至らない妃になれとのご相談でしたよね

cyaru

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第32話♠  ゴミの集積場じゃない

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久しぶりに会ったファリティを見た時、胸が高鳴った。

確信したのだ。
私は心からファリティを求めている。
胸が高鳴るのはファリティの魂と私の魂が共鳴しているからなのだと。

迷うことなく先ずはファリティに許しを請うべく、恥を忍んで地べたに突っ伏した。

麗しい声で「殿下、何を失くされたのです?」と問われた時、下半身が熱くなり立ち上がる事が出来なくなった。ジッパーすら弾け飛びそうな昂ぶりを見せてしまう事になるからだ。

その問いに「君の愛だ」と叫びそうになったが、我慢、我慢。

賢者になれば耐えられる。

「ファリティ…すまない!」私は心から謝罪をした。

だが…愛称呼びを咎められてしまった。

すまない…それほどに初夜の事はファリティを傷つけてしまったんだと悟った。
しかし、これからは違う。生まれ変わった私と生活の全てを共にしてもらえれば解って貰える。

宮にルシェルはもういない。
2人で仲睦まじく過ごせるんだ。

ファリティが描いていた新婚生活が送れるのだと説明しようとしたんだが、どこかに出かけるらしく、急いで馬車に乗り込んでいった。


忙しい身とは言っていたが、少しの時間はあるだろう、どこかで休憩なりをするだろうと後を追ったのだが馬が限界を迎えてしまった。

他の馬を用立てようとしたのだが、従者からファリティの居場所を聞けたのが朝の6時。

そう、私は昨夜父上の元から戻り、屋敷で帰り支度をする使用人全員にファリティを探し出せと命令を出した。


「この時間から?無理ですよ!」

歯向かってくる使用人に「王子命令だ」と言えば従ってくれた。

ハッパをかければこんなに早く見つけられるのにこいつらは今まで何をしていたんだと腹立たしくもなる。


結局ファリティとは話が出来ず終い。
肩を落とし、宮に戻ると使用人の目が異常なまでに冷え込んでいた。

「茶を淹れてくれ」

「・・・・」

「茶を淹れてくれと言ってるんだ」

聞こえなかったのかもう一度言うと確かに茶は出て来た。
ただ、五感を研ぎ澄まさないと感じられない色も味も薄い茶だったが。


そうだ。

大事なことを私はすっかり忘れていた。
50を超える家が私と面会をしたがっていたのに返事をまだ出していなかったのだ。

届いた先触れを広げ、金を持っていそうな家の順番に並べる。
こう見るとなかなかに壮観だ。私の事をこれだけ推したいと願ってくれている家がある。
なぜ今まで彼らに声を掛けてやらなかったのか。

ホートベル侯爵家が後ろ盾になっているので、大丈夫だと胡坐をかいてしまったがホートベル侯爵家はファリティが戻ってくれば休眠にしてもらうしかない。

妃の仕事もこの2か月ほどしなくていいとなればファリティだって申し訳ない気持ちにもなっているだろうし、私が「やはり妃の仕事をしてくれた方が民のため」と言えば従ってくれるはずだ。

誰だって「売り言葉に買い言葉」でカッとなりヤケになる事もある。
きっとあの時、ファリティもそんな心境でやらなくていいならやらない!と意地になっただけだ。

これだけの家からも支援金があるとなればファリティもホートベル侯爵家が負担しなくていいと思えるだろう。

気持ちよくペンを滑らせ、5家目に出す返事を書いていた時だった。


「殿下、お忙しいところ申し訳ございません」

「どうしたんだ?」

「2つ御座いまして、1つ目は先触れを送って来ていた家ですけれど、お返事も頂けないようなので今回は見送るとの事です」

「は?何軒だ?何軒がそう言って来たんだ?」

「全部です」

「ぜ、全部?いや、ダメだ。こうやって返事を書いているんだ。幾らなんでもせっかち過ぎるだろう!」

「私に申されましても…兎に角。今回は見送るので次回、ご縁があれば。と」

「なんだ、その社交辞令のような次回の期待はするな!みたいな返事は!」

「ですから。私に申されましても」

確かに従者に何故だと文句を言っても仕方がない。
折角返事を書き始めたのに水を差された気分だ。


「で?2つ目はなんだ」

「はい。先ほど陛下からの使いが参りまして」

「なんだと?何故ここに通さないんだ!」

「いえ、伝言だけで返事も不要だからと申しておりまして」


返事の要らない伝言となるとまた「来い」という命令なんだろうか。
面倒くさい。一度で済ませてくれればいいのに。

そう思い、従者に「用件は何だったのだ」と問うた。


「はい、懐妊中のルシェルを殿下が面倒をみるように‥と言付かったと」

「ハァアーッ?!」

「牢を出す手続きに1週間ほどかかるようですけども、産婆などの手配も忘れずに行い、妊産婦用の用品なども用意するように…と」

「何故私がそんな事をせねばならないんだ!ここはゴミの集積場じゃないんだぞ!」

「それは私に申されましても」

ルシェルを押し付けられたらファリティここに戻れないじゃないか。
どうしてこうも!誰もかれもが私に断りもなくあれをやれ、これをやれと押し付けて来るんだ!

「アーッ!もういい!」

面倒になった私はペンを放り投げ、私室に籠り、翌日の朝早くからファリティのいた家に向かった。

男が出入りをしていたので、間男かと思えば女もいる。
どうやら事業を行う事務所だったようで、ここで待っていればファリティに会えると思い夜は近くの宿屋で寝泊まりをした。

しかし1か月もしないうちに人の気配が消えた。

「あ~ちょっと退いてくれます?」

「誰だ。お前は」

「私ですか?ヤドカリ不動産のハーグマリと申します。あ、もしかして貸店舗、貸事務所の物件探してます?今月はですね、礼金ゼロキャン、あ、礼金が要らないってキャンペーン期間なんです。気に入って頂ける物件が見つかるまでお手伝いいたしますよ?」

「要らん!その手にしている看板‥ここは空きになったのか」

「はい!そうなんです。でも事故物件って訳じゃないんですけども家主が来年取り壊してアパートメントにするそうなので有期契約になるんですよ~。どうです?賃料もそんな訳アリなのでお安いですが」

「要らんわ!」

どういう事なんだ?事務所を移転させた?いや事業が終わったから解約したのか?
私に何の相談もないから判らないじゃないか!

むしゃくしゃした気持ちのまま空きになった事務所でファリティを待ったところで意味がない。
宮に戻ったのだが…。

「殿下!私、許しませんからねっ!」

出迎えてくれたのはルシェルだった。
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