16番目の候補者

cyaru

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第34話  気持ち的な致命傷

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「なんなの。あれ。腹立つわぁ」
ぅっ」

立場はリュシアンのほうが上で、殴られると解っても防御の姿勢を取ることは許されないタイタンは口の中を切ってしまっていた。

アルベルティナはカバンから薬を取り出すと手首の動きも滑らかに何やらクルクルと編むように動かすとタイタンの顎をクイっと掴んで正面を向けた。

――こ、これが噂の顎クイ。俺がされる側なんて――

「痛い?って聞かなくても痛いわよね。口開けて」
「大丈夫だ。こんなの慣れてる」
「開けろと言ってるの」

タイタンの頬、奥歯の辺りにアルベルティナの指が食い込み無理やり口を開けさせられる羞恥。

「は?こんなのこそ、慣れちゃダメでしょうに。仕方ないわ。はい。ちょっと我慢」
「ん?なんだ?」

タイタンが口を開けるとアルベルティナの指が容赦なく頬の内側に侵入してきて傷口に何かを練りつけた。
口の中から鼻に得体の知れない初めて嗅ぐ香りが抜けていく。

「うぁ…マッズ…なんだこれ?」
「ガマの花粉。止血になるから。魔力で溶いたから明日には傷も消えてると思うわ」
「凄いな、そんな事も出来るんだ」
「だって傷口が早く治らないと困るの自分だもの。面倒なのよね。瀕死になると魔力が働くんだけど、足の小指ぶつけたり、扉で指先を挟んじゃったり、ささくれをピッと引っ張ったら余計なところまで広がったり、口内炎があるのに味付けに唐辛子しかなかったり、気持ち的な致命傷には薬しか頼れないんだもの」
「ふはっ。気持ち的致命傷って…解らなくもないけど。夕食は何かテイクアウト出来るものを買っていきましょう」

言葉はキツイ時があるけど優しいんだよな、なぁんて思ったタイタンだったが帰り道で屋台に寄ってみるとマスタードたっぷりのハムサンドや、酢が利き過ぎたマリネ。ちょっと固めのオバケキュウリと見るだけで口の中が痛みで襲われそうなモノしか残っていなかった。

――流石に買わないよな?――

と思ったら…。

「おじさん、2人分だからちょっとオマケして?」

アルベルティナは端数をオマケという値切り交渉のウィナーとなった。



街はずれの家まで帰って来ると、どうも庭が騒がしい。

「ぐわっ!ぐわっ!」
「待ちなさいってば!」
「クワァーックワァーッ!」
「こらぁ!待てぇ!」

グレイスとサンダーの鳴き声と羽音と一緒に女の子の声が聞こえて来た。
タイタンとアルベルティナは顔を向き合わせ、急ぎ声のする方向に向かった。

「何してるの!!」
「クワァクワァーッ!!」
「サンダー!大丈夫?」

サンダーがアルベルティナを見つけて2、3mを飛んで飛びついて来た。

「グワッグワッ!!」

ハッと見れば女の子がグレイスを押さえつけて、グレイスは逃げようと藻掻いていた。

「やめて!グレイスがケガしちゃう!」

女の子の手が離れるとグレイスも羽根をバサバサ振りながらアルベルティナに向かって駆けて来た。

「アヒルさん…行っちゃった。うわぁーん」

グレイスが逃げてしまうと女の子は立ち上がってアルベルティナとタイタンを見て泣き出してしまった。

「どこの子?」
「解らんな。でも…着てる服はかなり上質だ」
「そう言われればそう見えるわね」

放っておくことも出来ず、女の子を先ずは泣き止ませようと優しく抱きしめると「ごめんなさい」と女の子は抱きしめられながら謝罪の言葉を繰り返した。

「どこから来たの?」
「わかんない。あっち」
「あっちかぁ…家の名前は言える?」
「ジューソルク。ぐすっ」

アルベルティナには聞き覚えのない家名だったが、タイタンはどこなのか解ったようだった。
そっと小さな声でアルベルティナの耳に顔を近づけて囁いた。

1日ついたち、16日に訪問の候補者ナンバーの1番目の子だ」
「えぇっ?こんな小さな子なのに?」
「年齢は…一応申請では23歳ってなってたけど…」
「軽く15歳…下手すると20歳サバ読んでるわね」

遠い辺境の地まで来てしまったので、追い返す事も出来なかったのか。それとも「来ましたー」と到着の報告は儒者が行って、そのまま用意をされた屋敷に案内をされたので気が付かなかったのか。

どう見ても泣いている女の子の年齢は3,4歳で、大きくサバを読んでも5歳にしか見えなかった。
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