幼なじみは絶対人質の許嫁

青香

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 「当たり前だ。何故そんな事を聞く」

 再びの無言タイム。
 俺は後悔した。

 しまった!
 聞き返してどうする!
 ここは相手に聞かれた事を素直に答えて、出方を伺うべきだろう!?
 何をやっているんだ、俺は!

 「すまん」

 思わず出る謝罪の言葉。
 しかし、それも言わなければ良かったと思っていると、ティナが言いにくそうに話し出した。

 「カイルは、その」
 「うん?どうした?」
 「カイルはーー」

 その続きが出てこない。
 俺はティナが言うまで待つことにした。

 虫の音が良く聞こえる。
 ティナの声を聞けて、俺の心は落ち着いたようだ。
 周囲を見渡す余裕が生まれている。
 やはりティナには、俺を和ませる力があるんだろう。

 俺にとって、いかにティナが大事な存在か、改めて思い知らされた。

 長い沈黙の末、ティナは話し出す。

 「カイル」

 意を決した声。

 「なんだ?」
 「カイルは、私の事ーー。その、私の事、どう想ってるの?」
 「どう想う?」
 「うん」

 どう想う、か。

 「大事な人だ。ティナとは、ずっと一緒に居たいと思うくらいな。俺にとって。いや、俺の人生には、ティナが必要なんだ」

 ブハァ!
 そんなセリフ良く言えたな!
 それもスラスラと。
 うわ、まだ出るぞ?

 「ティナと居ると、俺は和むんだ。幼なじみとして、長年過ごしてきたから、落ち着くと言ってもいい」

 何故だ?
 思っている事が、次々に。

 「俺はティナを可愛いと思ってる。良い匂いもする。それに柔らかい」

 オイオイ!
 本音を言い過ぎだろう!
 『良い匂い』はギリギリセーフだが、『柔らかい』とか、身体の特徴言うんじゃねぇよ!
 嫌われるぞ!?
 本人が壁越しに聞いてるのに、どうしたんだ俺!

 「そんなティナを俺はーー」

 ちょっと待てぇ!
 その続き、何を言おうとしてるか分かるぞ!

 「俺はーー」

 やめろぉぉぉ!
 自分で自分を恥ずかしめてどうする!

 必死に抵抗したが、俺は何かの力に逆らえず、そして言ってしまった。

 「好きなんだ」

 うぉぉぉい!
 言ってしまった!
 壁越しで、相手が見えないから言えたのか?
 いやいや!そんなの関係なく言えるはずがない!
 誰だと思ってんだ!?
 俺だぞ!?
 おかしい。 
 こんな事、普段の俺なら言えるはずがない、のにーー。

 俺は、ある事を思い出して、我が家を凝視した。
 そして、見つけてしまった。
 見つけたどころか、目が合ってしまった。
 その人物は、バレたと言わんばかりにテヘッと笑い、カーテンを閉めた。

 やっぱり、うちの母親のせいか!
 知らず知らずのうちに、『慈愛』スキルにかかっていたからスラスラと。
 くそ!めちゃくちゃ恥ずかしい!

 スキル効果が薄れ、羞恥心が俺を襲う。
 顔の火照り具合から、紅くなっている事が自分でも分かる。
 この場から消えたいと思うが、ティナの事を放っては置けない。
 『好きなんだ』だからな!

 しかし、何でそんな事を確認したんだ。
 というか、なんか言ってくれ!

 俺の『好きなんだ』発言から、ティナは沈黙を貫いている。
 その沈黙が、俺の冷や汗を助長していく。

 え?どういう状態?
 え?もしかして。
 ティナはいつも、俺の事を大好きと言ってくれていたが、心変わりした、とか?
 そうなるような出来事があったのか?
 いやいや!そんなの無いはず。
 無いはずはおかしいか。
 あったとしても不思議ではないな。
 他に好きな人が出来た?
 いや、話の流れや雰囲気からして、それは考え難い。
 待て、それは俺の考えだ。
 そうとも限らんだろう!
 うわぁ!分からん!
 何か言ってくれぇ!

 混乱する頭を抱えて悶絶する。
 そんな俺の耳に、ティナの泣き声が聞こえる。
 「うっ、うっ」と声を押し殺して泣いている。

 「ど、どうした?泣いているのか?」

 心配で声をかけるが、ティナは泣き続けている。
 泣いているのは察する事が出来るが、理由がわからない。

 俺に『好き』と言われて泣く理由?
 ハッ!?
 横恋慕的なやつなのか!?
 今まで俺に好きと言っていたが、他に好きな奴が出来てしまい、そちらに行こうとした。
 もう心は他の人に奪われてしまっているのに、元好きな人に告白されてしまう。
 もう遅い、もう遅いのよ的な?
 的な!?

 妄想の間へようこそ。

 『ティナ!俺は、お前を愛しているんだ!』

 キラキラした俺が、宮殿で、ウェディングドレス姿のティナに愛を叫ぶ。

 『カイル、もう遅いのよ』

 しかしティナは視線を落とし、冷たく言い放つ。

 『どういう事なんだ!?ティナは、俺の許嫁のはずだ!』

 俺は食い下がる。
 
 『確かに私は、貴方の許嫁。でもそれは過去の事』
 『過、過去?』
 『私は、貴方より愛すべき人を見つけたの。だから、貴方とは結婚出来ない』
 『そんな!俺が嫌いになったのか!?』

 理由を教えてくれ!

 『違うのよ、カイル』

 ティナは涙する。

 『貴方の事は、今でも好きよ』
 『なら!』

 俺はティナの手を取ろうと、右手を差し出した。
 しかし、その手を握ってはくれない。

 『ごめんなさい』
 『どうして!?』

 拒否の言動に、ついには俺も涙を流す。

 『私は、この人を愛してるの。だから、この人と結婚するわ』
 『お前は!?』

 ティナの隣には、タキシードを着たハッシュがいる。

 『いやぁ、カイルさん。すみませんね』
 『そんな、なんでハッシュなんだ!?』

 驚愕の事実に俺は固まる。

 『カイル、さようなら。貴方の事、大好きだったわ』

 ホロリと涙を流し、ティナは俺から視線を外した。

 『行きましょう』
 『はい』

 ティナとハッシュは腕を組み、教会の鐘がリンゴーン、リンゴーンと鳴り始める。
 そして二人は遠ざかって行く。

 『そんな!そこは俺が居るはずなのに!』

 俺は必死に手を伸ばした。

 『ティナ!?行かないでくれ!!お願いだ!ティナ!?ティナー!!』

 現実でも涙がじわる。

 なんで俺じゃなく、ハッシュなんだ。
 そりゃあいつは、誰よりも強くなる可能性がある男だ。
 勇者と呼ばれる奴が居ても、『普通』に勝つ事が出来るかもしれない。
 でも接点なんか、たいして無いじゃないか。
 幼なじみとして、長年一緒に過ごしてきたのに、そんな結末だなんて。

 妄想世界と現実が混沌とする程、俺の精神はボロボロだった。

 ティナを心配していた。
 ティナに初めて『好き』と言ってしまった。
 それを自分の母親に見聞きされた。
 その三代要素が、俺をここまで追い詰めたのだろう。

 そんな中、ようやくティナが口を開いた。
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