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第35話♠ 一石二鳥、三鳥、四鳥
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頭痛がする。
目の前で見ている方が食欲を失うような食事をするルシェル。
産婆から話を聞いた使用人は「食べ悪阻」と言って兎に角食べていないと気分が悪くなるものだと言われたようだ。
だからなのか。
捕縛された時にはそれなりに細かったルシェルだが、私がファリティに会いたくて宿を住まいをしていた期間に宮に連行されてきて、1日中何かを食べているからか、それとも妊婦だからなのか。
全体的に丸くなっている。
「3週間で15kgも増えちゃったの。赤ちゃんってよく食べるのよね」
いや、食っているのはお前だ。この時点で赤ん坊の体重が15kgだったら生まれる頃はもう成人並みじゃないか。
その上、なんでも食べるが安物は口に合わないと言って高級品ばかりを要求する。
父上、いや国王から「ここで面倒をみるように」と言われてやってきたルシェルなので使用人も断ることが出来ず、言われるがままに納品業者に注文をしているからか1週間当たりの食費もとんでもないことになっていた。
さらに恐ろしいのは夜だ。
あんなにルシェルを抱きたくて堪らなかったのに、今は迫って来られると萎えてしまってピクリとも動かない。
触れられると全身が毛虫を這うような気がするし、何より食べるかスルかしかないルシェルが気持ち悪い。
「ねぇ…いいでしょ?赤ちゃんだってパパにご挨拶したいと思うの」
「馬鹿なことを言うな」
「だってぇ‥ずっとシテないのよ?ねぇ‥殿下ぁ」
「やめてくれよ!妊婦だろう?」
「妊婦だって性欲はあるわよ。自分がシたい時だけシといて私のお願いは聞いてくれないって言うの?!酷い!」
そう言って、隣でギャンギャン泣かれてしまうので夜も眠れない。
そりゃ妊婦だって食欲もあれば性欲もあるだろうが、ルシェルは異常なのだ。
ルシェルを黙らせておくには何かを食べさせておくか、仕立て屋などを呼んで好きなものを買わせておくしかない。
腹に少し膨らみが出てくるころには、私の貯えていた私財は底を突いた。
これからは腹が膨れると同時に、借入金も増えると思うと頭が痛い。
そんな日々を過ごしていて気が付いた。
「おい、最近事業申請書の数が少なくないか?」
「・・・・」
「何故黙っているんだ?私は数が減っていないかと尋ねているんだ。抜かりがあるんじゃないのか?」
明らかにチェックする書類の数が減っているのだ。
以前はイサミアに1日5件、余計な仕事となったがやらせても翌日も、その翌日も数があった。
が、今週はもう中日だというのに6件しか書類が回って来ていない。
週ペースで言えば40件ほどあった申請書は10件あるかないかまで減っていた。
しかも内容は軽微な物ばかりで確認作業をするのに書庫に行ったり王宮の担当課や商会に問い合わせたりするようなものはない。
私の処理能力が上がったんだろうか?
「問題が起きて書類申請の仕方を変えるそうです」
「そうなのか。別に今までのやり方でも問題ないのにな」
「そうですね。不備のない書類を突き返されて公用証紙の買い直しなんて前代未聞でしたし」
「え?…いや、それはもう話が付いているだろうが」
「どんな話をされたんです?」
「話をする前に来なくていいと向こうから言って来たじゃないか」
「はぁ…。殿下。イサミアやお連れ様に感化されましたか?言ってることが彼らと同じですよ」
「失礼な!どこが同じだと言うんだ!」
「謝罪に来なくていいと言われて行くのをやめるのと、与えた損害を放置するのは別の問題です。たかが数万の公用証紙でもそれで利益が飛ぶような小さい事業だってあるんです。仕事が少なくなっているのは殿下!殿下にはもう書類を回してほしくないと貴族や商会が連名で議会に訴え出たからですよ。でも直ぐにシステムは変えられません。だから!ライオネル殿下とジェシカ様が引き受けてくださっているんです」
「そんな…なんで寄りにもよって兄上に回すんだ!公用証紙代が欲しいなら言ってくれれば出した。用意だってしてたんだ!」
「なら今からでも公用証紙代だけでもと弁済すればどうです?ライオネル様がされるのが嫌なら国王陛下に言ってください。引き受けると言ったのはライオネル様ですが、頼むと承諾したのは陛下ですから」
「解った。ではファリティを直ぐに連れて来てくれ。私とファリティで汚名挽回するッ」
「殿下…汚名挽回ではなく汚名返上です。悪い方をまた取り戻してどうするんですか。それに妃殿下は現在王都に居られません」
何と言う屈辱だ。信じられない。これではまるで私が無能じゃないか。
私がこんな状況になっているのにファリティはまた旅行に行ったというのか?約束を守るにしても本当に使い物にならない妃じゃないか。
もしや…ファリティの出来はイサミア並み…。
だとすれば自分の不出来を知っているからこそ、私の手を煩わせてはならないと敢えて遠い地にいるのか。
こうなったら穀潰しのルシェルに手伝わせるしかない。
イサミアは本当に余計な仕事しかしなかったが、ルシェルは自分の出来は講師からもいつも勉強好きが高じたものだと褒められると言っていた。
何もしない、出来ない愚鈍なファリティとは違うと言っていたしな。
側に置いておけば高額なドレスなど仕立てられて、これ以上出費が増えることもないし、執務など勉強好きなルシェルには物足りないかも知れないが、執務をする間は食べなくてもいいんだから食費も抑えられる。
一石二鳥ではなく一石三鳥にも四鳥にもなるじゃないか。
うわっ。私はなんでこんな簡単な事に気が付かなかったのか不思議でならない。
私は早速ルシェルを呼んだ。
目の前で見ている方が食欲を失うような食事をするルシェル。
産婆から話を聞いた使用人は「食べ悪阻」と言って兎に角食べていないと気分が悪くなるものだと言われたようだ。
だからなのか。
捕縛された時にはそれなりに細かったルシェルだが、私がファリティに会いたくて宿を住まいをしていた期間に宮に連行されてきて、1日中何かを食べているからか、それとも妊婦だからなのか。
全体的に丸くなっている。
「3週間で15kgも増えちゃったの。赤ちゃんってよく食べるのよね」
いや、食っているのはお前だ。この時点で赤ん坊の体重が15kgだったら生まれる頃はもう成人並みじゃないか。
その上、なんでも食べるが安物は口に合わないと言って高級品ばかりを要求する。
父上、いや国王から「ここで面倒をみるように」と言われてやってきたルシェルなので使用人も断ることが出来ず、言われるがままに納品業者に注文をしているからか1週間当たりの食費もとんでもないことになっていた。
さらに恐ろしいのは夜だ。
あんなにルシェルを抱きたくて堪らなかったのに、今は迫って来られると萎えてしまってピクリとも動かない。
触れられると全身が毛虫を這うような気がするし、何より食べるかスルかしかないルシェルが気持ち悪い。
「ねぇ…いいでしょ?赤ちゃんだってパパにご挨拶したいと思うの」
「馬鹿なことを言うな」
「だってぇ‥ずっとシテないのよ?ねぇ‥殿下ぁ」
「やめてくれよ!妊婦だろう?」
「妊婦だって性欲はあるわよ。自分がシたい時だけシといて私のお願いは聞いてくれないって言うの?!酷い!」
そう言って、隣でギャンギャン泣かれてしまうので夜も眠れない。
そりゃ妊婦だって食欲もあれば性欲もあるだろうが、ルシェルは異常なのだ。
ルシェルを黙らせておくには何かを食べさせておくか、仕立て屋などを呼んで好きなものを買わせておくしかない。
腹に少し膨らみが出てくるころには、私の貯えていた私財は底を突いた。
これからは腹が膨れると同時に、借入金も増えると思うと頭が痛い。
そんな日々を過ごしていて気が付いた。
「おい、最近事業申請書の数が少なくないか?」
「・・・・」
「何故黙っているんだ?私は数が減っていないかと尋ねているんだ。抜かりがあるんじゃないのか?」
明らかにチェックする書類の数が減っているのだ。
以前はイサミアに1日5件、余計な仕事となったがやらせても翌日も、その翌日も数があった。
が、今週はもう中日だというのに6件しか書類が回って来ていない。
週ペースで言えば40件ほどあった申請書は10件あるかないかまで減っていた。
しかも内容は軽微な物ばかりで確認作業をするのに書庫に行ったり王宮の担当課や商会に問い合わせたりするようなものはない。
私の処理能力が上がったんだろうか?
「問題が起きて書類申請の仕方を変えるそうです」
「そうなのか。別に今までのやり方でも問題ないのにな」
「そうですね。不備のない書類を突き返されて公用証紙の買い直しなんて前代未聞でしたし」
「え?…いや、それはもう話が付いているだろうが」
「どんな話をされたんです?」
「話をする前に来なくていいと向こうから言って来たじゃないか」
「はぁ…。殿下。イサミアやお連れ様に感化されましたか?言ってることが彼らと同じですよ」
「失礼な!どこが同じだと言うんだ!」
「謝罪に来なくていいと言われて行くのをやめるのと、与えた損害を放置するのは別の問題です。たかが数万の公用証紙でもそれで利益が飛ぶような小さい事業だってあるんです。仕事が少なくなっているのは殿下!殿下にはもう書類を回してほしくないと貴族や商会が連名で議会に訴え出たからですよ。でも直ぐにシステムは変えられません。だから!ライオネル殿下とジェシカ様が引き受けてくださっているんです」
「そんな…なんで寄りにもよって兄上に回すんだ!公用証紙代が欲しいなら言ってくれれば出した。用意だってしてたんだ!」
「なら今からでも公用証紙代だけでもと弁済すればどうです?ライオネル様がされるのが嫌なら国王陛下に言ってください。引き受けると言ったのはライオネル様ですが、頼むと承諾したのは陛下ですから」
「解った。ではファリティを直ぐに連れて来てくれ。私とファリティで汚名挽回するッ」
「殿下…汚名挽回ではなく汚名返上です。悪い方をまた取り戻してどうするんですか。それに妃殿下は現在王都に居られません」
何と言う屈辱だ。信じられない。これではまるで私が無能じゃないか。
私がこんな状況になっているのにファリティはまた旅行に行ったというのか?約束を守るにしても本当に使い物にならない妃じゃないか。
もしや…ファリティの出来はイサミア並み…。
だとすれば自分の不出来を知っているからこそ、私の手を煩わせてはならないと敢えて遠い地にいるのか。
こうなったら穀潰しのルシェルに手伝わせるしかない。
イサミアは本当に余計な仕事しかしなかったが、ルシェルは自分の出来は講師からもいつも勉強好きが高じたものだと褒められると言っていた。
何もしない、出来ない愚鈍なファリティとは違うと言っていたしな。
側に置いておけば高額なドレスなど仕立てられて、これ以上出費が増えることもないし、執務など勉強好きなルシェルには物足りないかも知れないが、執務をする間は食べなくてもいいんだから食費も抑えられる。
一石二鳥ではなく一石三鳥にも四鳥にもなるじゃないか。
うわっ。私はなんでこんな簡単な事に気が付かなかったのか不思議でならない。
私は早速ルシェルを呼んだ。
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