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第34話♡ バリファン伯爵へのお願い
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華麗なテクニック。アジの開きがこんなに魅力的に見えるなんて生きてきて初めて知りましたわ。
王都で食すものはお洒落なので、炭火や囲炉裏の火で焼いたり、炙ったりしただけの調理で出される料理はないのです。
一仕事終えたコッタンク様は「今、お試しで製作中」と言いながら長方形の小さな塊を「熱いから気ぃつけな」と言い、手渡してくださいます。
「これはなんですの?」
「売り物になんねぇ小さいアジだよ。味は良いんだけどさ、なんせ元が小さいから捌くにも手間でさ。俺たちの晩飯になるしかねぇんだ」
あら?ゴマをまぶしているからか、炙られたことで香りもいいし、美味しいわね。
隣を見るとルルが「お酒が欲しくなります」と既に飲みながら齧っております。
コッタンク様は伯爵家のご当主様で御座いますけれど、話し方も豪快で御座いますわ。
何物にも染まらない。心意気が感じられますわ。
聞けば王都には「親父から爵位やるって言われた時に1回だけ」とどうやら国王陛下に爵位拝命の儀で出向いたのみなのでしょう。
王都に住んでいれば夜会で王族への挨拶もありますので、特に儀式を行う事は御座いませんが遠く離れるほど会う機会もありませんので儀式を行うのです。
「どぅ?ウチのアミナリン。いい男に育ったと思うんだけどな?尻叩かなくても働くし、仕事は真面目。女っ気がないところだけが心残りなんだけどさ。アッハッハ」
さりげなく売り込まれておりますが、私、既婚者ですわ。
「ところでコッタンク様。お願いが御座いますの」
「若い女の子にお願いされたらなんでも聞いちゃうよ?なぁんて…ルーナちゃんに秘密になる事は聞けねぇけど」
大丈夫です。特別女性給仕のようなサービスは出来ませんので、秘密になる事も御座いませんわ。
「実は、ここに来るまでにかなりの不法投棄が御座います。それらを片付けるのと計画の方は事前に連絡があったと思うのですが、その作業でどの役に適任となるのか見極めたいのです」
「ゴミかぁ。そうなんだよ。以前は見つけたら処分してたんだけど、そのうち捨てたら誰かが処分してくれると思うのかどんどん持ち込まれちゃってさ。処分費もバカになんねぇしやめたんだよ。そしたらあの有様。そのうち山ごと燃やすか!なぁんて冗談まで出る始末さ。でも片付けてもまた捨てていくやつが出るぜ?いたちごっこだ」
「ふふふ。不法投棄するイタチ‥さぞかし処分費で良い毛皮を蓄えているでしょうから、剝ぎ取って差し上げますわ。きっと2、3年で本物のイタチしか居なくなりますわよ」
「アーハッハ。姉ちゃん。面白いな。悪いイタチどもも一緒に処分してくれるんなら何でもするぜ。と言っても見て判るように伯爵様のお屋敷だってこんなんなんだ。金はねぇけどな?」
「コッタンク様。揃えて頂くのは人間です。金はこちらで出します。と、申しましても投棄されたゴミも一部はお金になりますので、全額では御座いません」
「へぇ。あれが金に?処分費だけ食う厄介者だったけどなぁ。で?ただ頭数を揃えりゃいいんじゃねぇだろ?」
「はい。皆様本業は漁業であったり農業。ですが言ってみれば全員が個人事業主で御座います。面倒のは我と我がぶつかった際。出来れば現状でまとめ役となっている方もお願いしたいですわ」
「仲裁人も先に用意しろってことだな?」
「はい」
「よし。解った。アミナリンから聞いたと思うが農業はもう失敗としか言えない状況で皆仕事を探してるんだ。漁師たちもこの時期は漁には出ないから小遣い稼ぎになるし頭数は揃う。えぇっとなんだっけ?あぁ湾の柵も壊してくれるんだろう?潜水の出来る力自慢はもう集めてある。安心してくれ」
話も終わり、宿もないパロンシン領。
「客間だ」と案内された部屋は、すごく風通しがよく、仰向けになれば天井の隙間から星の見える風流な部屋。
決して招かれざる客なのではなく、この部屋、実はコッタンク様の執務室。
バリファン伯爵家の出来る限りのおもてなしに私、胸を打たれましたわ。
その夜はパロンシン領ではごく普通に食べられているけれど、王都では味わった事のない食事を振舞って頂きました。
「あら汁?」
「そう。なんでも放り込んで煮ちゃうんだけど、お口に合うかしら」
一口スプーンで飲んでみればふわっと香る磯の香。
ルルは豪快にスープ皿ならぬ、スープ椀で直接飲んでいるコッタンク様と同じようにゴクリ。
「旨っ!!うんまっ!お嬢様、これはスプーンでちょびちょびではなくグッと行った方が美味しいです」
お行儀が悪いと思いましたが、2人の事業長と一緒にゴクリ。
「っっっ!!」
美味しさで脳内が弾けたのは初めてで御座いました。
王都で食すものはお洒落なので、炭火や囲炉裏の火で焼いたり、炙ったりしただけの調理で出される料理はないのです。
一仕事終えたコッタンク様は「今、お試しで製作中」と言いながら長方形の小さな塊を「熱いから気ぃつけな」と言い、手渡してくださいます。
「これはなんですの?」
「売り物になんねぇ小さいアジだよ。味は良いんだけどさ、なんせ元が小さいから捌くにも手間でさ。俺たちの晩飯になるしかねぇんだ」
あら?ゴマをまぶしているからか、炙られたことで香りもいいし、美味しいわね。
隣を見るとルルが「お酒が欲しくなります」と既に飲みながら齧っております。
コッタンク様は伯爵家のご当主様で御座いますけれど、話し方も豪快で御座いますわ。
何物にも染まらない。心意気が感じられますわ。
聞けば王都には「親父から爵位やるって言われた時に1回だけ」とどうやら国王陛下に爵位拝命の儀で出向いたのみなのでしょう。
王都に住んでいれば夜会で王族への挨拶もありますので、特に儀式を行う事は御座いませんが遠く離れるほど会う機会もありませんので儀式を行うのです。
「どぅ?ウチのアミナリン。いい男に育ったと思うんだけどな?尻叩かなくても働くし、仕事は真面目。女っ気がないところだけが心残りなんだけどさ。アッハッハ」
さりげなく売り込まれておりますが、私、既婚者ですわ。
「ところでコッタンク様。お願いが御座いますの」
「若い女の子にお願いされたらなんでも聞いちゃうよ?なぁんて…ルーナちゃんに秘密になる事は聞けねぇけど」
大丈夫です。特別女性給仕のようなサービスは出来ませんので、秘密になる事も御座いませんわ。
「実は、ここに来るまでにかなりの不法投棄が御座います。それらを片付けるのと計画の方は事前に連絡があったと思うのですが、その作業でどの役に適任となるのか見極めたいのです」
「ゴミかぁ。そうなんだよ。以前は見つけたら処分してたんだけど、そのうち捨てたら誰かが処分してくれると思うのかどんどん持ち込まれちゃってさ。処分費もバカになんねぇしやめたんだよ。そしたらあの有様。そのうち山ごと燃やすか!なぁんて冗談まで出る始末さ。でも片付けてもまた捨てていくやつが出るぜ?いたちごっこだ」
「ふふふ。不法投棄するイタチ‥さぞかし処分費で良い毛皮を蓄えているでしょうから、剝ぎ取って差し上げますわ。きっと2、3年で本物のイタチしか居なくなりますわよ」
「アーハッハ。姉ちゃん。面白いな。悪いイタチどもも一緒に処分してくれるんなら何でもするぜ。と言っても見て判るように伯爵様のお屋敷だってこんなんなんだ。金はねぇけどな?」
「コッタンク様。揃えて頂くのは人間です。金はこちらで出します。と、申しましても投棄されたゴミも一部はお金になりますので、全額では御座いません」
「へぇ。あれが金に?処分費だけ食う厄介者だったけどなぁ。で?ただ頭数を揃えりゃいいんじゃねぇだろ?」
「はい。皆様本業は漁業であったり農業。ですが言ってみれば全員が個人事業主で御座います。面倒のは我と我がぶつかった際。出来れば現状でまとめ役となっている方もお願いしたいですわ」
「仲裁人も先に用意しろってことだな?」
「はい」
「よし。解った。アミナリンから聞いたと思うが農業はもう失敗としか言えない状況で皆仕事を探してるんだ。漁師たちもこの時期は漁には出ないから小遣い稼ぎになるし頭数は揃う。えぇっとなんだっけ?あぁ湾の柵も壊してくれるんだろう?潜水の出来る力自慢はもう集めてある。安心してくれ」
話も終わり、宿もないパロンシン領。
「客間だ」と案内された部屋は、すごく風通しがよく、仰向けになれば天井の隙間から星の見える風流な部屋。
決して招かれざる客なのではなく、この部屋、実はコッタンク様の執務室。
バリファン伯爵家の出来る限りのおもてなしに私、胸を打たれましたわ。
その夜はパロンシン領ではごく普通に食べられているけれど、王都では味わった事のない食事を振舞って頂きました。
「あら汁?」
「そう。なんでも放り込んで煮ちゃうんだけど、お口に合うかしら」
一口スプーンで飲んでみればふわっと香る磯の香。
ルルは豪快にスープ皿ならぬ、スープ椀で直接飲んでいるコッタンク様と同じようにゴクリ。
「旨っ!!うんまっ!お嬢様、これはスプーンでちょびちょびではなくグッと行った方が美味しいです」
お行儀が悪いと思いましたが、2人の事業長と一緒にゴクリ。
「っっっ!!」
美味しさで脳内が弾けたのは初めてで御座いました。
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