幼なじみは絶対人質の許嫁

青香

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 両親の寝室が近づくにつれ、漏れ出た話し声が耳に届き始める。

 「ーーものね。私達の初めての子が、ね?」
 「そうだね。嬉しいのは勿論だけど、手が離れていくのは、少し寂しいなぁ」
 「フフッ。寂しいなんて、言ってられないわよ?まだ十五歳なんだから、これからも手がかかるわ」
 「ハハッ!そうかもしれない」

 楽しそうに会話している。
 『十五歳』のワードから、俺の事を話しているのはわかる。
 しかし『手が離れる』とは?

 話の内容がよく分からないが、寝室のドアへ辿り着き、扉をノックしようと手をかざした時だった。
 続け様に話す内容に、ようやく俺は今の状況に気付き始める。

 「ティナちゃんと結婚か。あの子が産まれた時から知っているから、なんだか不思議な気分だよ」

 父の感慨深い言葉。
 それに驚く。

 ティナが結婚!?
 誰と!?
 そんな話、聞いてないぞ!

 唐突な内容に動揺する。

 「そうよね~。毎日のように顔を見てきたから、もう一人の娘みたいな感じなのよね」
 「そうだろう?だから、カイルのお嫁さんにってなると、なんだか複雑な気持ちだよ」
 「フフッ。そうね」

 おそらくホッコリした笑顔をしている母の顔が想像できる。
 複雑な胸中だとしても、とても嬉しそうにだ。
 俺はドア一枚隔てた場所で、体が硬直しながらも、情報整理をしていた。

 俺のお嫁さん?
 誰が?
 ティナ?
 話の流れからいって、ティナしかいないよな?

 え?

 ティナ、俺と結婚するのか? 
 なんで?
 いや、ちょっと待てよ。

 ティナの家で、ガイナスと話した事を思い出す。
 そして違和感のあった言動などに、カイルの脳内に閃光が走る。

 『ティナの未来を託す』とかなんと言ってたけど、そういう意味だったのか!?
 『これからも、そばで寄り添って』なんとかもあったな!
 それに対して頷いた俺を、ティナとニーナさんは不自然に喜んでいた。
 そして、『ティランドール』の高級菓子。

 バラバラだったピースが、嘘のように引っ付く。
 何の関連も無いと思っていたのに、意思を持つかのように一つの事柄を形成していく。

 『挨拶』するだけなのに、支度する時間がかかる。
 迎え入れる側も、お祝い用の服に着替えなければならない。
 帰宅してから起こった両親の過剰な反応。

 その全てが、一つの回答を導いた。

 俺はーー。

 ティナと、結婚する。

 普段通りの反応なら『嘘だろ!?そんなの急に決められても困っちゃう~!』などと困惑しそうなものだ。
 だがその時の俺は、相変わらずドアの前で立ち尽くし、朝焼けの残る、静かな湖の水面のように落ち着いていた。
 なんてな。

 何でそんな事になってんだよっ!
 いや、勘の鈍い俺も悪いが、結婚相手ってそんな感じで決まるのか!?
 そんなの誰にも聞いた事ねぇから、わからん!
 でも俺まだ十五歳だぞ!?
 ティナは一個下だから十四歳。
 二人とも、まだ早いんじゃないか?
 そんな夫婦、この村にいたか!?
 居ないだろう?
 いや、そもそも何歳が結婚の適齢か知らんが!

 冷静を保つ事など無理に決まっている。
 混乱する頭は、一人ツッコミをしても止まらない。
 
 一番若い夫婦で言えば、ジャスターさん達だろ?
 この前たしか同い年で、二十歳で結婚していたはず。
 それが一番若いはずだ。
 それに。

 自分の両親の年齢を思い出す。

 父さんが三十七歳で、母さんが三十六歳だろ?
 俺が十五歳だから、産まれたのが母二十一歳位になるから、ええっと。
 大体結婚したのが二十歳くらいになるのか?
 詳しく聞いたことはないが、そうなるだろ。

 結婚するラインは大体二十歳くらい。
 そう考えたら、早いんじゃないか?

 別に嫌ってわけじゃない。
 むしろ嬉しく思う方が大きい。
 ずっと一緒に居れるって事だろ?
 一緒に起きて、ご飯を食べて、ティナ家の畑を手伝って、疲れたね~なんて話しながら帰って。

 妄想は加速する。

 出てきたのは、少し大人に成長したティナ。
 十四歳の彼女の胸を大きく誇張したのは、十五歳だった俺の願望だな。
 すまんが付き合ってやってくれ。

 『カイルどうする~?先にお風呂入っちゃう?』

 頭に被っていた麦わら帽子をとり、壁掛けに引っ掛けながらティナが言う。
 うんうん。
 オーバーオールが良く似合ってるぞ。
 普段のワンピース姿やスカートも良いが、その姿も良い。
 おっと、見惚れてる場合じゃないな。

 『うん?あぁ、そうしようか。二人とも、土汚れが付いてるし、汗もかいたしな』
 『それじゃあ、一緒に入る?』

 そうそう、いいね!
 そのセリフを待ってました!
 だけど、ここは慎重に。

 『いいのか?』

 ティナはモジモジして恥じらいながらも答える。

 『裸になるから恥ずかしいけど~。私達、夫婦でしょ~?だから~、いいよ!』

 顔を少し紅潮させつつも、嬉しそうに笑うティナ。

 「最高だぁぁぁぁ!」
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