺。

 「母さんに言った事、無いはずだが」
 「フフッ!何でも知ってるわよ?お母さんだもの。カイルを街に連れて行って時、貴方、ドレス着た人を、ずっと目で追うんだから、わかっちゃったの」

 議場は大荒れだ。

 「間抜けめ!自ら行動で示して悟られるとは!」
 「なんだと!?間抜けは、お前も一緒だろう!」
 「何を言う、この青二才が!」
 「すまん、俺が油断したばかりに!」
 「待て待て!仕方ないだろう?母親の洞察力が優れていたんだから」
 「しかしだな」
 「言っても仕方ないだろう?もうバレているんだ。私は潔く認めた方が良いと思う」
 「むぅ」
 「それしか、ない、か」
 「うむ」
 「では、満場一致で、潔く認める事とする!」
 
 頷く脳内議員達。

 「閉場!」

 採択が為された事で、俺の混乱は一段落した。
 もう知られているのだ。
 隠しても仕方ない。

 「この村では、見る事がほとんどないからな。綺麗な服があるもんだなと、衝撃を受けて以来、ドレスは好きだ」

 俺の告白に、食卓は静まり返る。
 瞬きすら許されない、緊張した空気が流れた。

 何を言ってるんだ、俺はぁぁ!
 自ら進んで自白するなど、どうかしてるぞぉ!

 そんな苦悩に苛まれる俺に、プリシラが声を掛ける。

 「お兄ちゃんが好きな物だから、プリは着てあげるの。お兄ちゃんが喜んでくれるなら!」
 「プリシラは、お兄ちゃんに優しいな」
 「えへっ!」

 妹の言葉に、父は感動の涙を流した。
 兄が喜ぶ為に、してあげている。
 なんと優しい娘に育ったんだと。
 先程まで『妹に性癖を押し付けるとは』と軽蔑していた姿はどこにも無い。
 その様子に、俺は安堵した。

 父の誤解が解けたようだな。
 危うく、俺が頼んで着させているという事になる所だった。
 しかし。

 ふと思った。

 昨日の寝る時に、着ていたドレス。
 『我慢』という言葉を使ってまで着ていたが、あれも俺の為に?
 俺が喜ぶから、寝にくいのに我慢して着てくれていたのか?
 そう考えると、なんて健気なんだ。
 だがな、俺の為に、それもどうしようもない趣味趣向の為に、そんな我慢などする必要はないだろう。

 「プリシラ」
 「なぁに?お兄ちゃん」
 「可愛い姿を見れて嬉しいが、無理はしないでくれ」
 「無理?」

 人差し指で頰を突き、首を傾げるプリシラ。

 どうやら分からないようだな。
 もう少し、噛み砕くか。

 「我慢してまで、俺の為にしなくていい、という事だ」
 「うん!わかったよ、お兄ちゃん!」

 パァッと明るい笑顔を見せる妹。

 なんだか、いやに素直だな。
 もう少し、何かこう、意見を言ってくると思ったのだが。
 まぁ、理解してくれたなら、それでいいか。

 こうして、ドレス騒動はハッピーエンドで終わりをむかえた。
 得た物は『恥ずかしさ』と、俺の『ドレスフェチ情報』を、家族で『共有』出来たこと。

 フッ。全ては収まるところに収まった、な。

 まったく。

 全然、ハッピーエンドじゃねぇよ!!
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