幼なじみは絶対人質の許嫁

青香

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 「本当に、私は、カイルの、隣に、居ていい、の?」

 泣きながら、声を絶え絶えしく出すティナ。
 その声は、とても聞き辛く、消え入りそうな感じだった。
 だが、確かに俺の耳には届き、意味も理解出来た。
 そして、『慈愛』効果が無くなっている俺は、顔が紅潮しながらも、勇気を出して言った。

 「あぁ。ずっと、隣にーー。居て、欲しい」

 ぐへぇ!
 恥ずかしくて死にそうだ!
 だが良く言った!
 良く言ったぞ!
 俺は凄い!
 凄すぎる!

 心底恥ずかしいが、ティナの質問に答えれた。
 今までなら逃げ出すような場面だが、それ以上の発言をしている為、恥ずかしさは半減していたのだろう。
 しかし、自分で自分を褒めたい。
 そんな気分だ。

 それを聞いたティナは、涙声で、こう言った。

 「私も、ずっと。ずっと、隣に居たい」

 ティナの切実な願い。

 あぁ。
 相思相愛とは、こういう事を言うんだろうな。

 彼女の言葉に、胸の内が熱くなるのを感じる。
 この壁が無ければ、きっと抱きしめているだろう。
 だが今は、それを叶える事は出来ない。
 だから言葉で包んであげよう。

 「ずっと一緒だ。これからも、ずっとな」
 「うん」

 ティナの声質が明るくなった。
 やはり、悲しそうな声より、嬉しそうな声の方が良い。
 もう心配する事はないだろう。
 そんな事を思っていると、カーテンをスライドする音が聞こえ、その後、窓がカチャリと開いた。

 俺は急いで立ち上がった。
 開いた窓には、泣き腫らし、目を赤くした彼女の姿があった。
 長時間泣いていたのだろう。
 目は充血し、涙袋まで赤くなっている。
 水分が少なくなり、やつれたように見える肌。
 酷い状態だ。

 そして、ぎこちない笑顔。
 感情の整理が、まだついていないのだろう。
 それにも関わらず、俺に対して明るく振る舞おうとしている。
 そんな姿が愛おしく感じた。

 俺はティナの輪郭に手を沿わす。

 「大丈夫か?」
 「うん」

 嬉しそうに微笑むが、涙が一筋、頬を流れていく。
 潤んだ瞳。
 紅潮する頬。
 全てが愛しい。

 「カイル。私、カイルのことが好き。小さい頃から、ずっと」
 「そうか」

 冷静に答えたが、俺の脳内議員達は緊急議会を開いていた。

 『ティナ可愛い過ぎだろう!そうは思わないか!?』
 『同意する』
 『だな』
 『目を見つめて、そんな愛の告白されたら、落ちない男はいないだろう』
 『同意する』
 『だな』
 『あの、一ついいか?』
 『うん?なんだ』

 恋愛大臣が提案をした事で、議会は紛糾する。

 『この流れ。キスしても問題ないと思うんだが』
 『貴、貴様!それは言ってはならない禁句だろう!』
 『そうだぞ!今まで守ってきた誓いはどうなる!?』
 『そうだ!そうだ!何の為に、そういった行為を抑えてきたと思っているんだ!』

 恋愛大臣以外は激おこだ。
 しかし、恋愛大臣は引かない。

 『では貴方がたに問おう!何の為なんだ!?』
 『何の為だと?貴様!』
 『そういえば、何の為に?お前分かるか?』
 『いや?』
 『お前は?』
 『何で何だろうな』

 議員達に動揺が広がる。
 恋愛大臣の続く言葉に、大きなうねりとなっていく。

 『あの唇に、自身の唇を重ねたいと思わないのか?』
 『そ、それは、お前。なぁ?』
 『言ったらダメだと、今まで遠慮していたが、キスしたいよな』
 『だよなぁ?これを機に、いっちゃう?』
 『絶好の機会だよ!行こう行こう!』
 『貴、貴様らぁ!』

 唯一、男気大臣だけが歯向かう。

 『そういう行為は、結婚してからだろう!それまで我慢するのが、男の中の男よ!!』
 『いやぁ、男気大臣の考えは古いんじゃない?』
 『なっ!?』

 男気大臣は驚くが、恋愛派の援護が続く。

 『そうだぞ!今時、珍しい事じゃないだろ!』
 『結婚する前に、子供を授かる事も一般的になりつつあると、ハッシュが言っていた。流石にそこまでは進むべきではないが、キスくらいならいいのでは?』
 『いいぞ!いいぞ!』

 恋愛派の勢いが止まらない。

 『しかし、しかしだな!』
 『まったく、爺さんの意見は古いよ』
 『だ、誰が爺さんだ!お前らと変わらんだろう!』
 『はいはい。爺さんは、もう寝る時間だぞ』
 『そうそう。ほら、行きますよ』
 『なっ!?やめろ!どこに連れていく』

 男気大臣が両脇を挟まれて、議場の出入り口に引き摺られていく。

 『やめろぉ!俺は絶対に反対するぞ!ティナが大事じゃないのか!?』

 その台詞を最後に、男気大臣は議場から追放された。

 『大事だから、今のタイミングなんだよ。まったく、男気は分かってないね?』

 恋愛大臣は、スッと席を立つ。

 『それでは決を取ろう。ティナの為、いや。二人の愛を確かなものにする為に、今からキスをする!これに反対する者は挙手せよ』

 議場に残る議員達は、誰一人手を挙げない。
 満場一致かに思われた。
 しかし、一本だけ手が上がった。

 危機管理を司る、防衛大臣だ。
 そんな彼に、恋愛大臣が問う。

 『君だけ反対か。どうしてだい?』

 防衛大臣は、スッと席を立つ。

 『私の危機管理が、何か見落としていると警告している』
 『見落とし?』
 『そうだ』

 彼は、この体の安全を守る為に存在する。
 そんな役割の者が、警告を発しているのは見過ごせない。

 『どの程度、危険なんだ?』
 『それはーー』

 口元を掌で覆い、考え込む仕草。

 『どうした?』
 『すまない。私にも分からぬのだ。何か、重要な事柄を見落としているような気がしてならないのだ』
 『つまり、それが何か、今は分からないということか』
 『そうだ』

 恋愛大臣が思案する。
 そして皆を見廻し、こう言った。

 『防衛大臣の意見は、とても重要だ。しかし、我々には、ここが唯一とも言える好機なのも事実』

 議員達が固唾を飲み見守る。

 『その見落としが何なのか、ハッキリしない今。それに臆していては、この好機を逃してしまう』
 『そうだ!そうだ!』

 同意の檄に、恋愛大臣の語気が強くなる。

 『私は!ティナとキスがしたい!あの柔らかそうな唇に、自分の唇を重ねたい!』
 『いいぞ!』
 『その通りだ!』

 さらに調子づく恋愛大臣。

 『皆、キスがしたいだろう!?したいなら、してしまえば良い!両想いなのだ。何も臆することなどない!』
 『恋愛!恋愛!』

 巻き起こる『恋愛』コール。

 『防衛よ、すまない。これは皆の総意なのだ。我々は突き進む!』
 『そうか。まぁ、実の所、私もしたいし。良いよ!』

 防衛大臣が認可した事で、大歓声が沸き起こる。
 そして自然と巻き起こる『キス』コール。

 『行け!本体よ!今こそ抑圧を開放し、本懐を成し遂げるのだ!』

 真剣な眼差しで、ティナの瞳を見据える。
 俺の本懐に気づいたのか、彼女はそっと瞳を閉じ、顎を少し上げた。
 心臓が高鳴る。
 初めての経験に、期待が高まっていく。
 俺は覚悟を決め、ティナの唇に近づいて行った。
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