アメイジングな恋をあなたと

cyaru

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毛足の長い絨毯の魅力には勝てない

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「私はこのままロカ子爵家にお世話になると言うのですか?」

それは有難くもあるが、あまりにもロカ子爵家の迷惑になるのではと考えてしまう提案。
しかし、カレドス伯爵夫妻は「是非そうして!」と金のために娘を更なる傷物にしてしまう結婚で物理的にもう傷つけられたくもなかった。

虫のいい話と揶揄する貴族もいるだろうが、領民の命を背負う貴族は時に血を分けた娘や息子も駒として使わねばならない最低限の親心とも言える。

「私としてもか弱い女性が暴力で虐げられる事案を1つでも減らせるのならそれに越した事はない。自分の家だと思って自由に過ごしてくれると更に有難いのだが」

――不自由って…ここには自由しかない気がするんだけど――


どの道3年は大人しく過ごすしかないのだからとアドリアナも了解をし、ロカ子爵家での生活が始まった。


その日からまだ2週間ほどしか経っていないのにどちらが言い出したのか。

ブラウリオとアドリアナの結婚式の日が早まった。
結婚式と言っても教会で華々しく挙げるものではなく、当主同士、そして結婚する当事者が書面にサインをして届け出るだけの簡単なもの。

ブラウリオは2つ返事で了承したと聞いたアドリアナはサインをする署名を持ってきた父の前でしばし考え込んだ。

「どうしたんだい?」
「なんだかなぁと思って」
「結婚式を挙げたかったのかい?」
「そうじゃないの。最初の婚約は宿屋の女の子に取られちゃって無くなったでしょう?で、次はコレ。これで領民は助かるし3年経てば返済の必要もなくなるから領民もその分働かなくて済むし。納得はしてるの。してるんだけどこんな紙切れ1枚で人生って決まっちゃうんだなと思うと随分簡単なんだなって思えるの」

カレドス伯爵夫妻も娘の気持ちが判らないでもない。
夫妻は結婚式は挙げたけれど政略結婚。サインをする時に「誰かが決めた伴侶と誰かが基礎を作った道を歩く人生」で良いのかと考えた事もあった。

それが貴族の生き方と言えばそれまでだが、今回娘の人生を金に換えてしまった罪は一生背負うつもりでも当事者ではないのだから自分たちこそ随分簡単に考えてしまっていたのだと。

迷っていても仕方がないとアドリアナは一気にサインを済ませると「疲れた」と部屋に引き籠ってしまった。

その様子を開けた扉から部屋にも入らずに壁に背を預けて腕を組み、目を閉じて聞いていたアルフォンソはアドリアナが部屋に戻るまで動かずに考え続けていた。

――これでよかったんだろうか――

結局アドリアナの人生に離縁と言う汚点を残すことは回避できなかった。
傍から見ても落ち込むアルフォンソにお節介をさせたら右に出るものはない執事ロカルドはニマっと笑ってサムズアップ。

「なんだ。ロカルド…そんな気分じゃないんだ」
「こんな気分だからですよ。どうでしょう。お嬢様を元気つけるために今夜は使用人も総出で庭で夕食でも」


今は近衛隊に所属をしているけれど、数々の武功も挙げたアルフォンソ。その武功は今も緊張状態が続く国境線での配属になった時に挙げたもの。

その名残が今も残っているので俗にいう「ながら食い」と「早飯」なのであるが、時折使用人全員やその家族も招いて庭で野営の真似事もしてみたりする。

「こちらは参加証を作ってみましたので、旦那様からお嬢様にお渡しください」

お手製の参加証は勤め始めたばかりの使用人や、その家族に手渡すもの。
初めての参加になるとどうしても既に出来上がっている輪の中には入りにくいので紐を付けて首にぶら下げる。そうすると周囲が輪の中に取り込んでくれるのである。

「判った。渡してくるよ」


と、向かったアドリアナの部屋。
以前に運び込んだ部屋ではなく、陽当たりの良い庭がよく見える部屋にしたのだが、この2週間で気に入ってくれたようだと使用人からも聞いていた。

だから、ノックをした反動でゆっくりと開いた部屋の中を見てアルフォンソは目を疑った。

人は嫌な事があると現実逃避をしてしまう事がある。
やりきれない気持ちを発散させるためにアドリアナが行っていたのは…。

アドリアナは寝具にも負けないフカフカで毛足の長いクリーム色の絨毯の上で、手を上に、全身を糸巻きに見立てて右から左、左から右と転がることだったのである。

アドリアナなりの結婚行進曲なのだろうか。

「い~と巻き巻き、引いて引いてトントコトーン♪」
「お、お嬢様っ!!」
「何~。ポリーも転がると無になれるよぅ~」
「そうじゃなくて!お嬢様っ!」

焦るポリーの次にアドリアナが視線を向けたのは閉じたつもりがきちんと閉じておらず、開いてしまった扉。

「え‥‥」とアルフォンソ。
「あ‥‥」とアドリアナ。

もう1段あると思って踏み込んだ階段。周囲の目が気になり誤魔化す心境に近いアドリアナ。

対してアルフォンソは見てはならない物を見てしまい、なんとか「見てないよ」と誤魔化す方法を考えてみるが全く関係ない事を口走ってしまうと相手の傷口を広げかねない。

アルフォンソに考える余裕があったのは、それが体内ガスの放出ではなかった事だろう。
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