至らない妃になれとのご相談でしたよね

cyaru

文字の大きさ
31 / 52

第31話♡  この際だから事務所移転

しおりを挟む
「お嬢様、空き缶ガラガラになっております」

「え?閉店じゃなく?」

「ウッ!ワァオ!‥‥って違います。空き缶ガラガラです」

空き缶ガラガラ。私が幼い頃は結婚式場から出て来る新婚夫婦を乗せた馬車が後部に空き缶を括りつけ、魔除けの意味で街をガラガラと走っておりましたが、馬車の後部から小窓を覗くとレアンドロ様が付いてきているのが見えました。

「ルル、つけられてるわ」

「えぇ。彼は尾行は得意じゃないんでしょうね。あれじゃバレバレです」

馬車が通行人が横切る時に速度を落とし停車をすると、馬を物陰に寄せてはいますが確かに全く隠れられておりません。

そりゃ軒先から垂らした鎖で全てを隠そうとしても無理でしょう。

「お嬢様、きっと奴は自分の視界に見えてないと、相手も見えてないと思っていると思います」

「ルル、私もそう思うわ」

何故ならレアンドロ様は騎乗したまま、顔を傾け、自身の目の部分に鎖が来るようにしているだけなのです。

指名手配犯が未成年である時に目の部分だけ黒く塗りつぶした手配書のモデルになれそうですわ。
ま、レアンドロ様は成人されている性人ですけれど。

きっとルシェルと出会った時、レアンドロ様は20歳だったので遅い青春だったのでしょう。青い気持ちはどろどろとした性の虜となり、青年となるはずが性年。


しかし、何故突然?意味が判りませんわね。

昨日、国王陛下にお出しした返事が原因なら私にどうしろと仰るのかしら。
私は一切の関与はしないのでお好きになさればいいのです。

色々と制約を付けられるより、イッツ・ア・フリーダムッ!!自由である方が良いと思いますが。

えっ?!もしかして。

緊縛の性癖がおありなの?
婚約者時代はルシェルの部屋に飽き足らず、青空の下、庭で喘いでいらっしゃったのに?

全方位開放型じゃなかったの?!

何かのきっかけで真逆に方向転換したのかしら。
そういうのは私ではなくルシェルに言えば何でも応えてくれるでしょうに。

そう、今ならルシェルは拘束されて牢にいる筈なので、リアルで監禁ごっこも王子なら職権乱用で愉しめばいいのです。

3時間ほど追いかけてきておりましたが、馬にも限界が御座います。

「ルル、お昼を食べましょう」とルルに声を掛ける頃には見えなくなっておりました。

そりゃそうでしょうね。
行き当たりばったりで来たのなら、引き返すにも路銀は必要でしょうが用意をしていなかったでしょうし。

ご利用は計画的に。と、どこかの商会も宣伝してましたわ。



予定通りに中継地に到着し、幌馬車で出発。

王都を出て3日目。6台目の幌馬車に乗り換えようとしておりますと王都の市井にある事務所で経理を担当する男性従者が早馬で追いついてきたのです。

「どうしたの?!早馬なんて!何かあったの?」

事業をしていると想定外は起こり得る物。
なので幾つか想定されるパターンは考えて、元間諜のシードさんやサミュエルさんから教えてもらった時を参考に「こうなったらあぁする案」も用意しておりましたのに。


「お嬢様、困りました。レアンドロ殿下が事務所の入り口をずっと張り込んでいるんです」

張り込みと言えば刑事デカ
刑事デカと言えば純情系。はみ出してはいるけど、時にあぶないのよ。

私としては、はみ出すのもいいけど、はぐれるのも外せない…でもレアンドロ殿下はどっちも嫌だわ。

まさかのストーキング行為。
いったいレアンドロ殿下は何をしたいのかしら。

「困りました。あれで雨に打たれたり、脱水で倒れられたりしたら難癖付けられます」

アポなしでも迷惑なのに粘着系ストーカーになってしまわれたのかしら。

困るのは私が次に王都に戻るのは半年以上先なのです。
それだけパロンシン領の事業は最初が大事なので離れることが出来ないのです。


「お嬢様、事務所移転で良いんじゃないですか?区画整理で事務所の前を通る人も少なくなったじゃないですか。老朽化してましたし家主さんも建て直したいから今後1,2回は更新しても、その後の更新はないかもって言ってましたし」

「そうね。空き店舗を取り壊して時間貸しの馬車駐車場が多かったのは利点だったけど引っ越した方がいいわね」

「解りました。当面隣町にある事務所に荷物を運び入れます。良さげな物件があればパロンシン領に纏めた書類を送ります」

「ありがとう。そうしてくれる?」

従業員さんと話をしていると「出発するぞー!」声が聞こえて参ります。

「では、お願いね」

「はい、お気をつけて」

翌月届いた知らせでは、荷物の運び出しを夜に行ったので荷物の運び出しはスムーズに終えることが出来、従業員さんたちも、荷物の運び出しの終わった翌日からは隣町に出勤。

貸し事務所と看板を取りつけに来た不動産屋の男性にレアンドロ殿下は「どういうことだ」と詰め寄ったそうです。

ストーキングをするにも間抜けであったことが判明しましたわ。
しおりを挟む
感想 70

あなたにおすすめの小説

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...