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あれは、俺が十五歳の頃だったな。
「カイルよ」
ティナの父ガイナスは、真剣な眼差しを十五歳の俺に向ける。
これは俺の記憶。
回想と言ってもいい。
この時俺は、『大事な話がある』と、ティナの家に呼ばれた。
何の話が切り出されるのか分からず、少し緊張していたのを覚えている。
そんな俺の両肩を、ガイナスはガッと掴み、真摯に頼み込んだ。
「この村で、俺の次に強くて頼りなるお前に、ティナの未来を託したい。引き受けて、くれるか?」
そう言葉にした彼の後ろには、十四歳のティナと、母親のニーナが心配そうに成り行きを見守っていた。
その姿が視界に入りつつも、俺はガイナスの意図する事が分からず、質問を返した。
「ティナの未来?どういう意味ですか?」
ガイナスは視線を下に落とした後、自分の娘を見た。
そして、少しだけ悲しそうな顔をしながら、再び口を開いた。
「ティナは知っての通り、『絶対人質』のスキルを持って生まれた。それも一生涯付き合っていかなければならない物をだ」
「そう、ですね」
ガイナスは再び俺の目に視線を合わせる。
「親のエゴかもしれんが、それでもティナには幸せになって欲しい。しかし、親である俺やニーナは、娘より先に死んでしまう」
まさかの重い話に、俺は言葉を発する事ができない。
「だから、ティナの事を守る事ができ、かつ寄り添ってくれる相手が必要だ」
その通りだと思い、黙って頷く。
「カイル。お前は娘の事、どう思う?」
ガイナスが問う後ろで、ティナは身構えて口をキュッと一文字に結んだ。
鈍いカイルは問い直す。
「どう思うって?」
そんな俺に、ガイナスは言った。
「ティナはお前の事が好きだ。自分を助けてくれ、優しいお前が大好きだと」
まさかの間接的告白に、カイルの顔が赤くなる。
「カイルは、ティナの事を好きか?」
その問いの答えは一択だった。
ティナとは幼なじみとして、小さい頃から一緒に育ってきた。
ほぼ家族みたいな感覚だったが、お互いに思春期を迎えたあたりから、俺の感覚は変わり始める。
ティナに女性的な特徴が表れるにつれ、彼女の事を異性として意識する様になった。
そんな中、ティナの側にいると、不思議と落ち着く自分がいる事に気付く。
彼女の話し方、雰囲気、考え方。
その全てが、一緒にいて居心地が良かった。
『絶対人質』スキルのせいで、ドタバタする事が多かったが、彼女の為なら何の苦にもならない。
いや。
『何の苦にも』は言い過ぎだな。
ティナが時折見せる、予測不可能な発言や行動には、正直困っている。
『絶対人質』が発動する大抵の原因は、ソレだからな。
まぁそれでも、許容範囲内。
なぜなら俺は、ティナの事が一人の女性として、好きなんだと認識したからだ。
しかし元来の恥ずかしがりが厄し、顔を赤くするだけで、その思いは言い出せない。
いやいや、言えるか!
考えてもみろ!
まだ思春期真っ盛りな歳頃で、相手の両親がいる場で「好きです」なんて、なぁ!?
当事者二人だけなら、まだしもだぜ!?
二人きりなら面と向かってーー。
いや。
すみません、二人きりだとしても言えません。
嘘つきました。
強がっただけです、はい。
そんな反省に気づいたのかどうか分からないが、何も言わない俺に対して、ガイナスは質問を変える。
「ティナの事、嫌いか?」
俺は下を向いたまま、大きく横に首を振った。
「なら、ずっと側で、娘を見守ってくれるか?」
今までも、そうしてきた。
そうしてきたからこそ、これからもずっとそうするだろう。
そう思い、俺は頷いた。
「感謝する。カイル、ティナをよろしく頼む」
羞恥心冷めやらない俺は、事の重大性に気づかずに、再び黙って頷く。
「お母さん!」
「ティナちゃん、良かったわね~」
そのやりとりを見ていたティナと母親は抱き合い、喜びを分かち合う。
ニーナの瞳からは、娘の将来に安堵する気持ちから、嬉し涙が溢れていた。
「カイルよ」
ティナの父ガイナスは、真剣な眼差しを十五歳の俺に向ける。
これは俺の記憶。
回想と言ってもいい。
この時俺は、『大事な話がある』と、ティナの家に呼ばれた。
何の話が切り出されるのか分からず、少し緊張していたのを覚えている。
そんな俺の両肩を、ガイナスはガッと掴み、真摯に頼み込んだ。
「この村で、俺の次に強くて頼りなるお前に、ティナの未来を託したい。引き受けて、くれるか?」
そう言葉にした彼の後ろには、十四歳のティナと、母親のニーナが心配そうに成り行きを見守っていた。
その姿が視界に入りつつも、俺はガイナスの意図する事が分からず、質問を返した。
「ティナの未来?どういう意味ですか?」
ガイナスは視線を下に落とした後、自分の娘を見た。
そして、少しだけ悲しそうな顔をしながら、再び口を開いた。
「ティナは知っての通り、『絶対人質』のスキルを持って生まれた。それも一生涯付き合っていかなければならない物をだ」
「そう、ですね」
ガイナスは再び俺の目に視線を合わせる。
「親のエゴかもしれんが、それでもティナには幸せになって欲しい。しかし、親である俺やニーナは、娘より先に死んでしまう」
まさかの重い話に、俺は言葉を発する事ができない。
「だから、ティナの事を守る事ができ、かつ寄り添ってくれる相手が必要だ」
その通りだと思い、黙って頷く。
「カイル。お前は娘の事、どう思う?」
ガイナスが問う後ろで、ティナは身構えて口をキュッと一文字に結んだ。
鈍いカイルは問い直す。
「どう思うって?」
そんな俺に、ガイナスは言った。
「ティナはお前の事が好きだ。自分を助けてくれ、優しいお前が大好きだと」
まさかの間接的告白に、カイルの顔が赤くなる。
「カイルは、ティナの事を好きか?」
その問いの答えは一択だった。
ティナとは幼なじみとして、小さい頃から一緒に育ってきた。
ほぼ家族みたいな感覚だったが、お互いに思春期を迎えたあたりから、俺の感覚は変わり始める。
ティナに女性的な特徴が表れるにつれ、彼女の事を異性として意識する様になった。
そんな中、ティナの側にいると、不思議と落ち着く自分がいる事に気付く。
彼女の話し方、雰囲気、考え方。
その全てが、一緒にいて居心地が良かった。
『絶対人質』スキルのせいで、ドタバタする事が多かったが、彼女の為なら何の苦にもならない。
いや。
『何の苦にも』は言い過ぎだな。
ティナが時折見せる、予測不可能な発言や行動には、正直困っている。
『絶対人質』が発動する大抵の原因は、ソレだからな。
まぁそれでも、許容範囲内。
なぜなら俺は、ティナの事が一人の女性として、好きなんだと認識したからだ。
しかし元来の恥ずかしがりが厄し、顔を赤くするだけで、その思いは言い出せない。
いやいや、言えるか!
考えてもみろ!
まだ思春期真っ盛りな歳頃で、相手の両親がいる場で「好きです」なんて、なぁ!?
当事者二人だけなら、まだしもだぜ!?
二人きりなら面と向かってーー。
いや。
すみません、二人きりだとしても言えません。
嘘つきました。
強がっただけです、はい。
そんな反省に気づいたのかどうか分からないが、何も言わない俺に対して、ガイナスは質問を変える。
「ティナの事、嫌いか?」
俺は下を向いたまま、大きく横に首を振った。
「なら、ずっと側で、娘を見守ってくれるか?」
今までも、そうしてきた。
そうしてきたからこそ、これからもずっとそうするだろう。
そう思い、俺は頷いた。
「感謝する。カイル、ティナをよろしく頼む」
羞恥心冷めやらない俺は、事の重大性に気づかずに、再び黙って頷く。
「お母さん!」
「ティナちゃん、良かったわね~」
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