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第11話♠ 非常に危うい状態
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不味い。非常に不味い。
あれから私はファリティが戻ってくる前までに貴族院にも出向き確認を取った。
何度見ても頭の中にある真実と記載されている事実が異なっている。
しかし、落ち着いてよく考えてみるとファリティが口にしていた言葉の通りなのだ。
「誰か。ゲストハウスにいるイサミア氏をここに呼んできてくれないか」
「イサミア氏で御座いますか?」
「あぁそうだ」
「でしたら街に行くと仰られておりました。夕食までには帰宅するとの事でしたが」
「どこに行ってるんだ?」
「殿下がシートを年間契約されている劇場へ観劇に。奥方様とご息女も一緒です。それとこちらを」
従者はまだ封の切られていない封書の束を差し出してきた。
宛名は全て私、レアンドロか蒼の宮宛になっていて、裏面には街にある商店の店名や店主の名前が記載されていた。
「なんだ?新製品でも出すから客寄せパンダになってくれとでも?」
「どうでしょうかね…ハハハ」
冗談めかして言ってみれば引き攣った笑いを従者が浮かべる。
私はペーパーナイフで封を切り、中身を取り出した。
「何だこれは」
「請求書ですね」
「見ればわかる!まさかこれも?これも?」
封を切ってみると、全てが請求書だった。
ルシェル達を招いて1か月。丁度月締めだったのか月末までの分が請求されているのだ。
「ちょっと待て。なんだこの金額は?」
「なんだと言われましても…あれだけ買えばこんな値段にもなるでしょうね」
「それに酒場?え?こっちは酒屋?え?あれ?」
「イサミア氏も奥方様も夜にお出かけになる事も多いので。門番も2時、3時の丁度交代ならいいけれどそうでない時は見回りにも行けないと申しております。飲みに行かれない時は酒店より珍しい酒を次々に取り寄せております」
「嘘だろ…ビリオネア・ウォッカだなんて…」
「あぁそちらは空き瓶を回収しようとしましたが、既に売られておりました」
「売った?!え?売った?!いやいや。空き瓶はこっちで回収して費用に充てるべきだろう!」
「そう思ったのですが、既に売られてしまっていたという事です」
全てを私、若しくは宮のツケで済ませていたイサミア氏。
幾ら後ろ盾と言っても‥‥後ろ盾…そう!後ろ盾だ!
「劇場でもどこでもいい!イサミア氏をここに引っ張ってこい!!」
散財の金額もさることながらだが、今の私に最重要なのは後ろ盾だ。
手元にある報告書、そして貴族院から取り寄せた書類は今の私が非常に危うい状態にある事を示していた。
待つこと2時間。
夫人のエマリアとルシェルはまだ観劇中で先にイサミア氏だけが戻ってきた。
「殿下、どうなさいました?」
「どうなさいましたかではない!聞きたいことがあるッ!」
バン!と書類をテーブルに叩きつけるとイサミア氏の顔色が途端に悪くなった。
私はその表情を見て、「そうあって欲しくない」願いがいとも簡単に打ち砕かれるまさにその時を迎えた気がして指先から温度が零れ落ちている感覚に陥った。
「順に問う。正確な事を答えてくれ」
「は、はい」
「まず…イサミア氏は入り婿だったというのは事実なのか?」
「そうです。私の実家は私の父が1代限りの騎士爵を賜ったシガーナイ家です。父の存命中であれば子爵、男爵の令嬢とも婚約が出来るとあり、両親が必死に相手を探しまして、ホートベル侯爵家との婚約となりました」
「随分と爵位が離れているが?」
「先代のホートベル侯爵と私の父が騎士団の同期で…気が合ったそうです。入り婿を探しているとの事で。今はそうでもありませんが当時は入り婿は男の恥とも言われていましたので」
「そうか。では正当な後継者はファリティのみ。だな?」
「そうなります。私はファリティが当主を継げる年齢の25歳になるまで代行でして」
「違うだろう!」
テーブルを思い切り蹴り上げると、テーブルと一緒にイサミア氏の体も跳ねた。
「(バンッ!)ここっ!当主代行はその任を1か月前に解かれているじゃないか!」
「そ、そうなんですが…」
1か月、書面に記載されている日付はイサミア氏が模様替えをしている間、ここに居候させてほしいと言ったあの日だ。
「何故言わなかった!」
「き、聞かれなかったので…」
「だとしても!あれは模様替えではなく新しい当主代行による侯爵家の引っ越しのようなものだろう!」
「言える訳ないじゃないですか。娘が嫁いだ翌日ですし…で、ですが後ろ盾についてはご安心ください。ファリティが殿下の妃ではありませんか。約束通り婚約、婚姻の関係がある間は後ろ盾となる。この契約は生きています。ご安心くださいませっ!」
それが安心出来ない事態になったのだからお前を呼んだんだ!!
私は絶望的な気持ちになった。
目の前にいるこの薄汚い男を当主だとどうして信じていたんだろう。
――そうか。ファリティもルシェルも父と呼んでいたからだ――
ルシェルは変わらず「お父様」と呼んでいる。
しかし!!
ファリティはイサミア氏を当主代行から外し、ブルベーリ公爵家が保証人となってブルベーリ公爵の実弟夫婦、国内でも3本の指に入る大商会の元会頭夫婦を当主代行に任命。
その手続きをする際にイサミア氏は不適格とされ親子の縁切りをされている。
実の父親を代行から外すのだからそれ以上の理由はないと言っていいだろう。
ハイネブレーグ王国では国が縁切りを認めた場合、遺産相続の相続人の資格すら失う。国が「他人」であることを認めるのだ。
ファリティは言った。
イサミア氏は生物学上の父、ルシェルは他人。
まさに今、そうなっていた。
あれから私はファリティが戻ってくる前までに貴族院にも出向き確認を取った。
何度見ても頭の中にある真実と記載されている事実が異なっている。
しかし、落ち着いてよく考えてみるとファリティが口にしていた言葉の通りなのだ。
「誰か。ゲストハウスにいるイサミア氏をここに呼んできてくれないか」
「イサミア氏で御座いますか?」
「あぁそうだ」
「でしたら街に行くと仰られておりました。夕食までには帰宅するとの事でしたが」
「どこに行ってるんだ?」
「殿下がシートを年間契約されている劇場へ観劇に。奥方様とご息女も一緒です。それとこちらを」
従者はまだ封の切られていない封書の束を差し出してきた。
宛名は全て私、レアンドロか蒼の宮宛になっていて、裏面には街にある商店の店名や店主の名前が記載されていた。
「なんだ?新製品でも出すから客寄せパンダになってくれとでも?」
「どうでしょうかね…ハハハ」
冗談めかして言ってみれば引き攣った笑いを従者が浮かべる。
私はペーパーナイフで封を切り、中身を取り出した。
「何だこれは」
「請求書ですね」
「見ればわかる!まさかこれも?これも?」
封を切ってみると、全てが請求書だった。
ルシェル達を招いて1か月。丁度月締めだったのか月末までの分が請求されているのだ。
「ちょっと待て。なんだこの金額は?」
「なんだと言われましても…あれだけ買えばこんな値段にもなるでしょうね」
「それに酒場?え?こっちは酒屋?え?あれ?」
「イサミア氏も奥方様も夜にお出かけになる事も多いので。門番も2時、3時の丁度交代ならいいけれどそうでない時は見回りにも行けないと申しております。飲みに行かれない時は酒店より珍しい酒を次々に取り寄せております」
「嘘だろ…ビリオネア・ウォッカだなんて…」
「あぁそちらは空き瓶を回収しようとしましたが、既に売られておりました」
「売った?!え?売った?!いやいや。空き瓶はこっちで回収して費用に充てるべきだろう!」
「そう思ったのですが、既に売られてしまっていたという事です」
全てを私、若しくは宮のツケで済ませていたイサミア氏。
幾ら後ろ盾と言っても‥‥後ろ盾…そう!後ろ盾だ!
「劇場でもどこでもいい!イサミア氏をここに引っ張ってこい!!」
散財の金額もさることながらだが、今の私に最重要なのは後ろ盾だ。
手元にある報告書、そして貴族院から取り寄せた書類は今の私が非常に危うい状態にある事を示していた。
待つこと2時間。
夫人のエマリアとルシェルはまだ観劇中で先にイサミア氏だけが戻ってきた。
「殿下、どうなさいました?」
「どうなさいましたかではない!聞きたいことがあるッ!」
バン!と書類をテーブルに叩きつけるとイサミア氏の顔色が途端に悪くなった。
私はその表情を見て、「そうあって欲しくない」願いがいとも簡単に打ち砕かれるまさにその時を迎えた気がして指先から温度が零れ落ちている感覚に陥った。
「順に問う。正確な事を答えてくれ」
「は、はい」
「まず…イサミア氏は入り婿だったというのは事実なのか?」
「そうです。私の実家は私の父が1代限りの騎士爵を賜ったシガーナイ家です。父の存命中であれば子爵、男爵の令嬢とも婚約が出来るとあり、両親が必死に相手を探しまして、ホートベル侯爵家との婚約となりました」
「随分と爵位が離れているが?」
「先代のホートベル侯爵と私の父が騎士団の同期で…気が合ったそうです。入り婿を探しているとの事で。今はそうでもありませんが当時は入り婿は男の恥とも言われていましたので」
「そうか。では正当な後継者はファリティのみ。だな?」
「そうなります。私はファリティが当主を継げる年齢の25歳になるまで代行でして」
「違うだろう!」
テーブルを思い切り蹴り上げると、テーブルと一緒にイサミア氏の体も跳ねた。
「(バンッ!)ここっ!当主代行はその任を1か月前に解かれているじゃないか!」
「そ、そうなんですが…」
1か月、書面に記載されている日付はイサミア氏が模様替えをしている間、ここに居候させてほしいと言ったあの日だ。
「何故言わなかった!」
「き、聞かれなかったので…」
「だとしても!あれは模様替えではなく新しい当主代行による侯爵家の引っ越しのようなものだろう!」
「言える訳ないじゃないですか。娘が嫁いだ翌日ですし…で、ですが後ろ盾についてはご安心ください。ファリティが殿下の妃ではありませんか。約束通り婚約、婚姻の関係がある間は後ろ盾となる。この契約は生きています。ご安心くださいませっ!」
それが安心出来ない事態になったのだからお前を呼んだんだ!!
私は絶望的な気持ちになった。
目の前にいるこの薄汚い男を当主だとどうして信じていたんだろう。
――そうか。ファリティもルシェルも父と呼んでいたからだ――
ルシェルは変わらず「お父様」と呼んでいる。
しかし!!
ファリティはイサミア氏を当主代行から外し、ブルベーリ公爵家が保証人となってブルベーリ公爵の実弟夫婦、国内でも3本の指に入る大商会の元会頭夫婦を当主代行に任命。
その手続きをする際にイサミア氏は不適格とされ親子の縁切りをされている。
実の父親を代行から外すのだからそれ以上の理由はないと言っていいだろう。
ハイネブレーグ王国では国が縁切りを認めた場合、遺産相続の相続人の資格すら失う。国が「他人」であることを認めるのだ。
ファリティは言った。
イサミア氏は生物学上の父、ルシェルは他人。
まさに今、そうなっていた。
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