どうせ離縁できないしとキレた奥様は推し活をすることにした

cyaru

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第28話  口が滑りました

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「どうしたのです?シャツがびしょ濡れではありませんか」

外套を脱ぎ、上着を執事に預けたフェルナンドに執事は湿り気のある上着を見て、フェルナンドを見ればシャツがびしょ濡れ。

「ちょっと心の中のこの辺がカーっと熱くなってな」

「この辺と言われましても」

「胸の中央部から気持ち左側でどっちかというと背中からの距離が近いかも知れない。背中から奥に5,6cm行った先でだな、第2,いや第3肋間付近か」

「回りくどく言っていますが心臓が熱くなったと言いたいのですか?」

「ハァーッ。そういう事だ」

両手で口元を覆いながらフェルナンドはまた頬を染めたが執事は塩対応。

「臓器の温度を感じる。どこかお悪いのでは?」

「どこも悪くない。いや、悪いのは私だ。言っておくが体調ではないぞ?」

ふふっと鼻で笑った執事は「やっとですか」とフェルナンドのシャツを着がえさせ、茶を勧めた。
そんな執事にフェルナンドは真面目な顔つきになる。

「教えてくれ。私が敢えて聞かなかった事を。全部」

「承知いたしました。主観は交えず先代様から時期が来ればと言付かった事だけをお伝えいたします」

「頼む」


ダグラスとセレナの婚約は当人の意思は全く関係なく結ばれたもの。
婚約者が長くいなかったダグラス可愛さに国王と王妃が当時石炭採掘でそこそこの財を持っていたカルレア伯爵家の投資失敗に目をつけてセレナを婚約者にすることで爵位を保持させた。


「つまり…王家は単なる親の欲、カルレア家は伯爵の私欲か」

「そうです。ですが王家には抜かりが御座いました」

「なんだ?資産があると思われたカルレア家ですが多額の支度金で負債を清算したと思ったのですが、担保に入れた領地の負債は返済をされていませんでした。その結果カルレア家からダグラス殿下の宮を保持するだけの金は引っ張れなかったのです」

「ならその時点で婚約を解消すれば良かったんだんじゃないか」

「はい。その点に於いてはそうする事が正解だったでしょう。ですがもう1つ誤算があったのです」

「誤算?どんな」

「セレナ様の出来が良すぎたのです。最短でも5年かかる王子妃教育には2年かかりませんでした。一を聞いて十を知ると言いますがその通りでセレナ様はダグラス殿下がすべき執務、政務を難なくこなし、諸外国からの評価も高かったのです。王家は手放せなくなりました」

「なるほどな。そこにダグラスが平民女を孕ませたと?」

「ダグラス殿下の賭博場通いが始まったのは13歳の時からです」

「13歳っ?!そんなに早くから…」

「はい、王家の恥部ですから徹底した箝口令が布かれましたが、賭博は金がかかります」

「まさか…あの悪評は全てダグラスの?」

執事はこくりと頷くがフェルナンドは解せなかった。

「だったら陛下が何とかしただろう」

「本来ならば。ですが出来なかったのです。ただでさえ陛下はダグラス殿下には金を融通し便宜を図って来られたので側妃の実家への体裁もあり、もう肩代わり出来なかったのです。そこで考えたのが経費水増しです。旦那様、国金の経費水増しなどダグラス殿下お一人で出来ると思いますか?」

「出来るわけがない。最終認可は陛下―――嘘だろ?」

「それが事実です。全てをセレナ様に押し付けて万が一の時はセレナ様を処刑台に送る。そこまでが筋書きです」


フェルナンドは力が抜けて崩れるように椅子に座り込んだ。背もたれに凭れさせた体を前に傾ける事も出来なかった。

「ダグラス殿下がエベリー妃との間にお子をもうけました。これでセレナ様に責を負わせることは出来ません。セレナ様を罰してもダグラス殿下の悪癖が改善するとは誰も考えなかったのです。罪を償った者がいるのにまた同じことが怒れば民衆の反発は必至です。陛下はセレナ様を側妃としようとしましたが、今度は議会が反発。次の国王は第2王子が相応しいとなりました。セレナ様は秘密を知っています。だから先代様がお引き受けになったのです。旦那様に爵位を譲り侯爵夫人となれば誰も手出しが出来ません。旦那様にも王位継承権は御座いますからね」

「だったら彼女はただの被害者じゃないか」

「そうなりますね。でも良かったのではありませんか?」

「何が良いと言うんだ」

「立場上侯爵家の人間ですから害が及ぶときはピエロトロ侯爵家が守れば良いのです。今までずっと抑圧されて、一番楽しい時期も奪われたのです。かなり早い余生にはなりますが侯爵夫人としての仕事も免除されましたし、気楽に過ごして頂ければと我々使用人一同は考えております。全力応援で御座います!」

「え?え?…あれ?良いのか?でも後継者とか――」

「必要御座いませんでしょう?覚悟を持って嫁いできた奥様を旦那様が突き放したのですし。それにお子様…ここからは私の主観ですが、旦那様とダグラス殿下は血縁関係が御座います。あんなDVでネグレクトなクズ。この世に必要御座いません。恋心を抱きながらも惚れた女に心からの謝罪も出来ず、愛も囁けないドヘタレが旦那様です。万が一も考えますと、お子様はいないほうがよろしいかと。おっと言葉が過ぎました。私も年ですね。口が滑りました。では他にも業務がありますので失礼致します」

1人残されたフェルナンドは執事を呼び止めようとしたが声が出せなかった。
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