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第33話♡ バリファン伯爵の見事な手捌き
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幌馬車を乗り継ぎ、到着したパロンシン領。
「見事に…何にもないですね」
「ルル。あるじゃない!自然があるわ。海!山!川っぽい水路!」
「お嬢様、海と山は認めます。ですが川ってより沢ですよね、しかもゴミ捨て場になってますよ」
敢えて目を背けたのに、ルルは正直者だわ。
パロンシン領に入ったあたりから気にはなっていたんですけども、道の脇には使わなくなった棚などの家財道具であったり、壊れた農具、網は漁で使う投網なのか。
よく王族が街をパレードすると沿道には民衆が詰めかけて小旗を振るのですけども、ゴミが観光客をお出迎え。そんな感じになっておりました。
寂れ、廃れて来ると不届き者がこうやってゴミを捨てていくのです。
1人が捨てれば「自分だけじゃない」という心理が働き、お仲間の顔はみた事は無くても積みあがるゴミの山。
そんなゴミの山が訴えるのは、ここには人としてのモラルも捨ててしまっているんだよー!って声なき声です。
「これは防潮堤もだけど…これが当たり前って感情も壊さないといけないわね」
しかし、いきなりポっと出の私が「領を綺麗にしましょう!」と声を掛けても声に耳を傾けてくれる人はいないでしょうし、聴講会を開こうとしても誰も集まってはくれません。
講師を招いても実行委員がいるだけで本当に話を聞いて欲しい人は「忙しい」「時間がない」「興味がない」と足を運んではくれないのです。
地味な活動でコツコツと賛同者を増やす方法もありますが、パロンシン領の抱えている問題は時間の経過と共に酷くなっていくので、今が勝負。
「事業長。悪いんだけど日雇いで人を集めてくれる?」
「ここを片付けるんですか?」
「そうよ。人を雇うのに費用は掛かってしまうけれど必要経費。ここが片付かないと領地からはもう土を運ぶ荷馬車は出てるの。通れないわ」
「集めたごみはどうするんです?これはもう再利用の域は超えてますよ」
事業長が車軸が壊れて捨てられた荷馬車の荷台に足を置くともう木が腐っていてボロボロと足を置いた部分が崩れております。
「燃やすしかないわ。そう!盛大にこのゴミを燃やして狼煙を上げるのよ!」
「お嬢様、燃やした後の木灰…勿論使うつもりですよね?」
「当たり前でしょう?だから人の数が必要。アミナリンさんは到着まで自由にしていいと言ってたし‥ほら!契約書もあるわ。人をかき集めて分別。木、金属、その他に先ずは分けるしかないわね」
「では私は引き返して近隣の領にある商会に引き取りを依頼してきます」
「助かるわ。そうね…ざっと見た感じここまでの道中もあるけどトンの単位で鉄くずなんか出ると思うわ。引き取り価格交渉も任せるからお願いね」
事業長の1人が引き返していくと残った私たちは先ずアミナリンさんの屋敷に向かいます。
が…。
「お嬢様…屋敷ですよね?」
「えぇ…アミナリンさんの屋敷ね。看板があるもの」
【バリファン伯爵家】と流れ着いた流木を利用して作った看板に文字が書かれております。
しかし、その向こうに見えるのは…ごめんなさい。
他人様ン家だけどあばら家にしか見えないの。
どうしようかなと門扉のない門で立っていると1人の女性がエプロンで手を拭きながらやって参りました。
「もしかして!ホートベル侯爵家の方ですか?」
「はい…ここはバリファン伯爵家でお間違いないですよね?」
「はい!私はアミナリンとビオヘルミの母でカロルーナと申します。当主は夫のコッタンクです。中に居りますのでどうぞ。お入りください」
「散らかってますけど、どうぞ」との社交辞令。
えぇ…社交辞令なので…ってぇ!!ほんとに散らかってるんですけどー!!
平屋の家屋は玄関を入ると土間。壁が見えない、いえ、壁は積み重ねられた投網で構成されております。
土間の片隅ではタオルをねじり鉢巻きにして、木箱を椅子にアジを捌き、ヒラキにしているのがご当主のコッタンク様。
王都で他家に招かれた時、絶対に遭遇しないシチュエーションですわ。
「へぃ、らっしゃい!ルーナちゃん。ワタの桶、満タンオケェイ!」
ここって、お魚屋さんだったの?え?燃料補給店?
捌いたアジの不要部分がいっぱいに入った桶を空っぽの桶に入れ替えてもらったコッタンク様。
「すまねぇな。アジの開きは数少ない収入源でね。今のうちに捌いて干しておかねぇとアジが傷んじまうんだ」
みればカロルーナ様もイワシでございましょうか。丸干しの途中だったようで御座います。これでは話をするのも直ぐにはならないと思いましたが、豪快なコッタンク様が仰います。
「まだ耳は聞こえてっからさ。そこで喋ってくんねぇか」
話を始める事が出来なくはないのですが、豪快なのに華麗で素早い手捌き。次々に開かれていくアジ。その手元に見入ってしまい、言葉が出ませんでしたわ。
「見事に…何にもないですね」
「ルル。あるじゃない!自然があるわ。海!山!川っぽい水路!」
「お嬢様、海と山は認めます。ですが川ってより沢ですよね、しかもゴミ捨て場になってますよ」
敢えて目を背けたのに、ルルは正直者だわ。
パロンシン領に入ったあたりから気にはなっていたんですけども、道の脇には使わなくなった棚などの家財道具であったり、壊れた農具、網は漁で使う投網なのか。
よく王族が街をパレードすると沿道には民衆が詰めかけて小旗を振るのですけども、ゴミが観光客をお出迎え。そんな感じになっておりました。
寂れ、廃れて来ると不届き者がこうやってゴミを捨てていくのです。
1人が捨てれば「自分だけじゃない」という心理が働き、お仲間の顔はみた事は無くても積みあがるゴミの山。
そんなゴミの山が訴えるのは、ここには人としてのモラルも捨ててしまっているんだよー!って声なき声です。
「これは防潮堤もだけど…これが当たり前って感情も壊さないといけないわね」
しかし、いきなりポっと出の私が「領を綺麗にしましょう!」と声を掛けても声に耳を傾けてくれる人はいないでしょうし、聴講会を開こうとしても誰も集まってはくれません。
講師を招いても実行委員がいるだけで本当に話を聞いて欲しい人は「忙しい」「時間がない」「興味がない」と足を運んではくれないのです。
地味な活動でコツコツと賛同者を増やす方法もありますが、パロンシン領の抱えている問題は時間の経過と共に酷くなっていくので、今が勝負。
「事業長。悪いんだけど日雇いで人を集めてくれる?」
「ここを片付けるんですか?」
「そうよ。人を雇うのに費用は掛かってしまうけれど必要経費。ここが片付かないと領地からはもう土を運ぶ荷馬車は出てるの。通れないわ」
「集めたごみはどうするんです?これはもう再利用の域は超えてますよ」
事業長が車軸が壊れて捨てられた荷馬車の荷台に足を置くともう木が腐っていてボロボロと足を置いた部分が崩れております。
「燃やすしかないわ。そう!盛大にこのゴミを燃やして狼煙を上げるのよ!」
「お嬢様、燃やした後の木灰…勿論使うつもりですよね?」
「当たり前でしょう?だから人の数が必要。アミナリンさんは到着まで自由にしていいと言ってたし‥ほら!契約書もあるわ。人をかき集めて分別。木、金属、その他に先ずは分けるしかないわね」
「では私は引き返して近隣の領にある商会に引き取りを依頼してきます」
「助かるわ。そうね…ざっと見た感じここまでの道中もあるけどトンの単位で鉄くずなんか出ると思うわ。引き取り価格交渉も任せるからお願いね」
事業長の1人が引き返していくと残った私たちは先ずアミナリンさんの屋敷に向かいます。
が…。
「お嬢様…屋敷ですよね?」
「えぇ…アミナリンさんの屋敷ね。看板があるもの」
【バリファン伯爵家】と流れ着いた流木を利用して作った看板に文字が書かれております。
しかし、その向こうに見えるのは…ごめんなさい。
他人様ン家だけどあばら家にしか見えないの。
どうしようかなと門扉のない門で立っていると1人の女性がエプロンで手を拭きながらやって参りました。
「もしかして!ホートベル侯爵家の方ですか?」
「はい…ここはバリファン伯爵家でお間違いないですよね?」
「はい!私はアミナリンとビオヘルミの母でカロルーナと申します。当主は夫のコッタンクです。中に居りますのでどうぞ。お入りください」
「散らかってますけど、どうぞ」との社交辞令。
えぇ…社交辞令なので…ってぇ!!ほんとに散らかってるんですけどー!!
平屋の家屋は玄関を入ると土間。壁が見えない、いえ、壁は積み重ねられた投網で構成されております。
土間の片隅ではタオルをねじり鉢巻きにして、木箱を椅子にアジを捌き、ヒラキにしているのがご当主のコッタンク様。
王都で他家に招かれた時、絶対に遭遇しないシチュエーションですわ。
「へぃ、らっしゃい!ルーナちゃん。ワタの桶、満タンオケェイ!」
ここって、お魚屋さんだったの?え?燃料補給店?
捌いたアジの不要部分がいっぱいに入った桶を空っぽの桶に入れ替えてもらったコッタンク様。
「すまねぇな。アジの開きは数少ない収入源でね。今のうちに捌いて干しておかねぇとアジが傷んじまうんだ」
みればカロルーナ様もイワシでございましょうか。丸干しの途中だったようで御座います。これでは話をするのも直ぐにはならないと思いましたが、豪快なコッタンク様が仰います。
「まだ耳は聞こえてっからさ。そこで喋ってくんねぇか」
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