幼なじみは絶対人質の許嫁

青香

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 しかし、この状況はどうすれば良いのか。
 俺達家族を取り囲む、武装集団。
 プリシラは正気を取り戻しているが、未だに怯える者。
 生を諦め、呆けてしまった者。
 そして、吹き飛ばされて気絶する者が混在する。

 ここ、ラクラス村の近くなんだよな?
 なんなんだよ、この末期の戦場みたいな感じ!
 いや、それよりもだ。
 何で妹が魔王やってるんだよ!
 そもそも魔王って何!?

 俺はプリシラに疑問をぶつけた。

 「プリシラ。お前、魔王をやっているのか?」
 「魔王?」

 妹は首を傾げる。

 「この人達が、お前を『魔王』と呼んでいたが」
 「お兄ちゃん。魔王って何?」

 いや、俺が聞きたいわぁ!
 『魔王をやってるのか』なんて、アホな質問した俺が報われんだろうが!
 分からん!
 魔王って何!?
 誰か教えてくれぇ!!

 両親が口を開く。

 「プリちゃんが魔王!?」
 「プリシラが、魔王だなんてーー」

 母は驚き、父は絶句した。

 それはそうだろう。
 魔王をしているなど、一切思うはずがない。
 いや、思う親などいないか。

 それに魔王のイメージと言えば、何となく悪い奴だ。
 そんな者に、なって欲しくなどない。
 当然だ。

 その筈なんだが。

 「プリちゃん、魔王になったの!?凄いわねぇ!」
 「きっと大物になるだろうと思っていたが、まさか魔王とは!凄いぞ、プリシラ!」

 俺の両親は大喜びする。
 そんな両親の喜び様に、妹は嬉しくて照れ始める。

 「えへへっ!そんなに凄いかなぁ?」
 「凄いぞぉ!頑張ったんだな?偉い偉い!」
 「えへ~!」

 父に頭を撫でられ、プリシラは褒められている。
 妹はとても嬉しそうに、鼻の下を伸ばしていた。

 うぅむ。
 俺の感覚が、おかしいのだろうか。
 もしかしたら、魔王とは、俺のイメージとはかけ離れた違う者なのかもしれない。
 あの両親の喜び様。
 本当は素晴らしき職業なのかもしれない。
 いや、称号か?
 どちらにしろ、俺が変に誤解しているだけなんだろうな。

 諸手を挙げて喜ぶ両親に、俺は自分の知識不足を恥じた。
 本当は両親の様に、妹が魔王になった事を喜ぶべき場面で、訝し気にしている自分が場違いではないかと思った。
 だが、魔王とは一体なんなのか。
 その疑問が解消できなければ、俺は納得して家族の輪に入れない。

 「あの、父さん」
 「何だい?カイル」

 妹と喜び合う父が返事をする。
 俺は、恥を忍んで聞いた。

 「魔王って、その。何をするんだ?」
 「えっ?」

 『お前、何でそんな事聞くの?』って顔をする父ベイル。

 くっ!
 だって、知らないんだ!
 そんなの誰も教えてくれなかったし、話題にも挙がらなかったし!

 無知な息子と思われただろうか。
 もしくは、体だけは大人だが、まだまだ子供だなと失望させてしまっただろうか。
 どちらにせよ、父を落胆させてしまったと思った。

 「カイル」

 諭す様な声量。

 無知な息子ですまん。
 反省している。
 これからは色んな所にアンテナを張り、たくさん情報を得る様に努めるから。
 どうか、どうか。
 至らない息子だが、受け入れて欲しい。
 頼むよ、父さん。

 祈る様に父を見据える。
 父は、おもむろに人差し指を出し、自らの側頭部に持っていった。
 そしてポリポリと掻いた。

 「父さんも分からん」

 ん?

 「母さん、魔王って何するのかな?」
 「えぇ?知らないわよ。王様だから凄いんじゃないの?」
 「だよね?」

 知らんのかぁぁい!
 『王』が付くから凄いって、その安易な判断基準は何なんだ!
 ズレ過ぎだろ!ウチの両親はぁぁぁ!

 俺の心の叫びは、喉まで出掛かった。
 だが、勝手に色々反省していた自分が恥ずかしく、その叫びを喉の奥へ押し戻す。

 くそ!色々悩んで損した!
 俺の反省を返して欲しい!
 何が『努めるから』だ!

 ふつふつと怒りが沸く。
 しかし。

 いや、待て!
 その心構えは間違っていない。
 日々研鑽を積むのは当然の事だ。
 そうだろ?カイル。
 そうやって一人前になっていくんだ。
 フフッ。
 そうだ。
 俺は一人前になる。
 いや、凄い男になる!
 そしていつか、父さんを越えるような、世界一の男になるんだ!
 俺はなるんだっ!!

 何故その世界に行ってしまったのか不明だが、俺は自分の世界で、未来の展望を叫んだ。
 おそらく、目の前で妹が『凄い凄い』と褒められたのを見たからだ。
 一人前になり、いつか自分も、両親に凄いと褒めて欲しい願望が出たのだろう。

 そんな俺を置き去りにして、話は進んでいく。

 「プリちゃん?魔王って何するの?」
 「え?知らないよ。あいつらが勝手に、そう呼ぶから」

 プリシラは集団を指差した。

 そこには、プリシラに殴られた指揮官の男が、フラフラと立っていた。
 それを見た母が驚く。

 「あら!団長さんじゃない!どうしたの、こんなに顔を腫らして」

 母が団長と呼んだ男は、顔半分がパンパンになり、内出血で皮膚が紫色に変化している。
 痛そうだ。
 しかし生きている。
 プリシラの本気の拳を顔に受け、未だ生きている。
 団長という肩書を持つくらいだ。
 相当な強者なのだろう。

 「魔王様の母君。お久しぶりで御座います」
 「挨拶に伺った時以来ですね!それより、顔、大丈夫ですか?」

 挨拶よりも、怪我の心配をする母。

 まぁ、当たり前の対応だな。
 というか、当たり前の様に『魔王』というワードを使うな!

 俺はそう思ったが、母は何も気にしない。
 というより気付いていない。

 「痛そうね?喧嘩でも、されたんですか?」
 「私などを心配して下さり、有難う御座います。これは私への罰なのです」
 「罰?」

 この会話の流れ。
 俺はヤバイと思った。

 「プリシラ様の兄上様に、刃を向けた罰なのです」
 「刃、だとぉ?」

 即座に妹が反応し、目つきが鋭くなった。

 フッ。
 俺は読んでいた。
 俺はこの展開を、読んでいたぞ!

 即座にプリシラの視界に立ちはだかり、俺は言った。

 「プリシラ!今日も最高に可愛いぞ!」
 「えぇ!?もぉ!お兄ちゃんったら、急に何!?」

 頬を染めて照れ出す妹。

 「ほら、おいで!」

 俺は両手を目一杯広げ、妹を誘った。

 「わぁい!お兄ぃちゃ~ん!」

 テケテケと駆け寄るプリシラを、抱き寄せてホールドする。

 「えへへ!お兄ちゃ~ん」

 ネコの様に擦り回る妹。

 フフッ。完璧だ。
 当然だろう?
 伊達に十五年、兄をやっておらぬわ!
 ハーハッハッハッ!
 アーハッハッハッ!

 ーーハァ。

 今のうちに、色々聞いといてくれ。母よ。

 俺はプリシラを抱いて、その場を離れた。
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