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第71話 企業秘密と言いながら
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ポリポリポリ、シャクッシャク。
「おいひぃ♡癖になるぅ。タイタンさん、もしかして料理の才能開花?!」
「ベルが美味しいならそれでいい。でも食い過ぎるなよ」
「食べ過ぎはないけど、限界を試したくなる味だわぁ」
辺境に来て4カ月。工房に引っ越しをしてもうすぐ2か月になろうという頃。
従業員が差し入れやお裾分けを持ってきてくれる。
今回は…。
「庭でジャガイモが沢山だよ!こんなに大きくてホクホクするジャガイモが庭で栽培できるなんて!」
肥料を持ち帰って育てた訳ではない。
従業員たちの家は集合住宅であったり、戸建てであったりといろいろだが家計を節約するために簡単に栽培出来たり、水を入れたカップで新芽が出たりと手間のかからない野菜を育てている人が多いのだ。
自宅に庭がない人も近所の水場の近くには共同菜園があったりで自給自足でやりくりする家もある。
肥料を持ち帰ってもいいよとは声掛けしているけれど、売れば給料に反映されるとあって持ち帰りはいないのに植物が良く育つのは、作業着を洗濯する場が近くにあってごしごしと洗った水が毎日少量流れ込む事で成長スピードが上がってしまった。
どうやら川の魚にも影響している様で、最近は大きめで身もしっかりとした川魚が魚屋の店頭に並ぶようになった。クラークのビガー商会では川の生態を研究する部署を設置して魚が大きくなる理由を研究し始めた。
推測では魚に直接影響しているのではなく、魚が食べるプランクトンとなどが川藻などの成長が促進されて栄養満点になっているのではないかと思われている。
「どうりでグレイスとサンダーが太る訳だわ」
「そのうち特大サイズのドブネズミとか走りそうだな」
「ギャッ!!そんな怖い事言わないで。特大チャバーネとか怖すぎるわ」
「ハハハ。飛距離が50mは行きそうだな」
「やめてってば!あいつはね、目が合うと飛ぶのよ」
虫は嫌いではないけれど、ゴキブ●だけはアルベルティナも敵と認定をしている。
「絶滅させるような魔法でも作ってみようかな」
「魔法を作る?そんな事も出来るのか?」
「大袈裟ね。複合させるだけよ」
「複合?って事は2つを同時展開させるのか?」
「ふふふ。企業秘密だけどやってみましょうか?」
水槽とムクロジの実を手にしたアルベルティナは企業秘密と言いながら休憩中の従業員が集まっている場に行って「レクリエーションよ!」と奇妙な事を始めた。
水槽に水を入れるとムクロジの実を必死に泡立てて親指と人差し指でマルを作り「ふぅ~」
シャボン玉が出来た。
「行くわよぉ」
アルベルティナが指先をクイっと動かすとシャボン玉がフっと消えたかと思ったら水の中に入った。
「ここからよ」
パチンと指を弾くと蝋燭の先端で揺れる炎くらいの大きさの火がポンと出てまた指を動かすと…。
「おぉぉ~。シャボン玉の中に火が入ったぞ」
「水の中にあるのに火が消えてない!」
「へへぇん。面白いでしょう?」
<< うんうん! >>
タイタンは水槽に張り付いて「どうなってるんだ?!」と問う。
「簡単よ。シャボン玉は通常直ぐに弾けちゃうから形状温存魔法を使って割れないようにするの。その時、実は!にゃニャーン!すっごく見えにくいけど空気の供給ストローが刺さってるのよ」
「空気のストロー?!」
「そう。形成魔法と、うーん、なんだっけ。まぁいいわ。視界不良魔法を使って空気をギュッと集めて筒にしてシャボン玉に突き刺すの。そうしないと火は消えちゃうし、ストローが見えたら興ざめでしょ?」
<< おぉ~ >>
「で、水槽にシャボン玉を移すのと、シャボン玉の中に火を移すのは空間転移魔法。浮いて来るシャボン玉を一定の場所から動かないように制御魔法を使ってるのよ」
タイタンは水槽から顔を離した。
「もしかして同時に5つ?!」
「違うわ。4つ…あ、空間転移させる時は5つになるかな」
「待て。ベル・・・あれこれと展開させながら部分的に終える魔法もあるって事か?」
「そうよ?空間転移は1回で良いじゃない」
どこでこんな事を思いついたのかと言えばやはり原動力は欲望だ。
お使いの帰り、アルベルティナは八百屋の女将にふかし芋を貰った。
ふかし芋は出来たてでアツアツ。とても手には持って行けない。
なので紙袋に入れて貰ったのだが、熱で湿気てしまってべちゃべちゃになる。
家に急いで帰ってきても小屋の中に放り投げねばならないのでべちゃっと潰れてしまう。見つかると盗んだと言って取り上げられるからである。
美味しい時に美味しく食べたい!!を実現しよう。アルベルティナの欲望である。
「さぁ、あなたなぁら、どぉするぅ?」
「・・・・」
「あ、あれ?どうしたの?皆、ふかし芋冷えたら食べる派?」
温かい時に食べるのが良いに決まっている。従業員の総意だ。
何故か使用人のおばちゃんが「ティナ。いい子ね」と抱きしめてくれた。
――あれ?私、変な事いったかな?――
説明をしようとした時、水の中のシャボン玉が弾けて水に溶けた。
アルベルティナには涙をハンカチに吸わせる従業員の行動の意味が分からなかった。
「やだぁ。シャボン玉また作ってあげるわよぅ」
<< そうじゃない! >>
「おいひぃ♡癖になるぅ。タイタンさん、もしかして料理の才能開花?!」
「ベルが美味しいならそれでいい。でも食い過ぎるなよ」
「食べ過ぎはないけど、限界を試したくなる味だわぁ」
辺境に来て4カ月。工房に引っ越しをしてもうすぐ2か月になろうという頃。
従業員が差し入れやお裾分けを持ってきてくれる。
今回は…。
「庭でジャガイモが沢山だよ!こんなに大きくてホクホクするジャガイモが庭で栽培できるなんて!」
肥料を持ち帰って育てた訳ではない。
従業員たちの家は集合住宅であったり、戸建てであったりといろいろだが家計を節約するために簡単に栽培出来たり、水を入れたカップで新芽が出たりと手間のかからない野菜を育てている人が多いのだ。
自宅に庭がない人も近所の水場の近くには共同菜園があったりで自給自足でやりくりする家もある。
肥料を持ち帰ってもいいよとは声掛けしているけれど、売れば給料に反映されるとあって持ち帰りはいないのに植物が良く育つのは、作業着を洗濯する場が近くにあってごしごしと洗った水が毎日少量流れ込む事で成長スピードが上がってしまった。
どうやら川の魚にも影響している様で、最近は大きめで身もしっかりとした川魚が魚屋の店頭に並ぶようになった。クラークのビガー商会では川の生態を研究する部署を設置して魚が大きくなる理由を研究し始めた。
推測では魚に直接影響しているのではなく、魚が食べるプランクトンとなどが川藻などの成長が促進されて栄養満点になっているのではないかと思われている。
「どうりでグレイスとサンダーが太る訳だわ」
「そのうち特大サイズのドブネズミとか走りそうだな」
「ギャッ!!そんな怖い事言わないで。特大チャバーネとか怖すぎるわ」
「ハハハ。飛距離が50mは行きそうだな」
「やめてってば!あいつはね、目が合うと飛ぶのよ」
虫は嫌いではないけれど、ゴキブ●だけはアルベルティナも敵と認定をしている。
「絶滅させるような魔法でも作ってみようかな」
「魔法を作る?そんな事も出来るのか?」
「大袈裟ね。複合させるだけよ」
「複合?って事は2つを同時展開させるのか?」
「ふふふ。企業秘密だけどやってみましょうか?」
水槽とムクロジの実を手にしたアルベルティナは企業秘密と言いながら休憩中の従業員が集まっている場に行って「レクリエーションよ!」と奇妙な事を始めた。
水槽に水を入れるとムクロジの実を必死に泡立てて親指と人差し指でマルを作り「ふぅ~」
シャボン玉が出来た。
「行くわよぉ」
アルベルティナが指先をクイっと動かすとシャボン玉がフっと消えたかと思ったら水の中に入った。
「ここからよ」
パチンと指を弾くと蝋燭の先端で揺れる炎くらいの大きさの火がポンと出てまた指を動かすと…。
「おぉぉ~。シャボン玉の中に火が入ったぞ」
「水の中にあるのに火が消えてない!」
「へへぇん。面白いでしょう?」
<< うんうん! >>
タイタンは水槽に張り付いて「どうなってるんだ?!」と問う。
「簡単よ。シャボン玉は通常直ぐに弾けちゃうから形状温存魔法を使って割れないようにするの。その時、実は!にゃニャーン!すっごく見えにくいけど空気の供給ストローが刺さってるのよ」
「空気のストロー?!」
「そう。形成魔法と、うーん、なんだっけ。まぁいいわ。視界不良魔法を使って空気をギュッと集めて筒にしてシャボン玉に突き刺すの。そうしないと火は消えちゃうし、ストローが見えたら興ざめでしょ?」
<< おぉ~ >>
「で、水槽にシャボン玉を移すのと、シャボン玉の中に火を移すのは空間転移魔法。浮いて来るシャボン玉を一定の場所から動かないように制御魔法を使ってるのよ」
タイタンは水槽から顔を離した。
「もしかして同時に5つ?!」
「違うわ。4つ…あ、空間転移させる時は5つになるかな」
「待て。ベル・・・あれこれと展開させながら部分的に終える魔法もあるって事か?」
「そうよ?空間転移は1回で良いじゃない」
どこでこんな事を思いついたのかと言えばやはり原動力は欲望だ。
お使いの帰り、アルベルティナは八百屋の女将にふかし芋を貰った。
ふかし芋は出来たてでアツアツ。とても手には持って行けない。
なので紙袋に入れて貰ったのだが、熱で湿気てしまってべちゃべちゃになる。
家に急いで帰ってきても小屋の中に放り投げねばならないのでべちゃっと潰れてしまう。見つかると盗んだと言って取り上げられるからである。
美味しい時に美味しく食べたい!!を実現しよう。アルベルティナの欲望である。
「さぁ、あなたなぁら、どぉするぅ?」
「・・・・」
「あ、あれ?どうしたの?皆、ふかし芋冷えたら食べる派?」
温かい時に食べるのが良いに決まっている。従業員の総意だ。
何故か使用人のおばちゃんが「ティナ。いい子ね」と抱きしめてくれた。
――あれ?私、変な事いったかな?――
説明をしようとした時、水の中のシャボン玉が弾けて水に溶けた。
アルベルティナには涙をハンカチに吸わせる従業員の行動の意味が分からなかった。
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