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第36話  この結婚、ケリつけさせて頂きます③-③最終話

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「ミーちゃん。また来てる」
「放っておきましょう。そのうち時間も無くなるわ」

今日も足繁くシルヴァモンドは通ってくる。
せっせと木箱を運ぶシルヴァモンドには目もくれずステファンまでやって来た。


「見てろよ?私を選ばなかった事を後悔させてやるからな!」
「そうですねぇ。時間があれば」
「お前な!」
「殿下、殿下ともあろうお方が ”お前” などと言ううちは何をしても無駄でしょうね」
「くっ!!減らず口を叩きおって!いいか?私が国王になったら――」
「はいはい。その頃にはこの国にいないと思うので存分にどうぞ」
「え?国を出ると言うのか?」

ミネルヴァーナはにっこりと笑った。

「えぇ、異母弟のカイネルが面倒事を起こしまして」
「カイネル?‥‥あぁ‥異母妹を娶る王子か」
「えぇ。自国でクーデターを起こしわたくしを困らせるため派兵を要請してやると言いますの。そんなの他国への干渉となりますでしょう?」
「う、うむ・・・そんな事態になっていたのか…」
「あら?殿下ともあろうお方がご存じない?ご存じない?」
「二度も言うな!し、知っておるわ!」
「くれぐれも派兵などせぬようお願いいたしますわ」
「国が滅んでも良いと言うのか?」
「いいえ、これで父の国王も目が覚めるでしょう。足元の床が抜けるほんの一瞬でも」

それは事実だった。
カイネルは有志を集め、王家を壊そうと動いている。もしかするとステファンに話をしている今がその時かも知れない。遠く離れた地でカイネルは吐いた言葉を守った。

ミネルヴァーナの帰る場所を無くしてやる!という言葉。

――何処までも意地悪なカイ君。でもこれで心置きなく自由に過ごせるわ――

ミネルヴァーナの足枷だった国をカイネルは取り払ってくれた。
ステファンは言葉にも文字にもしない2人の思いを知る事は出来ないが、目の前で涼し気な顔をするミネルヴァーナに心に刺さっていた棘が抜けた気がした。

「相判った。国王となってもそなたの国に派兵することはしない。約束しよう。但し!あの時私を選んでおけば良かったと後悔したら!即座に兵を送り込むからな!」

「あら、怖い。後悔しないようにしなくっちゃ」

それだけ言うとクラムチャウダーをスプーンでかき込んで「熱っ!!」舌を火傷したステファンは帰って行った。


何か言いたそうなシルヴァモンドだったが、続いてやって来たフェルディナンドにミネルヴァーナが「またか」と嫌な顔をするのを見てまた木箱を運んだ。


「ヴァーナ。今日も可愛いね」
「あら、ありがとう。飲んで行かれます?」

スープと一緒に「王家のしきたり」と書かれた本を取るためにミネルヴァーナは立ち上がり、預かっている本がぎっしり詰まった木箱から何冊かを手に取った。

「要らない…もう勘弁して」
「あら?玉座に腰を下ろすには必要でしてよ?」
「そういうの要らないって。出来る人がやればいいんだ」
「なら、フェルディナンド様にも出来る事が御座いますわよね?」

フェルディナンドも馬鹿だがバカではない。
ミネルヴァーナが何を言わんとするかくらいは判る。

「先程ステファン様がいらっしゃいました」
「すれ違ったから知ってる」
「そう。早くしないと両脇の席が埋まりますわよ?」
「え?…じゃぁ…ステファンは…」
「さぁどうでしょう?わたくしに言えるのはそこまでです」

フェルディナンドには王位は興味がない。王位だけでなく公爵家の当主も興味がない。
興味があったのは幼い頃から背中を追いかけて来たシルヴァモンドやステファンが欲しがったミネルヴァーナ。いや違うとフェルディナンドはもう気が付いていた。

「持てる女は辛いのです」
「あはっ。なにそれ。自画自賛?エルレアでもそこまで言わないよ」
「まぁ!一緒にしないで下さる?わたくしは!ほら!」

持ってきた数冊の本を「うぉりゃ!」薪割りの時以上の掛け声とともにミネルヴァーナは持ち上げた。

「持てる女なの。他の令嬢ではそうはいかないでしょう?このままなら…あら?斧を剣に持ち替えてしまう事も出来るかも知れませんわね」

「判った!もう…判ったよ。ヴァーナに剣を持たせてステファンを守らせるくらいなら僕がやるよ。アイツのお守りは僕くらい太々しくないと出来ないからね」

「まぁ、解っていらっしゃるの?てっきりその頭には綿帽子が詰まっているかと思っておりましたのに」

「綿帽子ね…まぁ。水を含めば重くもなるから重鎮と呼ばれるまで面倒みますかー」

「なら、やっぱりお勉強も必要ね」

グイっと本を差し出すとフェルディナンドは逃げていく。
あれで当主になれるのかと心配もしてみるが、カイネルでさえ思い立ったら行動に移したのだから何とかなるでしょとミネルヴァーナは出した本を木箱に片付けた。



「あの…手伝うよ」

――カァァ!本命かよ!一番面倒なのよね――

何度言ってもシルヴァモンドは通ってくることを止めてはくれない。
クーリン達に世話してもらって引っ越しも間もなく。それでもシルヴァモンドは通ってくる。

「何度も言いますが、来なくて結構です」
「解ってるんだけど…本当に信じてくれよ。エルレアとは何の関係もないんだ」
「信じてますよ。でも、それとこれは関係ありません。貴方がエルレア様と関係がないようにここに!貴方が来なければならない理由もないのです」


カイネルが国を鎮めればミネルヴァーナがこの国に留まる理由も無くなる。あくまでもメレ・グレン王国の王女として嫁いだという事実があれば正教会も納得をする。
国が変われば正教会も口出しをする事もない。出国するのは簡単だが余計な火種をわざわざ起こす必要もないのだ。

「わたくし、貴方には感謝しているのですよ」
「感謝?酷い事をしたのに?」
「えぇ。だってあの時5年で離縁なんて言われなかったら今の生活はありませんし、贅沢姫から卑屈な妃になっただけだったでしょう。だからチャンスをくれた貴方には感謝しているのです」
「その感謝が愛情になってくれると嬉しいんだが」

――ねぇわ!不変だからね!――

「エルレア様を娶って差し上げたら?」
「何を馬鹿な!」
「馬鹿な事じゃないわ。彼女も必死。貴方のお母様も必死。だって…企みが露呈したら一族郎党処刑されるのよ?それを欲望とは言え己の感情に従って突き進めるなんて凄いわ。だけどね…このままだと処刑される。だって関係を持ってないのでしょう?王族に対しての嘘は重罪。嘘を本当にする事は出来ないけれど今なら処刑を食い止める事は出来る。違うかしら?」

「それでも無理!」シルヴァモンドはエルレアに対しての思いが嫌悪になっていてとても受け入れられないと首を振った。

「でもね、エルレア様やお母様。貴方は何時だって突き放す事は出来たはず。その場で斬り殺したって貴方が何を言われる事もないのよ?でも貴方は何もしなかった」

「当たり前だ。あんな奴らは剣の錆にする価値もない」

「剣の錆にするほどの価値もないと何もしなかった。でもね?それは肯定なの。見て見ぬ振りは簡単だけどその責任は一生ついて回るの。何もしなかったって責任がね」

「何と言われても愛してもいないのに結婚なんかできるはずがない」

「あら?したじゃない。噂にどうこうとか言ってたけれどわたくしと結婚したでしょう?自分の中に前例があるのに否定するの?こっちは良くてあっちはダメ。随分と都合の宜しい事で」


シルヴァモンドはもう反論できなかった。
反論する術をミネルヴァーナが尽く潰してしまったからである。

「1つ教えてあげる」
「何をだ?」
「生きていれば過去を振り返りたらればは付き物。でも過去には戻れないの。未来に歩くしかないの」
「・・・・」
「だから人は足を蹴り上げるように前に歩くのよ」


ミネルヴァーナが新しい家に引っ越しをした時、シルヴァモンドはもう来ることは無くなった。

風の噂でエルレアを娶った事を聞いた日。
ミネルヴァーナは、かの日の確約書を丸めてスープを温める竈に放り込んだ。



Fin

★~★

あれ?番外編の方が本編ラストに近いぞ???
って事完結後になりましたが繰り上げました<(_ _)>

読んで頂きありがとうございました<(_ _)>

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