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第01話 婚約破棄宣言
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「パドマ。今日この場で貴様との婚約、破棄する事を第1王子トリスタンの名に於いてここに宣言するッ!」
ざわっと周囲がどよめく。
人が多く集まっているこの場は、学園の入学式である。
両親の世代に大バズリした「卒業パーティーで婚約破棄」から始まる歌劇に似てはいるが、卒業パーティではなく入学式だ。
学園の講師たちが「保護者会の役員が決まらないと帰れませんよー!」と声を張り上げている中で起こった珍事。
婚約破棄宣言を言い出したのはスレイト王国の第1王子トリスタン。
パドマはダーズ伯爵家の娘でトリスタンとは6年前に婚約をした。
トリスタンが選んだわけでもなく、パドマが「王子様が良いの!」なんて望んだ訳でも無い。
出生順が1番目というだけの第1王子トリスタンは正妃の子ではない。
長く子に恵まれなかった国王夫妻。議会が3人の側妃を召し上げることを可決したのが21年前。
その側妃の1人がトリスタンの母親だ。
ちなみにトリスタンを筆頭に同じ年に王子が3人、王女が1人生まれた。
第1王子トリスタン(側妃腹)が生まれた3週間後に正妃が第2王子、更に2週間後側妃が第3王女。最後に2か月離れて側妃が第4王子を生んでいる。
4人の中でトリスタンの出来だけがずば抜けて…悪い。
運動もトリスタンは何をやらせてもダメ。
19歳となった今も、食事中にカチャカチャとカトラリーが皿との間に音を奏でるのはトリスタンだけだが、出生順が1番なので次代の国王になると信じて疑わないトリスタンの母である側妃は激甘対応。
臣下にしてみれば迷惑な事だ。
トリスタンが抜きんでている事と言えば「諦めのはやさ」これに尽きる。
あぁ、あとは「新しいもの好き」という事だろうか。
そんなトリスタンなのでどの家も婚約者に娘を差し出そうなんて微塵も思わなかったため候補者がいない。高位貴族は軒並みそっぽを向く。
王都住まいの貴族には全く相手にされず、仕方なく全土に対象を広げ唯一の制限が「爵位がある事」となってくじ引きで選ばれたのがパドマだったのだ。
当時パドマは、いやダーズ伯爵家は王都に屋敷を持たず辺鄙な田舎の領地住まい。
トリスタンの婚約者となった事で王都に屋敷を借りて移住する羽目になった。
領地は遠いため管理で残った兄2人。年に1度収穫などの報告で兄は交代で王都にやって来る時に顔を見るだけ。仲良し家族は別居生活を強いられることになった。
ダーズ伯爵家は出来るだけ利益は領民に還元したい家なので王都に屋敷を借りる、それだけで「損した」気分なのに、トリスタンの宮の維持費を一部補填もせねばならずまさに「貧乏くじを引いた」状態だったのだ。
で、今日の学園入学式だ。
国の東西南北、そして王都には合計5つの王立学園があるのだが、入学式や卒業式など式典には王立なので王族が祝辞を述べるのが慣例となっている。
トリスタンが「田舎には行きたくない」と我儘を言い出した。
そんなの公務だから我儘が通るはずもないけれど、癇癪を起すと使用人や物に当たり散らす。
黙らせるのには「はいはい」としておくのが無難だと南北西には王子と王女、東には王弟が出向いた。こんな日に限って国王夫妻は隣国の王太子夫妻が表敬訪問をしているので相手をせねばならず城から出られない。
王都の入学式は一番盛大で人数も多い。
そんな場所で祝辞を述べるのは無難に終えたのに、最後の最後でヤラカシた。
「パドマ、お前の非道な振る舞いは看過できない。そんな女が王妃となり俺の隣に立つなど許されないのだ!」
――えぇっと…なんて言えば良い?――
こんな息継ぎも要らない言葉の中で突っ込みどころがある方が看過できない気がする。
なにより、この場は祝いの場だ。
保護者として参加している貴族たちがざわめくのにはただ「王子が婚約破棄宣言」という意味だけではない。
「うちの子が次に選ばれたらどうしよう!?」不安の方が大きいだろう。
――参ったなぁ。もうどうして面倒事を起こすかなぁ――
迷ったけれどここはパドマがトリスタンを止めるしか方法はなさそうだ。
「殿下、お話は城に戻ってから伺います。この場でのご発言はお控えくださいませ」
「ふんっ。聞かれては困るからだろう。悪党は自分の罪が公にされる事を嫌うからな」
――ちょっと何に酔いしれているのか判らないわね――
そしてトリスタンは事もあろうか、保護者席に向かって声を掛けた。
「メイリーン!ここへ!」
ざわっ。
保護者席はまたもやどよめく。
入学式は保護者だけでなく祖父母であったり兄弟姉妹も年齢制限はあるものの参加しても良いので「誰かのお姉さんかな?」と周囲に思われていたメイリーンは…。
――はぁぁ。頭、痛っ――
事もあろうか、保護者席のど真ん中に居座っていたようで保護者席の保護者達がモーゼの十戒で海が割れるように道を作ると花道が如く駆けてきた。
ざわっと周囲がどよめく。
人が多く集まっているこの場は、学園の入学式である。
両親の世代に大バズリした「卒業パーティーで婚約破棄」から始まる歌劇に似てはいるが、卒業パーティではなく入学式だ。
学園の講師たちが「保護者会の役員が決まらないと帰れませんよー!」と声を張り上げている中で起こった珍事。
婚約破棄宣言を言い出したのはスレイト王国の第1王子トリスタン。
パドマはダーズ伯爵家の娘でトリスタンとは6年前に婚約をした。
トリスタンが選んだわけでもなく、パドマが「王子様が良いの!」なんて望んだ訳でも無い。
出生順が1番目というだけの第1王子トリスタンは正妃の子ではない。
長く子に恵まれなかった国王夫妻。議会が3人の側妃を召し上げることを可決したのが21年前。
その側妃の1人がトリスタンの母親だ。
ちなみにトリスタンを筆頭に同じ年に王子が3人、王女が1人生まれた。
第1王子トリスタン(側妃腹)が生まれた3週間後に正妃が第2王子、更に2週間後側妃が第3王女。最後に2か月離れて側妃が第4王子を生んでいる。
4人の中でトリスタンの出来だけがずば抜けて…悪い。
運動もトリスタンは何をやらせてもダメ。
19歳となった今も、食事中にカチャカチャとカトラリーが皿との間に音を奏でるのはトリスタンだけだが、出生順が1番なので次代の国王になると信じて疑わないトリスタンの母である側妃は激甘対応。
臣下にしてみれば迷惑な事だ。
トリスタンが抜きんでている事と言えば「諦めのはやさ」これに尽きる。
あぁ、あとは「新しいもの好き」という事だろうか。
そんなトリスタンなのでどの家も婚約者に娘を差し出そうなんて微塵も思わなかったため候補者がいない。高位貴族は軒並みそっぽを向く。
王都住まいの貴族には全く相手にされず、仕方なく全土に対象を広げ唯一の制限が「爵位がある事」となってくじ引きで選ばれたのがパドマだったのだ。
当時パドマは、いやダーズ伯爵家は王都に屋敷を持たず辺鄙な田舎の領地住まい。
トリスタンの婚約者となった事で王都に屋敷を借りて移住する羽目になった。
領地は遠いため管理で残った兄2人。年に1度収穫などの報告で兄は交代で王都にやって来る時に顔を見るだけ。仲良し家族は別居生活を強いられることになった。
ダーズ伯爵家は出来るだけ利益は領民に還元したい家なので王都に屋敷を借りる、それだけで「損した」気分なのに、トリスタンの宮の維持費を一部補填もせねばならずまさに「貧乏くじを引いた」状態だったのだ。
で、今日の学園入学式だ。
国の東西南北、そして王都には合計5つの王立学園があるのだが、入学式や卒業式など式典には王立なので王族が祝辞を述べるのが慣例となっている。
トリスタンが「田舎には行きたくない」と我儘を言い出した。
そんなの公務だから我儘が通るはずもないけれど、癇癪を起すと使用人や物に当たり散らす。
黙らせるのには「はいはい」としておくのが無難だと南北西には王子と王女、東には王弟が出向いた。こんな日に限って国王夫妻は隣国の王太子夫妻が表敬訪問をしているので相手をせねばならず城から出られない。
王都の入学式は一番盛大で人数も多い。
そんな場所で祝辞を述べるのは無難に終えたのに、最後の最後でヤラカシた。
「パドマ、お前の非道な振る舞いは看過できない。そんな女が王妃となり俺の隣に立つなど許されないのだ!」
――えぇっと…なんて言えば良い?――
こんな息継ぎも要らない言葉の中で突っ込みどころがある方が看過できない気がする。
なにより、この場は祝いの場だ。
保護者として参加している貴族たちがざわめくのにはただ「王子が婚約破棄宣言」という意味だけではない。
「うちの子が次に選ばれたらどうしよう!?」不安の方が大きいだろう。
――参ったなぁ。もうどうして面倒事を起こすかなぁ――
迷ったけれどここはパドマがトリスタンを止めるしか方法はなさそうだ。
「殿下、お話は城に戻ってから伺います。この場でのご発言はお控えくださいませ」
「ふんっ。聞かれては困るからだろう。悪党は自分の罪が公にされる事を嫌うからな」
――ちょっと何に酔いしれているのか判らないわね――
そしてトリスタンは事もあろうか、保護者席に向かって声を掛けた。
「メイリーン!ここへ!」
ざわっ。
保護者席はまたもやどよめく。
入学式は保護者だけでなく祖父母であったり兄弟姉妹も年齢制限はあるものの参加しても良いので「誰かのお姉さんかな?」と周囲に思われていたメイリーンは…。
――はぁぁ。頭、痛っ――
事もあろうか、保護者席のど真ん中に居座っていたようで保護者席の保護者達がモーゼの十戒で海が割れるように道を作ると花道が如く駆けてきた。
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