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15:忘れた頃にやってくるクラたん
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王宮はとても煌びやかな世界。
見ているにはいいけれど、住人にはなりたく御座いません。
入場した瞬間から凍てついたような空気を感じるのは、ヘラヘラと笑っている国王陛下の両隣に王妃殿下と側妃殿下が物言わぬ壮絶なキャットファイトを繰り広げておられるからです。
美貌と才能で選ばれた出自が子爵令嬢の王妃殿下。
財産と父親の権力でその座に収まった元公爵令嬢が側妃殿下。
王妃殿下のお子様である第一王子殿下、側妃様のお子様である第二、第三王子殿下。王女殿下は既に他国に嫁がれ、本日の夜会には大使が代理でご出席で御座います。
居た堪れない家族関係。遠い隣国からわざわざやって来て「巻き込まれたくない」というお気持ちが隣国大使の頬を伝う冷や汗から感じ取る事が出来ます。
第三王子ジュリアス殿下が本日の主役。
アーカンソー公爵家の皆様とご挨拶を致します。ほんの少しバルタザール様を見るジュリアス殿下の表情が柔和なのは気のせいかしら?
「ジュリアス殿下、おめでとうございます」
「バルタザール、よく来てくれた」
肩を叩きながらバルタザール様に何やら耳打ちをされるとバルタザール様の耳がポッと赤くなります。そのまま視線を殿下たちの後ろに向ければオリバーの姿も御座いました。
王族警備のために本来近衛隊は本日全員が警護にあたるのです。
バルタザール様は新米騎士でもありますし、公爵家の用事と言う事で本日は騎士ではないのです。次の家が挨拶の番になり、わたくしはオリバーに小さく手を振りました。
そうしますと、オリバーが指でツンツン。どうやら奥の扉の方に行けと示しております。
「バルタザール様、すこしオリバーと話をしてもよろしくて?」
「オリバー?あぁ…上官か。構わないが迷子にならないように付いて行こうか」
「1人で大丈夫ですわ。バルタザール様はどのあたりにおられるご予定ですの?」
「父上と…そうだな。あの庭への窓が開いているあたりだろうか」
「では、オリバーとの話が終われば向かいますわね」
バルタザール様と別れて、オリバーが指を指した扉まで向かいます。
途中、顔見知りの方々に会釈をしながらなんとか辿り着くとオリバー、少し不機嫌で御座います。
あ、そうでした。
この頃オリバーが推している巡業アイドルグループが崩落事故で迂回路を通ったためこの夜会に間に合わなくなったのです。湯殿で大声で良く歌っておりますから、来られなくなったので機嫌が悪いのでしょう。
「オリバー。下り坂のご令嬢残念だったわね」
「へっ?あぁ…あのグループか。俺はファンじゃないからどうでもいい」
「また強がっちゃって♡」
「姉上、俺が推しているのは王立女学院高等部だ。間違うな」
「無理よ~。20人くらいのグループが幾つもあるから覚えきれないわ」
単に姉弟として話をしておりますが、オリバー狙いのご令嬢たちの鋭い視線が背中の開いた部分に突き刺さるように感じます。出来れば針のようになってツボに刺さってくれるとコリが取れますのに。
「姉上、今日はバルタザールから離れるな。特にダンスが始まったら絶対にだ」
「どうして?バルタザール様と踊りたいというご令嬢もいらっしゃるでしょう?」
「そうじゃない。アイツらが来てるんだよ」
「アイツら?」
「バーレ伯爵家の!もう忘れたのか?」
バーレ…バーレ…。
あぁ!そうでした。そう言えばバーレ伯爵家のフレデリック様もご出席でしょうね。あら?ご出席と言う事はまだクラリシュア様とはご結婚されていないと言う事かしら?
悪阻が治まって安定期に入られてからと言う事かしら?
「姉上の事を探しているらしいと言う噂もある。気を付けたほうが良い」
「わたくしを探す?どうしてかしら?」
長く話をする事は出来ません。オリバーはお勤めの最中でもありますものね。
部下の方に名前を呼ばれたオリバーは「すぐ行く」と返事を返し、わたくしには注意喚起。
もう婚約も無くなっておりますし、両家の間の話も済んでおります。
結婚したのに実家暮らしのわたくし。お父様への聞き込みは忘れておりません。
何か御用でもあるのかしらと思いつつ、バルタザール様がいらっしゃる場所まで移動を開始したのです。
その時で御座いました。
「あ~。いたぁ!フレッドぉ。あそこにいるぅ~!」
ひと際甲高い声が会場に響きます。
何事かと思い、声の主を探すと流石はクラリシュア様
王族の皆様にご挨拶するために設けられた王族よりも2段ほど低い「お立ち台」で会場を見回したのか、わたくしを指差して声をあげられております。
フレデリック様の前にいらっしゃるバーレ伯爵の新旧ご夫妻の顔色がすこぶる悪いのですが、食あたりでしょうか?
更に驚く事は続くのです。
なんどフレデリック様まで王族の皆様に背を向けて、わたくしの名を呼ばれます。
「リーゼロッテ!目印に手を挙げろ!そこを動くな!」
「クラたんが行くまで動いちゃダメなんだからねっ!」
――何?何?どうしてわたくしがホールド・アップを要求されているの?――
貴族とは暇を持て余す生き物でも御座います。
とびきり楽しそうな余興が始まったと見るや否や、口元にサッと扇を装着するご夫人方、グラスを我先に手に取る紳士の皆様。
意図せず、わたくし…舞台に引きずり出された模様。
スポットライトはなく、全照明では御座いますが視線を一手に集めております。
頭の中に鳴り響くお父様の18番、トミー・オウメザワのドリーム芝居。
セリフは1つも覚えておりません…いいえ。そもそも台本がないわ。
だけど!
稽古不足を幕は待たない‥‥本当でしたわ。
見ているにはいいけれど、住人にはなりたく御座いません。
入場した瞬間から凍てついたような空気を感じるのは、ヘラヘラと笑っている国王陛下の両隣に王妃殿下と側妃殿下が物言わぬ壮絶なキャットファイトを繰り広げておられるからです。
美貌と才能で選ばれた出自が子爵令嬢の王妃殿下。
財産と父親の権力でその座に収まった元公爵令嬢が側妃殿下。
王妃殿下のお子様である第一王子殿下、側妃様のお子様である第二、第三王子殿下。王女殿下は既に他国に嫁がれ、本日の夜会には大使が代理でご出席で御座います。
居た堪れない家族関係。遠い隣国からわざわざやって来て「巻き込まれたくない」というお気持ちが隣国大使の頬を伝う冷や汗から感じ取る事が出来ます。
第三王子ジュリアス殿下が本日の主役。
アーカンソー公爵家の皆様とご挨拶を致します。ほんの少しバルタザール様を見るジュリアス殿下の表情が柔和なのは気のせいかしら?
「ジュリアス殿下、おめでとうございます」
「バルタザール、よく来てくれた」
肩を叩きながらバルタザール様に何やら耳打ちをされるとバルタザール様の耳がポッと赤くなります。そのまま視線を殿下たちの後ろに向ければオリバーの姿も御座いました。
王族警備のために本来近衛隊は本日全員が警護にあたるのです。
バルタザール様は新米騎士でもありますし、公爵家の用事と言う事で本日は騎士ではないのです。次の家が挨拶の番になり、わたくしはオリバーに小さく手を振りました。
そうしますと、オリバーが指でツンツン。どうやら奥の扉の方に行けと示しております。
「バルタザール様、すこしオリバーと話をしてもよろしくて?」
「オリバー?あぁ…上官か。構わないが迷子にならないように付いて行こうか」
「1人で大丈夫ですわ。バルタザール様はどのあたりにおられるご予定ですの?」
「父上と…そうだな。あの庭への窓が開いているあたりだろうか」
「では、オリバーとの話が終われば向かいますわね」
バルタザール様と別れて、オリバーが指を指した扉まで向かいます。
途中、顔見知りの方々に会釈をしながらなんとか辿り着くとオリバー、少し不機嫌で御座います。
あ、そうでした。
この頃オリバーが推している巡業アイドルグループが崩落事故で迂回路を通ったためこの夜会に間に合わなくなったのです。湯殿で大声で良く歌っておりますから、来られなくなったので機嫌が悪いのでしょう。
「オリバー。下り坂のご令嬢残念だったわね」
「へっ?あぁ…あのグループか。俺はファンじゃないからどうでもいい」
「また強がっちゃって♡」
「姉上、俺が推しているのは王立女学院高等部だ。間違うな」
「無理よ~。20人くらいのグループが幾つもあるから覚えきれないわ」
単に姉弟として話をしておりますが、オリバー狙いのご令嬢たちの鋭い視線が背中の開いた部分に突き刺さるように感じます。出来れば針のようになってツボに刺さってくれるとコリが取れますのに。
「姉上、今日はバルタザールから離れるな。特にダンスが始まったら絶対にだ」
「どうして?バルタザール様と踊りたいというご令嬢もいらっしゃるでしょう?」
「そうじゃない。アイツらが来てるんだよ」
「アイツら?」
「バーレ伯爵家の!もう忘れたのか?」
バーレ…バーレ…。
あぁ!そうでした。そう言えばバーレ伯爵家のフレデリック様もご出席でしょうね。あら?ご出席と言う事はまだクラリシュア様とはご結婚されていないと言う事かしら?
悪阻が治まって安定期に入られてからと言う事かしら?
「姉上の事を探しているらしいと言う噂もある。気を付けたほうが良い」
「わたくしを探す?どうしてかしら?」
長く話をする事は出来ません。オリバーはお勤めの最中でもありますものね。
部下の方に名前を呼ばれたオリバーは「すぐ行く」と返事を返し、わたくしには注意喚起。
もう婚約も無くなっておりますし、両家の間の話も済んでおります。
結婚したのに実家暮らしのわたくし。お父様への聞き込みは忘れておりません。
何か御用でもあるのかしらと思いつつ、バルタザール様がいらっしゃる場所まで移動を開始したのです。
その時で御座いました。
「あ~。いたぁ!フレッドぉ。あそこにいるぅ~!」
ひと際甲高い声が会場に響きます。
何事かと思い、声の主を探すと流石はクラリシュア様
王族の皆様にご挨拶するために設けられた王族よりも2段ほど低い「お立ち台」で会場を見回したのか、わたくしを指差して声をあげられております。
フレデリック様の前にいらっしゃるバーレ伯爵の新旧ご夫妻の顔色がすこぶる悪いのですが、食あたりでしょうか?
更に驚く事は続くのです。
なんどフレデリック様まで王族の皆様に背を向けて、わたくしの名を呼ばれます。
「リーゼロッテ!目印に手を挙げろ!そこを動くな!」
「クラたんが行くまで動いちゃダメなんだからねっ!」
――何?何?どうしてわたくしがホールド・アップを要求されているの?――
貴族とは暇を持て余す生き物でも御座います。
とびきり楽しそうな余興が始まったと見るや否や、口元にサッと扇を装着するご夫人方、グラスを我先に手に取る紳士の皆様。
意図せず、わたくし…舞台に引きずり出された模様。
スポットライトはなく、全照明では御座いますが視線を一手に集めております。
頭の中に鳴り響くお父様の18番、トミー・オウメザワのドリーム芝居。
セリフは1つも覚えておりません…いいえ。そもそも台本がないわ。
だけど!
稽古不足を幕は待たない‥‥本当でしたわ。
応援ありがとうございます!
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