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第一章 指名依頼
1 案内人
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この日、前日の晴天とは対照的に雲が暑く広がり、朝日は昇っているはずなのに薄暗かった。
ギルドがある場所に辿り着くと、建物の前には馬車が止まっていた。見慣れない光景に違和感を覚えつつも、アルバートは馬車の横を通りギルドへ入っていく。
「あ! アルバートさん、お待ちしてました! こっちです!」
チリカが快活に手招きしている。その隣には仕立ての良さそうなスーツを纏う老人が立っていた。おそらく依頼人だろうと思いながら、手招きされる方向へ歩みを進める。
「アルバートさん。こちらがご依頼人・・・・・・と言いたいところですが、今回のお仕事を案内されるギルシュさんです」
「案内人?」
紹介された老人は、上質なハットを脱帽して「今回の案内を務めさせていただくギルシュと申します。どうぞよろしくお願いします」と律儀にお辞儀をしてきた。それに返すように、アルバートは自己紹介を含めて挨拶をすると、ギルシュは穏やかな笑みを浮かべた。
「ご挨拶も済みましたので、私はここで失礼します! 後の事は案内人のギルシュさんにお任せしますね!」
ギルシュは深々とお辞儀をして「チリカさん、ご丁寧にありがとうございました」と顔のシワを深くしながら微笑む。それに応えるようにチリカも口角を上げると、ツカツカとアルバートへ歩み寄り、「アルバートさん、頑張ってくださいね!」と耳元で囁いた。
「ありがとう。行ってくるよ」
「はい! 行ってらっしゃい!」
明るい見送りを受けながら、アルバートはギルシュと共にギルドを出ると、ギルシュは建物の前に止めてある馬車へ向かい始めた。
「馬車を用意致しましたので、どうぞこちらへ」
丁寧な言葉と所作。今までの人生の中で接したことのない礼儀正しさに、アルバートは戸惑いながらも軽い会釈をした後、ギルシュについて行く。馬車にたどり着くとギルシュはドアを開け、「どうぞお乗り下さい」と促した。
雇用主と労働者という立場のはずだが、まるで客人をもてなすかのようなギルシュに、再び戸惑いながらも、アルバートはステップを上がる。運搬用の荷車とは違い、人がゆったり座れるようになっている馬車内。荷物を運ぶ用の質素な荷車とは違い、人間、それも身分が高そうな者達が利用するような立派な設え。自分には場違い的な感覚を覚え、そして見たことのない空間にどうしたらいいのか分からず突っ立っていると、「どうぞお掛けになって下さい」と促された。ギルシュに言われるがまま促された場所に座ると、彼も乗り込み扉を閉め、対面する形で座った。
「では、参りましょうか」
座るなり馬の手綱を握る運行者に声をかけた。その合図を皮切りに、馬車はゆっくりと動き出していく。
「改めまして、本日はどうぞ、よろしくお願い致します」
ギルシュの穏やかな口調や穏やかな表情が、アルバートが感じていた妙な緊張を少し緩和し、一言だけ「お願いします」と、ようやく口を開く事が出来た。
ギルドがある場所に辿り着くと、建物の前には馬車が止まっていた。見慣れない光景に違和感を覚えつつも、アルバートは馬車の横を通りギルドへ入っていく。
「あ! アルバートさん、お待ちしてました! こっちです!」
チリカが快活に手招きしている。その隣には仕立ての良さそうなスーツを纏う老人が立っていた。おそらく依頼人だろうと思いながら、手招きされる方向へ歩みを進める。
「アルバートさん。こちらがご依頼人・・・・・・と言いたいところですが、今回のお仕事を案内されるギルシュさんです」
「案内人?」
紹介された老人は、上質なハットを脱帽して「今回の案内を務めさせていただくギルシュと申します。どうぞよろしくお願いします」と律儀にお辞儀をしてきた。それに返すように、アルバートは自己紹介を含めて挨拶をすると、ギルシュは穏やかな笑みを浮かべた。
「ご挨拶も済みましたので、私はここで失礼します! 後の事は案内人のギルシュさんにお任せしますね!」
ギルシュは深々とお辞儀をして「チリカさん、ご丁寧にありがとうございました」と顔のシワを深くしながら微笑む。それに応えるようにチリカも口角を上げると、ツカツカとアルバートへ歩み寄り、「アルバートさん、頑張ってくださいね!」と耳元で囁いた。
「ありがとう。行ってくるよ」
「はい! 行ってらっしゃい!」
明るい見送りを受けながら、アルバートはギルシュと共にギルドを出ると、ギルシュは建物の前に止めてある馬車へ向かい始めた。
「馬車を用意致しましたので、どうぞこちらへ」
丁寧な言葉と所作。今までの人生の中で接したことのない礼儀正しさに、アルバートは戸惑いながらも軽い会釈をした後、ギルシュについて行く。馬車にたどり着くとギルシュはドアを開け、「どうぞお乗り下さい」と促した。
雇用主と労働者という立場のはずだが、まるで客人をもてなすかのようなギルシュに、再び戸惑いながらも、アルバートはステップを上がる。運搬用の荷車とは違い、人がゆったり座れるようになっている馬車内。荷物を運ぶ用の質素な荷車とは違い、人間、それも身分が高そうな者達が利用するような立派な設え。自分には場違い的な感覚を覚え、そして見たことのない空間にどうしたらいいのか分からず突っ立っていると、「どうぞお掛けになって下さい」と促された。ギルシュに言われるがまま促された場所に座ると、彼も乗り込み扉を閉め、対面する形で座った。
「では、参りましょうか」
座るなり馬の手綱を握る運行者に声をかけた。その合図を皮切りに、馬車はゆっくりと動き出していく。
「改めまして、本日はどうぞ、よろしくお願い致します」
ギルシュの穏やかな口調や穏やかな表情が、アルバートが感じていた妙な緊張を少し緩和し、一言だけ「お願いします」と、ようやく口を開く事が出来た。
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