幼なじみは絶対人質の許嫁

青香

文字の大きさ
42 / 58

42

しおりを挟む
 「よく言った!!」

 母の背後から大きな声が飛んできた。
 あまりにも突飛な出来事で、俺と母と妹はビクつく。
 三人が向ける視線の先には、嘘の様な感動の涙を流す、父ベイルがいた。

 「あ、あなた、いつからそこに?」
 「ちょっと前からだけど、今は、そんな事は置いておこう!」

 そう言うと、ツカツカと足音を弾ませて近づいてくる。

 「カイル!」
 「な、なんだ?」

 凄まじい気迫に、思わずたじろぐカイル。
 そんな息子の肩を掴むと、ベイルはそのまま抱き寄せた。

 「一人前の男になった!父さんは嬉しいぞ!嬉しいぞぉぉ!」

 感動のあまり、滝の様に流れる涙。

 「あなたーー」

 母も誘われて、溢れる涙を拭う。

 「?」

 プリシラは何の話か理解出来ず、ポケーッと惚けて見ていたが、俺と目が合うと微笑んでいた。

 ひとしきり感涙すると、母が動き出す。

 「私達も、綺麗な格好に着替えないと。カイルとプリちゃんも、お祝い用の服に着替えてきなさい」

 お祝い用?
 なぜ、そんな必要が。

 疑問を口にする。

 「着替える必要、あるのか?」
 「当たり前でしょ?ほら、早く!」

 カータは何を言い出すの?とでも言いたげな剣幕で促す。

 何故着替える必要があるのか。
 そんな疑問を解決する間も無く、俺は妹と一緒に自室へ押し込められた。

 何が起きているか分からず、扉が閉まった後に、無言の一間が訪れる。
 しかし母の言い方から察するに、着替えなければならない流れだ。

 「何なんだ?」
 「プリには分かんないよ?」
 「そうだよな」

 兄の俺が分からないのだから、プリシラにはもっと分からないだろう。
 しかし母の言いつけ。
 従わないわけにもいかない。

 「仕方ない。着替えるか」
 「うん!」

 腑に落ちないが、そう決める。
 そうして、自らの洋服箪笥に向かう。

 引き出しを引っ張り、お祝い用のシャツを探していると、背後から問いかけられる。

 「お祝い用って言ってたから、これでいいのかな?」

 プリシラは真っ白なワンピースを広げて見せた。
 結婚式や、新しい子供が産まれた際に行う、祝祭時に着る服だ。

 「そうだな。俺のは何処にあったかな」

 洋服箪笥を探すが見当たらない。

 「お兄ちゃんのは、ここにあるよ!」

 背後から妹が再度呼びかける。
 振り返ると、何故かプリシラの箪笥から、探していた俺のフォーマル白シャツが出てきた。

 何故プリシラの方に?
 俺が間違って入れたのか?
 いや、そんなわけないんだが。

 しかし実物は妹の方から出てきた。

 「すまん、間違って入れたのかもしれない」
 「お兄ちゃんは間違ってないよ?あんまり使う事がないから、プリがそっちから持ってきたの!」

 プリシラは、あっけらかんと言った。

 何の為に?

 俺はそう思った。
 しかし、こうも思った。

 普段使わない服を預かる事で、俺が箪笥を使いやすい様にしてくれていたのかなと。
 気遣いは嬉しいが、それだとプリシラの方は窮屈になってしまう。

 「そうか。でも俺の服を入れていたら、そっちが使い難いだろう?」
 「ううん!コレクションだから気にならないよ!」
 「そうか」

 普段なら『コレクションって、どういう意味だよ!』と突っ込む所だ。
 だが今は、『ティランドールのお菓子』が思考の八割を占めており、俺は当たり前のように話を流して、白シャツを受け取った。

 シャツの袖に腕を通しながら思う。

 これを着ていたら、お菓子を食べれないな。
 食べるなら、また着替えないと。

 小さい頃から、お祝い用の服は汚してはいけないと、躾けられている。
 何かを食べるなら、汚さない様に細心の注意が必要なのだが、この服を着た時、俺は何も食べない事を誓っている。

 幼い頃は、汚しては怒られてを繰り返していたからな。
 だが、街に出た時に知った。
 このような上質な服が、高価な物であると。

 それから俺は態度を改めたんだ。
 両親に、無駄な費用をかけまいと。

 「お兄ちゃん、どぉ?」
 「うん?」

 プリシラはワンピースに着替えて呼びかけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

やさしいキスの見つけ方

神室さち
恋愛
 諸々の事情から、天涯孤独の高校一年生、完璧な優等生である渡辺夏清(わたなべかすみ)は日々の糧を得るために年齢を偽って某所風俗店でバイトをしながら暮らしていた。  そこへ、現れたのは、天敵に近い存在の数学教師にしてクラス担任、井名里礼良(いなりあきら)。  辞めろ辞めないの押し問答の末に、井名里が持ち出した賭けとは?果たして夏清は平穏な日常を取り戻すことができるのか!?  何て言ってても、どこかにある幸せの結末を求めて突っ走ります。  こちらは2001年初出の自サイトに掲載していた小説です。完結済み。サイト閉鎖に伴い移行。若干の加筆修正は入りますがほぼそのままにしようと思っています。20年近く前に書いた作品なのでいろいろ文明の利器が古かったり常識が若干、今と異なったりしています。 20年くらい前の女子高生はこんな感じだったのかー くらいの視点で見ていただければ幸いです。今はこんなの通用しない! と思われる点も多々あるとは思いますが、大筋の変更はしない予定です。 フィクションなので。 多少不愉快な表現等ありますが、ネタバレになる事前の注意は行いません。この表現ついていけない…と思ったらそっとタグを閉じていただけると幸いです。 当時、だいぶ未来の話として書いていた部分がすでに現代なんで…そのあたりはもしかしたら現代に即した感じになるかもしれない。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...