どうせ離縁できないしとキレた奥様は推し活をすることにした

cyaru

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第18話  1軒目武具店

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「いらっしゃい‥って女の子に売るような武具はないよ」

「店主様でいらっしゃいます?」

「あぁ。店主もしてるが作ったり直しもしてるよ。で?なんだい?」

「武具を一式。3人分作って頂きたいんです」

「は?あんたが着るのかい?無理無理。武具ってのは軽そうに見えても30kgはあるんだ。アンタじゃ立っている事も出来ないよ」

「私ではありません。騎士の方に装備して頂くんです」

「騎士?その2人かい?」

店主はマーガとリーンを指さすが、「違う、違う!」マーガとリーンは手を横にパタパタ振る。

「実際に武具を身に付ける騎士様は採寸もありますから後日連れてきます。今日は出来るか出来ないか。それをお聞きするのと‥申し遅れました。私、こういうものです」

==セレたん!いつの間に?!==

セレナはサッと手のひらサイズの自分の名前が書いたカードを店主に差し出した。
が‥。セレナも想定していない事が起きた。


「俺、字が読めないんだよ」

「あ・・・」


さて、どうしようか。迷ったが字が読めなくても仕事さえしてもらえばいいのだ。
何だってイレギュラーな事はあるものだ。

「コホン。では…これは私の名前が書いております。セレナと申します。お見知りおきを」

「セレナ?どっかで聞いた名前だな‥誰だったかな」


店主はじぃぃっとセレナの顔を見て、天井を見て、俯いて考える。
どこかで聞いた名前、なんとなくセレナの顔も見たことがあるような気がするが思い出せない。

「つい先日まで第1王子ダグラス殿下の婚約者をしておりました。現在は廃業しております」

「あっ!アァーッ!!わっ!わっ!申し訳ございません!アンタなんて言っちまって!!」

店主はびっくりして両手をあげると、その手を降ろすと同時に床に突っ伏した。

――うわぁ。どっちの噂を知ってるのかな。確率で言えば悪女?――

セレナの噂は良い噂がちょっぴりに悪評がてんこ盛り。
悪評だけを知っていれば金を払うと言っても武具は作ってくれない可能性もある。

ドキドキしていると…。

「俺の妹がゲール男爵家に嫁いだんですけど、姪っ子…妹の子供がね、その先にある聖マリアンナ教会で孤児に読み書きを教えてるんですよ。男爵家の娘なんて嫁ぎ先もそうそうないし、仕事もなくて困ってたんですけど教員で雇って貰って。姪っ子から聞いてます。セレナ様がいたから仕事もありつけたし、本なんかも届けてくれるんだって」

「そ、そうでしたの。オホホ」

「セレナ様の頼みだったら幾つでも武具!作りますよ!お代なんか貰えません!」

「いえいえ、それは困るんです」

「知ってます。悪いように言うヤカラもいますよね。うんうん。でも俺は姪っ子を信じる。ちゃんと給金も貰ってるし1年以上勤めてるんだ。セレナ様が散財をするような人だなんて思っちゃいません」

「それはありがたいのですが、発注する仕事にはちゃんと対価を受け取って頂きたいのです。それに、お願いも御座いまして」

「お願い?ヘイッ!なんなりと!何でもします。あ、でも法に触れない範囲でですけど」

「えぇっと…なんなりって言うか…長いお付き合いになると思うので話を聞いてからご判断頂きたくて」


セレナが先ずは自分が武具を買い取るが、売れ行き次第ではあるけれど2、3年を目途にして年に1人でいいので武具を提供してもらいたいと話した。

「へぇ‥面白いですね。確かに騎士って何て言うか一応決まりはあるんですけど、どこかにオリジナリティを出したいのか肩口をこうしてくれ、バイザーの側面にエンボス加工凹凸の加工してくれとか注文してきますよ」


そう言ってまだ店頭には出していないけどと言いながら店の奥から製作中の甲冑の腰巻を持ってきた。

上半身と下半身の継ぎ目を狙っての攻撃に対応するために鋼の板を巻きスカートのようにして巻き付けるのだが、胴着の方にフックがあるので脱着可能だった。

「隣国の騎士でも辺境部隊で流行ってるって言うんで。でもまだ誰も付けてないんですよ」

「それよ!そう言うのが欲しいの!ここでしか買えない!そういうデザインが欲しいの。これ、立体商標を取りましょう」


セレナは食いついた。
なんてすばらしい!そう、こういう世に出ていないものを身に付けることで推しが爆増!
何と言っても巻きスカート風なんて女性騎士には色目を変えるだけでお洒落にも見えるではないか!

ロゴマークなどは商標登録になるが、形状は立体商標登録をする事が出来る。

セレナの気迫に押され気味の店主はあたふたしながら「出来ない」という。


「商標?いやいや。あれは手続きが面倒で。さっきも言ったでしょう?俺は字の読み書きは出来ないんだって」

「代行します!私が代行しますわ!早速ですが今回は代行手数料は頂きません。ですが今後も目新しいデザインは立体商標を取りましょう。どこかの誰かが真似するだけでロイヤリティが入ってきますわ。ねっ!そうしましょう!」

「わ。解りましたよ…セレナ様の頼みですし、代行はお願いしますよ?本当に俺は字は無理だからさ?で…武具一式3着を着る騎士は何時頃?」

「2、3日の内に連れて参ります。先に代金もお支払いしますわ。おいくらでしょう」

「そうだな‥一式っていうか新規で作る騎士も滅多にいないからなぁ。銀貨3枚・・いや5枚でいいかな」

まさかのどんぶり勘定だった。


「ダメです!価格を決めましょう。ちなみに…胴着を直す時はおいくらですの?」

「幾らって言うか…状態見て決めてるからなぁ」

「解りました。お直しも価格を決めましょう。お手伝い致します」

「あ、あぁ…そうしてくれると助かる??のかな??」

「えぇ!お助け致しますわ!」


セレナが武具店を出たのは4時間後。

――やり切ったわ。爽快よ!――

肩にまだ触れないショートボブの髪が風に揺れる。

店主は魂が抜けたかのようにぐったり。
だが祖父から店を引き継ぎ70年。初めて価格表が出来たのだった。
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