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第82話 聞いてみる?
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王太子妃は椅子に腰かけたままで従者に椅子ごと持ち上げられて運ばれてきた。
「おかしいなぁ。水分補給はさせてたはずなのに」
「だよなぁ。なんで真っ赤に日焼けしてるんだ?」
「あ、日焼け!そっちは忘れてたわ。でも妃殿下だしUVカットなファンデーションンとか使ってるはずなのに。もしかして究極の美白を求めて鉛入りの白粉?」
「そ、そうよ、悪い?」
「悪いですよ~。知らないんですか?鉛中毒になりますよ?その時だけオバケみたいな白塗りで、数年後には鉛疝痛って言ってめっちゃお腹痛くなったり、手足が震えてしまったりとか。いい事なんて1つもない…あ、白くなったって塗った時だけの満足感だけですよ。私は命削ってまでしたくないわぁ」
王太子妃も知っていた。
知っていたけれど白粉以上に肌を白く見せる化粧品が無かったので使い続けていた。
「負けたわ」
「へ?勝負してましたっけ?」
「ふふふっ。あははっ。貴女には勝負にすら思われてないなんて…最初から勝ち目なんて無かったって事だわ。鉛疝痛なんてよく知ってたわね」
「図書館の本にありましたから。さて。実はですね、王都に来たのは――」
「ケーニス家であろう?好きにするが良い」
「は?何を仰ってます?言いましたよね?関係ないって。まだ信じて頂けてないなら貴族院で確認してください。そんなどうでもいい事で大事な事業もあるのにこんなところまで来ませんよ」
王太子はアルベルティナが辺境伯やクラークと一緒に来たのはケーニス伯爵家を救うためだと本当に思っていた。刑の執行を止めないと敢えて強気に出る事で気を引き、恩赦を願うのだろうと思っていたのだ。
「本当にケーニス家の事ではないのか」
「違いますよ。妃殿下は弟妹と結婚をした相手の家の向かいに住んでいる人が2日前の午前中にすれ違った人が困っていると聞いて助けます?」
全員が思った。
【本気の他人やないかい!】
「ケーニス家はそなたにとってその程度だと?」
「そうですよ?もし結婚したんですって言われたら、疑問符付きでおめでとうって言いますし、亡くなったと聞いたら、そりゃご愁傷様と気持ちは込められないですけど言葉は返します。ご祝儀とか香典とか言われたら…通報しますよ?」
「では何のために」
そこからは辺境伯が前に出た。
「停戦でも休戦でもなく、砂地の国とは終戦と発表下さい。これまでに命を落とした兵士の家族にはブランシル辺境伯家が補償をします。その代わりどちらが勝った、負けたではないので領土のやり取りであったり国同士の戦後補償は無しで」
「どうせその事は砂地の国の王家とも話を詰めての事であろう?」
「お察しの通り。後は妃殿下が認めて頂ければ」
「王太子や国王ではなく?」
「残念ですが、貴女を制御できないのですから王家に存在意義があるとは思えません」
「ハッ。見世物になれと?」
「何も決められない王家、兄の子飼いの妃。見世物で十分でしょう。替えは幾らでもいるんですから」
「私を処刑すればお兄様が黙っていないわ!」
見世物とは公開処刑の事。王太子妃は椅子からまだ立ち上がれない状態がどういうことなのかをすっかり忘れて辺境伯に嚙みついた。
「聞いてみますか?」
静かに問う辺境伯に王太子妃はアルベルティナを見た。
「はい。あーん」
「んんん~おいひぃ~。じゃぁ次はこっちのプルーンかな」
「良いぞ。小さい種があるから種は出すんだぞ?」
いちゃついている最中だったので、もう大丈夫だろうと強気に出た。
「聞いてみなさいよ!」
「宜しいですよ。ティナ。皇帝の映像は出せるか?」
「はへはふおふぉっ(じゅる)」
「口の中を空にした後で良い。ゆっくり食べなさい」
口の中に果汁たっぷりのプルーンを3つも放り込んだので喋った拍子に少し果汁が零れてしまいそうになりながら飲み込んだ後、アルベルティナは現在の皇帝の様子を映し出した。
「なっ!!何してるの!お兄様っ!!」
「おまっ見るな!見るなぁ!!」
そこには失禁をした後、綺麗に洗い流し拭き上げをしてもらって、今から下着を着用しようか、そんな皇帝の姿があった。
「やめて!やめて!見ないで‥‥ぎゃっ!!」
兄の恥ずかしい姿を見せまいと宙に浮かんだ映像の前に立ち塞がろうとしたが生憎椅子はまだ尻に張り付いたまま。椅子の背もたれがウナジに直撃し王太子妃は顔から床に落ちた。
着替えを終え、すまし顔をした皇帝が画面に出ると辺境伯は王太子妃の処遇の是非を帝国がどう判断するかを問うた。
「好きにすればいい。何があろうと帝国は関与しない」
「そんな!!お兄様!!」
「兄と呼ぶな。図々しい。呼びたいのなら皇宮の上空にある雷を降らせる物体を何とかしろ!」
王太子妃はバッとアルベルティナを見た。
「消しなさい!皇宮の上にある物体を!」
「なんでです?どうせ妃殿下は処刑されますし、処刑された後で帝国の帝都がどうなろうと関係ないじゃないですか。消したいなら消せばいいんですよ」
「消せるのか?」
「落とせばいいので」
画面の向こうで皇帝が吠えた。
「ダァァーッ!!!ダメダメ!本当に関係ない。終戦でもなんでも貴国が決めた事なら決定を尊重する!他国干渉はしないし今後は対等な国としての付き合いを心掛ける!!その女はその国に嫁いだんだ。仮にこっちに刎ねた首を送って来てもこっちも処分に困るだけで一切!!いぃぃっさい!手出しはしない!約束する!だからアレを消してくれないか」
「だからぁ。落とせば消えるって言ってるじゃないですか。あ、タイタンさん。次はこのベリーね」
皇帝を軽くあしらいながらアルベルティナはタイタンにベリーを食べさせてもらった。
「おかしいなぁ。水分補給はさせてたはずなのに」
「だよなぁ。なんで真っ赤に日焼けしてるんだ?」
「あ、日焼け!そっちは忘れてたわ。でも妃殿下だしUVカットなファンデーションンとか使ってるはずなのに。もしかして究極の美白を求めて鉛入りの白粉?」
「そ、そうよ、悪い?」
「悪いですよ~。知らないんですか?鉛中毒になりますよ?その時だけオバケみたいな白塗りで、数年後には鉛疝痛って言ってめっちゃお腹痛くなったり、手足が震えてしまったりとか。いい事なんて1つもない…あ、白くなったって塗った時だけの満足感だけですよ。私は命削ってまでしたくないわぁ」
王太子妃も知っていた。
知っていたけれど白粉以上に肌を白く見せる化粧品が無かったので使い続けていた。
「負けたわ」
「へ?勝負してましたっけ?」
「ふふふっ。あははっ。貴女には勝負にすら思われてないなんて…最初から勝ち目なんて無かったって事だわ。鉛疝痛なんてよく知ってたわね」
「図書館の本にありましたから。さて。実はですね、王都に来たのは――」
「ケーニス家であろう?好きにするが良い」
「は?何を仰ってます?言いましたよね?関係ないって。まだ信じて頂けてないなら貴族院で確認してください。そんなどうでもいい事で大事な事業もあるのにこんなところまで来ませんよ」
王太子はアルベルティナが辺境伯やクラークと一緒に来たのはケーニス伯爵家を救うためだと本当に思っていた。刑の執行を止めないと敢えて強気に出る事で気を引き、恩赦を願うのだろうと思っていたのだ。
「本当にケーニス家の事ではないのか」
「違いますよ。妃殿下は弟妹と結婚をした相手の家の向かいに住んでいる人が2日前の午前中にすれ違った人が困っていると聞いて助けます?」
全員が思った。
【本気の他人やないかい!】
「ケーニス家はそなたにとってその程度だと?」
「そうですよ?もし結婚したんですって言われたら、疑問符付きでおめでとうって言いますし、亡くなったと聞いたら、そりゃご愁傷様と気持ちは込められないですけど言葉は返します。ご祝儀とか香典とか言われたら…通報しますよ?」
「では何のために」
そこからは辺境伯が前に出た。
「停戦でも休戦でもなく、砂地の国とは終戦と発表下さい。これまでに命を落とした兵士の家族にはブランシル辺境伯家が補償をします。その代わりどちらが勝った、負けたではないので領土のやり取りであったり国同士の戦後補償は無しで」
「どうせその事は砂地の国の王家とも話を詰めての事であろう?」
「お察しの通り。後は妃殿下が認めて頂ければ」
「王太子や国王ではなく?」
「残念ですが、貴女を制御できないのですから王家に存在意義があるとは思えません」
「ハッ。見世物になれと?」
「何も決められない王家、兄の子飼いの妃。見世物で十分でしょう。替えは幾らでもいるんですから」
「私を処刑すればお兄様が黙っていないわ!」
見世物とは公開処刑の事。王太子妃は椅子からまだ立ち上がれない状態がどういうことなのかをすっかり忘れて辺境伯に嚙みついた。
「聞いてみますか?」
静かに問う辺境伯に王太子妃はアルベルティナを見た。
「はい。あーん」
「んんん~おいひぃ~。じゃぁ次はこっちのプルーンかな」
「良いぞ。小さい種があるから種は出すんだぞ?」
いちゃついている最中だったので、もう大丈夫だろうと強気に出た。
「聞いてみなさいよ!」
「宜しいですよ。ティナ。皇帝の映像は出せるか?」
「はへはふおふぉっ(じゅる)」
「口の中を空にした後で良い。ゆっくり食べなさい」
口の中に果汁たっぷりのプルーンを3つも放り込んだので喋った拍子に少し果汁が零れてしまいそうになりながら飲み込んだ後、アルベルティナは現在の皇帝の様子を映し出した。
「なっ!!何してるの!お兄様っ!!」
「おまっ見るな!見るなぁ!!」
そこには失禁をした後、綺麗に洗い流し拭き上げをしてもらって、今から下着を着用しようか、そんな皇帝の姿があった。
「やめて!やめて!見ないで‥‥ぎゃっ!!」
兄の恥ずかしい姿を見せまいと宙に浮かんだ映像の前に立ち塞がろうとしたが生憎椅子はまだ尻に張り付いたまま。椅子の背もたれがウナジに直撃し王太子妃は顔から床に落ちた。
着替えを終え、すまし顔をした皇帝が画面に出ると辺境伯は王太子妃の処遇の是非を帝国がどう判断するかを問うた。
「好きにすればいい。何があろうと帝国は関与しない」
「そんな!!お兄様!!」
「兄と呼ぶな。図々しい。呼びたいのなら皇宮の上空にある雷を降らせる物体を何とかしろ!」
王太子妃はバッとアルベルティナを見た。
「消しなさい!皇宮の上にある物体を!」
「なんでです?どうせ妃殿下は処刑されますし、処刑された後で帝国の帝都がどうなろうと関係ないじゃないですか。消したいなら消せばいいんですよ」
「消せるのか?」
「落とせばいいので」
画面の向こうで皇帝が吠えた。
「ダァァーッ!!!ダメダメ!本当に関係ない。終戦でもなんでも貴国が決めた事なら決定を尊重する!他国干渉はしないし今後は対等な国としての付き合いを心掛ける!!その女はその国に嫁いだんだ。仮にこっちに刎ねた首を送って来てもこっちも処分に困るだけで一切!!いぃぃっさい!手出しはしない!約束する!だからアレを消してくれないか」
「だからぁ。落とせば消えるって言ってるじゃないですか。あ、タイタンさん。次はこのベリーね」
皇帝を軽くあしらいながらアルベルティナはタイタンにベリーを食べさせてもらった。
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