至らない妃になれとのご相談でしたよね

cyaru

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第30話♡  アポなしは嫌われるのよ

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出立の日。

早朝から早出の従業員さんが最後の荷を積み込んでくれております。
何かと申しますと食料。


パロンシン領はとても遠い地。
王都から出る馬車は「方面行き」は御座いましても直行はありません。

ルルが手配してくれたチケットは副王都近くにある貨物がメインの中継地発着のもの。
私が乗る馬車は幌馬車は幌馬車でも貨物専用の幌馬車で御座います。

何故そんなものに?と当初は従業員にもよく言われたのですが、知る人ぞ知る格安幌馬車なのです。

荷を運んできた各地からの幌馬車は往路は荷物を満載でも復路は空の荷台になる事があり、なら格安で人間も運ぼうとなり、内装も荷物用なので質素なもの。

馬車の揺れに合わせて荷を縛った縄を括りつけるバーを握っていないと荷台の上を転がってしまう事になりますが、慣れれば苦にもなりません。

何より王都から人間専用の幌馬車に乗りますと、大きな街に到着をしますので、迂回に迂回を重ね移動距離も時間も長くなってしまうのです。

その点貨物は人が住んでいれば運ぶ荷があるので、小さな町や村も順路に入っております。ルートとしてはカクカクしてはおりますが概ね直線。

実に人間用の幌馬車で行くとお1人様総額料金71万、6週間で320km。
これが荷物専用の格安幌馬車になるとお1人様11万、8日で100km。

日に2、3回乗り換える日が御座いますが、経費削減出来た上に早く到着できるメリット。これに敵うものは御座いません。

なので、中継地まではなんとか自力で行かねばなりません。
今日の日没までは到着するので、その間の食事を積み込んでいるのです。3食と言えど食は大事。途中にある店で買う事も出来ますけれど、ここも経費削減で御座います。

えぇ。小さなことからコツコツと。

棚の隙間にある硬貨を見つけた時「ラッキー!」と元は自分のお金なのに得られるお得感。

日々の節約を積み重ね、小銭が「こんな額に?!」と数か月後に感じるお得感に変えるのです。あの揺れに耐えた私、偉い!!と自分で自分を褒める瞬間が堪らないのです。



さぁ、出かけましょうといざ!馬車に乗り込もうとすると従業員さんが血相を変えてこちらに走って参ります。

「おーい!!待ってくれぇ!!待ってくれぇぇ!」

「どうなさったのかしら」

「どうしたんでしょうね。今日は彼、同行しない予定ですけど」

何事かと問えばなんと!!

レアンドロ様が来たというのです。

なんて失礼な方なのかしら。


時計を見れば現在朝の7時11分。通常この時間から他家を訪問する人はいません。
本当に王子と言う肩書があれば凸しても大丈夫と思っているのかしら。

面倒ですけれども、王子と言う身分を振りかざしてやってきたのなら追い返すことも出来ません。

「ルル、予備の時間はどれくらいかしら」

「7分ですね。中継地まで馬車を飛ばせばもう15分です。飛び出しなどに対しての配慮をしないならプラス30分。中継地で馬車の屋根に積み込んだ荷物を諦めるなら更にプラス8分です」


7分でも会う時間に充てるのは勿体ないですわ。

何よりも馬車移動は安全第一。農道に出るまでは子供の不意な飛び出しなどには細心の注意をせねばなりません。街中を抜けるまでは直ぐに停車できる速度の徐行が基本なのです。

安全を怠り、荷すら諦めてまで会わねばならない人では御座いません。

何より、会うのならちゃんと先触れなりを出してくれればいいのに。

「突然来ちゃった。えへ♡」が通じるのは蜜月の恋人くらいですわ。

地味にストレスとなり、疎遠となるきっかけを作るのが「アポなし訪問」ですのに。


しかし無視して出立をした後、従業員の身に何かあってはいけません。

面倒なのですが、到着までの時間も7分に組み込みカウント開始。
待つことに致しました。



パカラッパカラッ!馬の蹄が門道の石畳を蹴る音が近づき、その姿が見えました。

「ルル、あと何分」

「4分20秒です」


その時間となると「おはようございます」の後に「ではごきげんよう」になりそうね。


しかし、レアンドロ様は何を考えたのか目前で馬を降りるなり地べたに突っ伏してしまわれたのです。

動こうとしますと…。

「待ってくれ!そのままで!そのままでぇぇーっ!」

え?動くなって事?

失せ物?何か小さなものでもなくされたのかしら?
ここに来たことがあるの?今日初めてじゃないの?

何故地べたに突っ伏して…ハッ!!

そう言えば2つ国を挟んだランドルット王国で最近直接眼球に装着をするレンズが開発されたとか。
落とすと地べたを這いずり回って探す透明の小さくて薄いレンズでも手に入れられたのかも知れません。

これはうっかり歩いてしまい「パキ」と小さな音がするとTHE・END。

「殿下、何を失くされたのです?」

「全てだ。全て私の失態だ!」

これまた色んな意味で広い範囲ですわね。全てを失くされたなんて。

「ファリティ…すまない!」

失せ物をした側が何故謝罪をされておられるのかしら。
意味が判らないわ。

まさか!この出かけようとしている時に一緒に探せと?!無茶な!
いえ、それよりも正さねばならない事が御座います。


「殿下、以前にも申し上げましたが愛称呼びはなさいませんよう」

「しかし!謝罪をするのに、 ”君!すまない!” とは言えないだろう」

え?謝罪?
初夜から数えてもう2か月以上経っております。
正教会で別れてから会った事はなかったですし、謝罪をされる意味が判りませんわ。

「お嬢様、タイムアウッ!」

「あらそう。申し訳ございません。レアンドロ様、こう見えてわたくし結構忙しい身なのです。お話は後日でよろしいかしら」

「ど、どこかに行くのか?」

「オホホ。嫌ですわ。お互いの事には干渉しない。約束で御座いましたでしょう?」

「そ、その約束なんだが!!」

「ごめんなさいね、本当に急いでいるの。ではごきげんよう」


構っている時間は御座いません。
私はルルと馬車に乗り込み、パンを頬張りながら中継地に向かって出立したのです。
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