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第42話 人を雇うには
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翌日、クラークの元に先代辺境伯夫妻に許可をもらったことを伝えに行ったのだが「来てほしいところがある」と言うのでタイタンと共に言われるがままついていくとそこはアルベルティナ専用の工房だった。
「どうだ?広いだろう。以前は織物工房だったんだが立地もいいし使って欲しいと思ってね」
「わぁ凄い。織機を退かしたらこんなに広いスペースになるんですね」
「床も壁も天井も内装は工事をしているんだ。あとは好きなように使ってくれればいい」
「ありがとうクラークさん!!では早速ですけどぉ??」
アルベルティナはクラークに大げさなゼスチャーで抱き着いて上目使いになり、目をぱちぱちさせた。
「実は…」
「なんだね?」
「ここで働いてもらう人を募集したいんです」
「従業員か、よし分かった。当面は店の従業員をまわし――」
「ダーメダメダメ!!ちゃんと専用の従業員を雇わないと!そうね…兵士さんの奥さんはどうかしら」
「兵士の?そりゃいるにはいるがケガをしたりすると退役をするからこの地には残ってくれないよ?入れ替わりも激しいし」
「いいのよ。それで。何時ケガをして兵士の仕事を失うか解らない。覚悟を持って結婚をしているからきっと雇っている間は真面目に働いてくれるわ」
――ほぅ。この娘。やっぱり面白いぞ――
長く辺境の地で商売をしているクラークも人手不足で猫の手も借りたいくらいに忙しい時期があった。しかしそんな時期でも夫が兵士として辺境の地に赴いている妻や子供は雇うのに躊躇った。
2,3日の短期なら仕事を頼むことはあっても、1カ月、2カ月、それ以上となると何時辞めますと言われるかわからず、仕事の引継ぎばかりになってしまう可能性もあったからである。
辺境の兵士の給料は王都で騎士をするよりも破格に良いので、働かなくても大丈夫でしょう?と思う気持ちもあったかもしれない。
「本気で兵士の妻を?」
「えぇ。確かに兵士の給料は他から比べると破格なんですけど、それって…働けなくなることも加味しての金額です。仮に~‥‥そうですね、25歳で3年目にケガをしたとしましょう。戦闘の激しさから考えると四肢のいずれかを失っている可能性が高いです。つまり…28歳以降は兵士としては働けないし、治療費は必要なのに収入はゼロ。もしもに備えたいと思う夫人なら日銭であっても稼ぐ術があるなら働くと思うんです。他がだらけているというつもりはありませんよ?」
「本当に…言われてみればその通りだ。長く慣習に浸ると目も曇ってしまうものだな。よし。隊舎に募集のチラシを張り出そう。何人いればいい?」
アルベルティナはにこりと笑って「何人でも」と答えたが直ぐに「だけど」と条件を出した。
応募に応えてくれる人を全員雇っていたら人件費で利益が圧迫されてしまう。
「支払う給料に見合う働きが出来るか。試験をするのよ」
「試験?でも平民の出だと文字の読み書きはハンデになる。低位貴族出身なら多少は出来るだろうが」
「要はやる気です。教えて貰ってないので出来ませんって人材は要らないんです。特に要らない人材は縁故ですね。その他に同業からの転職は退職の理由を本人以外からも聞き取りをしてください」
ズバリと言い退けたアルベルティナも本当は働いてくれるのなら雇いたいのだが、ケーニス伯爵家にいた使用人のように力の優劣が判ると手のひらを返したように鼻で笑い、顎で人を使う人間だっている。
幼いころから彼らを観察し、嵌められた事もあるけれど気が付いたことがある。
そういう使用人は指示をされないと動けないということ。
そして指示された事が出来るかと言えば出来ずに終わるか、雑に終わる事が多い。
縁故採用も全てが悪い訳ではないけれど、何故か自分は上に立つと勘違いをして他人の手柄を横取りしたりする者が多い。これもケーニス家で何人も見た。
同業種に就職をするのもやり方を知っているので即戦力で使えるだろうが、体が覚えているやり方で行ってしまうので、指示に従ってくれずワンマンで突っ走ってしまう事もある。
それに周囲に「私は●●家で働いていた」と何故か功績のように語る使用人もケーニス家にいたのだ。
本当に必要とされていたら辞めると言った時に強い引き留めに会う。
貴族の家で働くというのはそれなりに信用と信頼も必要なのにそこへ数か月で渡り歩く使用人に信用も信頼も置けるものではない。
「解った。では選考の基準を明後日でも話し合おう。色々と案を考えておくよ」
「お願いしますね。私も考えてみます」
クラークとの話が終わり、外に出たアルベルティナは「そろそろ昼だ」とタイタンに言われ、近くの食堂で昼食を取るために向かった。
「どうだ?広いだろう。以前は織物工房だったんだが立地もいいし使って欲しいと思ってね」
「わぁ凄い。織機を退かしたらこんなに広いスペースになるんですね」
「床も壁も天井も内装は工事をしているんだ。あとは好きなように使ってくれればいい」
「ありがとうクラークさん!!では早速ですけどぉ??」
アルベルティナはクラークに大げさなゼスチャーで抱き着いて上目使いになり、目をぱちぱちさせた。
「実は…」
「なんだね?」
「ここで働いてもらう人を募集したいんです」
「従業員か、よし分かった。当面は店の従業員をまわし――」
「ダーメダメダメ!!ちゃんと専用の従業員を雇わないと!そうね…兵士さんの奥さんはどうかしら」
「兵士の?そりゃいるにはいるがケガをしたりすると退役をするからこの地には残ってくれないよ?入れ替わりも激しいし」
「いいのよ。それで。何時ケガをして兵士の仕事を失うか解らない。覚悟を持って結婚をしているからきっと雇っている間は真面目に働いてくれるわ」
――ほぅ。この娘。やっぱり面白いぞ――
長く辺境の地で商売をしているクラークも人手不足で猫の手も借りたいくらいに忙しい時期があった。しかしそんな時期でも夫が兵士として辺境の地に赴いている妻や子供は雇うのに躊躇った。
2,3日の短期なら仕事を頼むことはあっても、1カ月、2カ月、それ以上となると何時辞めますと言われるかわからず、仕事の引継ぎばかりになってしまう可能性もあったからである。
辺境の兵士の給料は王都で騎士をするよりも破格に良いので、働かなくても大丈夫でしょう?と思う気持ちもあったかもしれない。
「本気で兵士の妻を?」
「えぇ。確かに兵士の給料は他から比べると破格なんですけど、それって…働けなくなることも加味しての金額です。仮に~‥‥そうですね、25歳で3年目にケガをしたとしましょう。戦闘の激しさから考えると四肢のいずれかを失っている可能性が高いです。つまり…28歳以降は兵士としては働けないし、治療費は必要なのに収入はゼロ。もしもに備えたいと思う夫人なら日銭であっても稼ぐ術があるなら働くと思うんです。他がだらけているというつもりはありませんよ?」
「本当に…言われてみればその通りだ。長く慣習に浸ると目も曇ってしまうものだな。よし。隊舎に募集のチラシを張り出そう。何人いればいい?」
アルベルティナはにこりと笑って「何人でも」と答えたが直ぐに「だけど」と条件を出した。
応募に応えてくれる人を全員雇っていたら人件費で利益が圧迫されてしまう。
「支払う給料に見合う働きが出来るか。試験をするのよ」
「試験?でも平民の出だと文字の読み書きはハンデになる。低位貴族出身なら多少は出来るだろうが」
「要はやる気です。教えて貰ってないので出来ませんって人材は要らないんです。特に要らない人材は縁故ですね。その他に同業からの転職は退職の理由を本人以外からも聞き取りをしてください」
ズバリと言い退けたアルベルティナも本当は働いてくれるのなら雇いたいのだが、ケーニス伯爵家にいた使用人のように力の優劣が判ると手のひらを返したように鼻で笑い、顎で人を使う人間だっている。
幼いころから彼らを観察し、嵌められた事もあるけれど気が付いたことがある。
そういう使用人は指示をされないと動けないということ。
そして指示された事が出来るかと言えば出来ずに終わるか、雑に終わる事が多い。
縁故採用も全てが悪い訳ではないけれど、何故か自分は上に立つと勘違いをして他人の手柄を横取りしたりする者が多い。これもケーニス家で何人も見た。
同業種に就職をするのもやり方を知っているので即戦力で使えるだろうが、体が覚えているやり方で行ってしまうので、指示に従ってくれずワンマンで突っ走ってしまう事もある。
それに周囲に「私は●●家で働いていた」と何故か功績のように語る使用人もケーニス家にいたのだ。
本当に必要とされていたら辞めると言った時に強い引き留めに会う。
貴族の家で働くというのはそれなりに信用と信頼も必要なのにそこへ数か月で渡り歩く使用人に信用も信頼も置けるものではない。
「解った。では選考の基準を明後日でも話し合おう。色々と案を考えておくよ」
「お願いしますね。私も考えてみます」
クラークとの話が終わり、外に出たアルベルティナは「そろそろ昼だ」とタイタンに言われ、近くの食堂で昼食を取るために向かった。
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